2017年12月5日

「みのりwith Honda耕うん機F90」をプロデュースした高久さんに聞く新境地を拓いたガールズ&テーラーな世界

初体験だぞ耕うん機とのカップリング

初体験だぞ耕うん機とのカップリング 「みのりwith Honda耕うん機F90」をプロデュースした高久さんに聞く新境地を拓いたガールズ&テーラーな世界

■文:阿部正人 

『やっぱし、○○○だべさあ』と感嘆するかつての人気アイドルが出演した某田植え機のテレビCMを思い出したりした。甘い追憶はオジサンの世代だけかもしれないけれど、キュートな女の子と農機の”躍動感”にときめく。おおっ。ショルダーベルトを外してのタンクトップもあり。女の子と耕うん機の物語が20分の1に凝縮される。この耕うん機の出現が、実は、かのヒットCMより遥か昔の製品であることにも驚いた。 

みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90

「まず人ありきで、機械を絡ませて出来上がる世界を創作してみたのです。フィギュアがポツポツと単体で存在するだけでなく、ふたりが寄り添うことで広がる動きや世界観が狙いでしょうか」

 プラスチックモデルチームの高久裕輝さんは、女の子と耕うん機の組み合せに至る想いを話してくれた。秋葉原・末広町交差点近くにあるフィギュアメーカーのマックスファクトリー本社()。題して『みのりwith Honda耕うん機F90』は、同社の1/20スケールプラスチックモデル、minimum factoryシリーズ新作だ。1階では、ちょうど創業30周年を記念するイベントが行われ、同社の歩みを伝える人気フィギュアたちが一同に展示されていた。その入口には、なんと実物のHonda F90が横付けされていた。

「プラスチックモデルを手がけたのは2013年、プラスチックモデルのフィギュアは2015年なのでまだ駆け出しです。これまで、アニメやゲームの人気キャラクターとオリジナルフィギアの単体が中心でした。そこで、新しく、人とメカによる空間づくりをテーマに考えようとなりました。戦車なら兵士、バイクならライダーなどが一般的ですが、新鮮味が欲しい。今までにない斬新な発想のメカを探っていました」

 フィギュアとメカの趣向をあわせて物語の創作をする。この場合、双方の大きさのバランスが重要なのだという。スケール化されることで大小の関係が浮き彫りになると高久さん。フィギュアを喰うことのないメカの”適宜なサイズ”が大切なようだ。

「たとえば、クルマと人では、クルマが大きくなりすぎて人が添え物的に見えてしまう。これでは車種の方に興味の視点が絞らてしまい本末転倒です。『次はどの車種を出すの?』というカーモデラー的な視点が強くなってしまいます。メカは、大き過ぎず小さ過ぎず、操作する人の姿が押し出されるような機械を探しました。20分の1ですと、フィギュアの身長が8センチから9センチ、これを圧倒しないこと。さらに組み立てるメカニズムが面白いかどうか。そうこう思案している時、以前より気になっていた耕うん機を持ち出したのです。これならサイズ感が手頃だし、剥き出しのメカらしさを出せるのではと考えました」

 新しいモチーフの”狙いどころ”について、高久さんはさらに、耕うん機がプラスチックモデルになるという意外性を強調する。自身がそうでもあるモデラーとしての心理面をよむ。

「プラスチックモデルというのは、次になにが出るだろうという期待感にも大きな価値があります。どなたも耕うん機のプラスチックモデルを作った体験がない。厳密には、以前にHondaのF150という耕うん機がモデル化されたそうですが、主に販促用に開発されたものだったと聞いています。そこを敢えて一般市場向けに作るという驚きがあるし、未知のメカを一度は組むことで機械の構造を知りたいという気持ちがプラスチックモデルファンにはあります。新しいジャンルへの期待感は、フィギュア好きだけではなく、クルマ、バイク好きにも解ってもらえるはずだと」

 フィギュアのイメージをプラモチームよりイラストレーターに発注(今作品は人気作家の山下しゅんや氏が描く)、みのり嬢の全体像や装い、表情などが出来上がる。お相手は1966年製のHondaF90。最大9馬力で、479cc空冷4ストロークVツイン・ディーゼルエンジンを搭載。大型モデルでありながら、Honda独自の新しい機構を備えることで女性でも扱える革新的な存在だった。高久さんは、もともと耕うん機に詳しいわけではなかったという。しかし、このF90だけはずっと気にかかる存在だった。さらに2013年のモーターショーになぜか展示されていた実物の写真を見て、一目惚れしたそうだ。

「50年も前に、これだけのシェイプを考案したことに驚きました。現役当時の耕うん機を含めて新旧の車型を調べてみると、どれも四角四面の角張ったデザインばかりでした。そのなかでF90だけが明らかに違うベクトルを向いていた。これなら、女の子のやわらかい曲線とも、違和感なく馴染むのではないかと感じたのです」

