2019年1月24日

第78回 海外編第25章 家路

第78回 第25章 家路

 
首の痛みで目が覚めた。椅子に座った姿勢で寝るというのはやはり無理がある。目の前のモニターで飛行機の現在地を見てみる。あと少しで日本の上空にさしかかるところだ。やっと戻ってきた。行きの道中で感じていたドキドキ、ワクワクな感情はまったくない。何もかも勝手知った自国への帰還なのだ。それも当たり前である。

しばらくして昼食の時間となった。これが最後の機内食である。メニューはピラフとフィッシュorチキン。そしてハーフサイズの焼きそばがついている。オレはチキンを選んだ。味はテリヤキだ。時間をかけてゆっくりと味わう。
焼きそばが実にウマい! やはり日本のB級グルメは最高だ。目新しいものにトライするのもいい経験にはなる。だがやはり食事は慣れ親しんだものが一番である。機はすでに日本の領空内を飛んでいる。成田は近い。
シートベルト着用のサインが出た。いよいよ着陸である。高度はどんどん下がっていき窓の外には日本の景色が見え始めた。季節は梅雨真っ只中のはずだがこの日は晴れている。

成田空港が見えてきた。機体は着陸の体制に入った。さらに高度は下がり滑走路が目の前に迫る。そして着陸。
オレ達を乗せたジャンボ機は無事、日本の地に降り立った。時刻は17時半。10日ぶりの日本だ。飛行機を降り、ターミナルへと向かう。中に入ると最後の手荷物検査が行われた。
成田での検査は外国からの観光客と帰国した日本人とを分けて行われていた。何の問題もなくオレはゲートを抜け空港ロビーへと向かった。ロビーの中はかなり混雑している。
お馴染みの宅急便の看板に大手フランチャイズの飲食店。よくある日本の光景だ。それを見ているうちにまた妙なムカつきというか、苛立ちのようなものがこみ上げてきた。ドバイ空港でも感じたあの嫌な感じだ。
オレは人混みが大嫌いだ。基本的には誰もいない空間に独りでいる事を好む。
スポーツでもチームプレイは苦手だし車よりもバイクの方が好きだ。
だが今のこの感じはそれとはまったく別のところに起因してる気がする。行きに立ち寄った空港でもマン島でも常に人は多かった。大混雑といっていいほどに。にもかかわらずオレは自分でも意外に思うほど平気で過ごしていた。同じ人混みでも何も知らない初めての場所と勝手知ったホームのそれとではこれほどまでに感覚が異なるという事なのだろうか。

まぁそれについてはまた暇なときにでもゆっくりと考えればよかろう。何はともあれ無事に帰ってきた。人生初の帰国である。オレは船橋の友人に連絡し無事、成田に着いたことを伝えた。これから迎えに来てくれるという。実にありがたい。それまでの間、スーツケースを自宅に宅急便で送ったりマン島でまったく役に立たなかったWiFiのルーターを返却したりとオレは空港ロビーの中を忙しく動き回った。
送るものを送り、返すものを返して身軽になるとなんだか急に体の力が抜けていった。もう立っているのもしんどい。1時間ほどして友人が到着した。車に乗り込み彼の自宅へと向かう。船橋に着くまでの間、オレは車の中でぐったりしていた。
その途中、友人が「何か食べたいものある?」と聞いてきた。
本来なら待ってました! となるはずなのだがオレの口から出た返事は「何でもいいっす。」
投げやりというのではなく頭が働いていない。
それに本当に何でもいいような気がしていた。

友人の家に着き、荷物を置いてオレ達は一番手近なところで彼のマンションの真向かいにあるフランチャイズの中華を扱うファミレスに入った。席についてメニューを広げる。
うわぁ、キレイだ。メニューごときに感動している自分が不思議だった。オレはチャーハン、餃子、エビチリに麻婆豆腐と手当たり次第に注文していった。
出てきた料理を前に友人とビールで乾杯しその料理の一つ一つを口に運ぶ。たかがファミレスの中華が感動的な美味さである。ビールも乾いた喉に染み渡る。これに比べたらマン島の地ビールは汚水だ。食い物はゴミだ。
いや、ちょっと言い過ぎたか。オレとしたことが取り乱してしまった。
だがこうして日本の飯を前にすると今さらながらにマン島で出会った食べ物に腹が立ってくる。オレは一心不乱に目の前の料理を胃に収めていった。