 プラスチックモデル化をHondaに打診してみたのが2017年2月。フィギュアをメインに発動機とのコンビで世界を創るというコンセンプトが評価されて快諾を受けた。タイミングよく、Hondaは今年パワープロダクト(汎用製品)部門では、事業の再編成やビジュアル・アイデンティティの変更などが行われ、イメージアップのためのテコ入れのような追い風もあってか、計画はとんとん拍子に進んだ。しかし、軽いノッキングもあった。F90の図面がなかったのだ。

「知った時はショックでした。でも51年前ですから致し方ないところですね。図面がない、説明書がない。動かし方も解りませんから、イチからいくしかない。もてぎのHondaコレクションホールの実車を、取材、採寸することから始めました」

 実車ととことん向き合うことで、解らなかった仕組みや操作方法を理解していく。プラスチックモデル製品づくりの醍醐味のひとつなのだと察する。壁を乗り越える過程を話す高久さんの表情がイキイキしてくるからだ。

「改めて、F90をデザインした当時のデザイナーさんの思い切った発想を感じ取れたと言いますかね。大きくて、大馬力。しかも、ぼくの想像ですが、女性に受け入れやすいカタチや使い勝手を徹底的に研究したと思うのです。農業を変えるだけでなく出稼ぎで男手の少なくなった農村のイメージを少しでも明るくしようとした意志が感じられる。Hondaさんの担当の方から伺ったのですが、当時は耕うん機のデザイナーさんはいなかった。そこで二輪のデザイナーさんが指名されたそうです。2013年のモーターショーで、現在と過去のHondaの耕うん機を展示されたのでしょうけれど、F90は年月をまったく感じさせませんでした。実際、今年の静岡のホビーショーでもF90を展示させていただきましたところ、『最新の耕うん機って、こんなにかっこいいんですね!!!』とたくさんのお客さんから言われたほどです」

 耕うん機の過去を遡り、卓越したスタイルになった理由や、エピソードに触れる。二輪、四輪なら比較的よく語られるような開発秘話も、これが汎用製品になると、よりマニア性の高い付加価値を増してくる。フィギュアやプラスチックモデルなどの特別に趣味性の高い製品には大きなメリットでないか。もっとも、そんな流麗なフォルムの耕うん機ゆえ、プラスチックモデルにする製作上の難しさはあったようだ。

「前半部は、カバーなどもあってインパクトのある押し出しやボリューム感など、プラスチックモデルにしやすいスタイルだと思います。しかし傾斜した前面から背面、そしてハンドルへとつながって流れていく”ライン”をうまく表現することが難しい。実物のタンクの上部はスタイルを優先させたダミー(カバー)なのですね。遊び心が盛り込まれている。ディフォルメらしい作業はしてませんが、このあたりのラインを、シンプルな曲線図面に起こすとあまりにも無機質だったので、よりキャラクターが出るよう何度か修正しています」

 後半部は、一転して緻密と繊細が構えていたという。ハンドル、レバーなどの操作系、ロータリー部など専門機器としての部品が密集する。土を耕すツメが細かい。しかも配置が等間隔ではない。全体の前と後が、対照的に変化するシルエットといえる。

「どこまで細かくするか? 設計の仕分けが難しい。現物を見ながら、見よう見まねで進めましたね。実機同様にしようとすれば部品点数が果てしなく増えてしまうし、悩みどころでした」

 結果、パーツはできるだけ抑えることで40数点。商品のパーツは5色に分けて成形し、パッケージされている。

「ぼくは、飽きっぽい性格。その日のうちにバシっと組み立ててしまいたいタイプです。ああ面白かったと、完成の達成感を味わう。とくに、この20分の1シリーズは、よりそんな簡潔な主旨がいいのだと思うのです」

 こうして、完成品に近いモデルが出来上がったところで、Hondaに見せにいった。評判は上々だった。

「嬉しかったのは、”最初からこんなにいいモノを作るつもりだったのですか!”と驚いていただけたことです。これは、推察ですが、Hondaの方々は、普段、二輪、四輪の監修をされてきたが、初めての耕うん機ということで、どんなものが出来上がるか不安だったのだと思います。そこを払拭できた。喜んでいただけたというのは、ぼくらのチームが狙ったところでもありました」

 あまりの出来映えに、ホンダの役員室にぜひ展示したいという話もあるんだとか。市場の反応を裏打ちする評価は、試作品の公開時にも現れた。”つかみ”を感じたという。二輪や四輪のファンからも、20分の1スケールに対する質問を受けたが、コンセプトは明確に伝えられたそうだ。