マンションに戻りシャワーを浴びた。その後、ベランダにでてタバコを吸う。
外はすっかり夜の闇に包まれている。9時を回っているのだから当然だ。マン島ではこの時間で昼間のような明るさだった。いやぁ~、日本だねぇ。
一服を終え、友人が用意してくれた布団の上に倒れ込むようにして横になる。横になったとたん一気に意識が遠のいていった。
この夜はとにかく寝た。ぐっすりと寝た。たっぷり寝た。夢一つ見なかった。泥のように眠るとはまさにこの事だろう。寝起きの気怠さもほとんどない。体は軽く、頭もスッキリしている。やはり人間には美味しい食事と質のいい睡眠が必要だ。マン島ではそれが決定的に足りていなかった。オレは友人の出勤時間に合わせて一緒にマンションを出た。

最寄りの駅まで一緒に行く。駅では朝の通勤ラッシュが始まっていた。
この後オレは来た時と同じ道筋をたどりながら自宅へと向かった。
たっぷりの土産話と土産を引っ提げて行きに立ち寄った友人宅に寄り道しダラダラと。
神戸までは新幹線を利用しその神戸からは友人が車で送ってくれるというのでそれに甘えさせてもらった。
日本語で書かれた標識がそれぞれ岡山に近づいていることを知らせてくれる。
岡山に入り最寄りのインターチェンジを降りて国道を走る。さらにそこから外れ、田舎道を15分ほど走るとついに我が家が見えてきた。
帰ってきた。
住み馴れたマイ・ホーム。過去にも数えきれないほど旅に出ては帰ってきた。
離れていた時間が長いほどその感慨は深い。以前、なぜ旅をするのかというテーマで誰かと語り合ったことがある。その時オレはこう答えた。
「帰ってくるためさ。」と。もちろんまだ見ぬ景色や予期せぬ出会いなどに対してドキドキするのも醍醐味だろう。だがそれと同じくらい疲れ果ててホームに帰ってきた時の安堵感がオレは好きだ。だから旅に出るのだと。帰ってくるためには出ていく必要があるのだ。
当たり前だと言うなかれ。これは実に奥の深い境地なのである。

愛しの我が家は何一つ変わらぬ佇まいでオレを迎えてくれた。心の中で「ただいま。」とつぶやく。だが・・・戻ってきて最初に腰を落ち着かせるのはここではない。オレはすぐさま軽トラに乗り換えて自宅から見える山の方へ向かった。そこにあるのは壁から屋根まですべて分厚いコンクリートで作られた怪しいシェルター。
そう、オレのアジト“狼家”だ。隠れ家、もしくは秘密基地といってもいい。
扉を開けるとそこにはオレの愛するバイクたちが静かにオレの帰りを待っていた。
お待たせ。近々、走らせてやるからもう少し待っていてくれ。なんせマン島帰りである。幾らかでも気持ちを落ち着かせないと事故ってしまいそうだ。
オレは椅子を取り出し建物の外で腰を落ち着かせた。周囲を見渡すとそこには田舎特有の田園風景が広がっている。マン島の景色に比べたらそれは極々、規模の小さなものである。
だがそれでいい。これがオレの日常の景色だ。今年は梅雨に入ってほとんど雨が降っていないせいでオレの留守中、建物のまわりの雑草は思っていたほど伸びていなかった。それでも明日から少しずつ片付けていかなければならない。我が人生において最大のスケールとなったマン島の旅は長い旅路の果てに終りを告げた。しかしこれは序章に過ぎない。オレのワールドツアーは始まったばかりなのだ。次の行き先もすでに決まっている。追々、その準備に追われることになるだろう。だが・・・今しばらくは自分のささやかな日常を楽しみたい。


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳・職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。


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