「クルマなら24分の1、バイクなら12分の1といった定型に基づいた価値観やマシンのディティールは、確かにあると思います。でも箱形のモチーフが得意なメーカーと同じことをするとその出来栄えは比べられるでしょうし、メーカーごとにそれぞれの持ち味を出せるフィールドは趣向が違ってくる。ぼくらは、20分の1で醸し出す世界観で勝負していこうと思います。耕うん機ならまず『次はどの機種を出すの?』と尋ねられないでしょうし(笑)」

 あえて、F90の次は?、と前置きして、閃いている対象があればと、聞いてみた。

「汎用製品は、これまでにない魅力的なジャンルだと思います。たとえばですが、同じホンダの汎用製品では除雪機も魅力的なんです。適度な大きさと、メカニズム、ロータリータイプは左右非対象なのでデザインも面白い。なにより、カタログ写真ではどれも微笑んでいる女の子が操っているんです。雪国のファッショナブルな装いのフィギュアというイメージも湧いてきますよね」

 人がいて、メカがいて、動きが生まれて、物語ができる。あったらいいなの光景が広がる。そして、作り手にはメカニカルな手応えもあって。それぞれが集まることで、輝きを増していくマックスファクトリーの20分の1ワールド。これは、もの作りの楽しみの原点でないだろうか。新たな世界の出現に、大きな期待が膨らむ。

高久裕輝

プラモデル専門誌の編集者から転職した高久裕輝さんだけに、インタビューも論旨明快。タイトルカットの撮影時も、こちらの意図を汲んでポージングも決めていただいた。ありがとうございました。

2013年の東京モーターショー

2013年の東京モーターショーのHondaブース。F90は写真の左下に小さく写っている。テーマは「枠にはまるな」。耕うん機の枠にはまらないということでF90が展示されたようだ。

テストショット

■今年5月に開催された静岡ホビーショーで発表されたテストショット。まさかの耕うん機&美少女フィギュアのコラボ共に、このときも展示された実物のF90のデザインが大きな話題となった。

F190のプラモデル

Hondaの耕うん機F190のプラモデルは、1962年頃にスーパーカブやRCレーサー(RC162?)、ドリーム号(共に車種は不明)と共に、主に販促用として販売された。F90は耕うん機のプラモデルとしては2作目? 写真は当時の社報より。

ヤマハ ナイケン

■今年5月に開催された静岡ホビーショーで発表されたテストショット。まさかの耕うん機&美少女フィギュアのコラボ共に、このときも展示された実物のF90のデザインが大きな話題となった。

マックスファクトリー設立30周年オメデトMAX展示会

マックスファクトリー設立30周年オメデトMAX展示会

2017年11月10〜19日、同社1階でマックスファクトリー設立30周年オメデトMAX展示会が開催された。同社の作品が一同に会するという、たいへん貴重な機会に、多くのファンが訪れた。すでに終了しているが、30周年スペシャルサイトでは特別企画が進行中。

F90

F90

その展示会のエントランスに展示されていたのが、F90と『みのりwith Honda耕うん機F90』。F90はHondaコレクションホールの収蔵品。貴重な実物との対比で、作品のリアルさがより伝わったことだろう。

フィギアシリーズ

フィギアシリーズ

同社の主力商品、figmaシリーズは1/12の完成品フィギュア。関節可動フィギュアの代名詞として人気商品となっている。

みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90

みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90

みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90

ホンダディーゼル耕耘機F90

「PLAMAX MF-21 minimum factory みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90」は、1/20スケール。F90の全長は約100mm、みのりちゃんの全高は約90mm。先鋭的なフォルムを見事に再現している。みのりちゃんの上半身は、オーバーオールとタンクトップの選択式。麦茶のボトルやヤカン、麦わら帽子といった小物も泣かせる。価格は3980円(税別)。発売は2018年3月頃を予定。

みのり(仮)withホンダディーゼル耕耘機F90

ホンダディーゼル耕耘機F90

【Honda ディーゼル耕うん機F90】1959年にHonda初の耕うん機であるF150が登場。扱いやすさから大ヒット、以降バリエーションモデルが次々に投入される。1966年に折りたたみ式ハンドルの超小型機F21(耕うん機としては世界初のOHCエンジン搭載)と共に登場したのがF90。搭載したエンジンは、30を越える特許が盛り込まれたHonda初となる空冷ディーゼルエンジンGD90。V型2気筒479ccで、9馬力と強力機であった。セルスターター、油圧クラッチなどを標準装備、操作系は手元に集中されて扱いやすく、類を見ない美しいフォルムやデュアルヘッドライトなどにより「耕うん機のロールスロイス」とさえ呼ばれた。1968年に10馬力にパワーアップしたF100(写真右)へとモデルチェンジしたが、美しいスタイリングはそのまま継続されている。

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