バーチカルツインよ再び。W650開発者インタビュー

数値化が難しい感性の部分のチューニングもこだわりのひとつ

濱矢:音もかなり重要な要素だと思います。新しい試みなどはありますか。

渡辺:「エンジンの音を小さくするノウハウはありますが、完全になくすとこのクルマには合わないでしょ。例えばベベルギアが出すバックラッシュだって最初作ったときはカタカタというし、締めるとキューンとなる。その音の間をとるのにも気を遣いました。エンジンが温かい時、冷えている時それぞれ聞きやすい音にしなければいけないですからね。そりゃあ普通なら聞こえない方がいいのかもしれませんが、それじゃあ面白くない。“これはベベルギアの音ですよ”と出したかったんですよ」

真田:「やっぱり音をどう出していくかこだわりましたね。試作エンジンは排気音や鼓動感もまだまだでしたが、最終的に排気音も規制値内に煮詰めて決めたんです」

濱矢:鼓動感については?

渡辺:「試作したエンジンはパワーはあるけど回転の上がりが良すぎた。やっぱりツインらしさとはゆったりとドッドッドッというイメージがありましたから。360度クランクははじめから決まってましたけど、その中でどういう味付けをしていくかでカムを触ったりしてみたのですが、やはりフライホイールマスがいちばん効きました。経験上、フライホイールマスが大きい方が鼓動感を出すにはいいだろうと解ってましたから、これ以上は必要ないだろうというサイズを使ってみたんです。結果それでも物足りなくて、さらに大きくしたんですよ」


最も実車に近い段階で描かれたデザインスケッチ。生産型は制動力の問題からブレーキキャリパーは2ピストンタイプを使用。

真野:「車体からみれば振動があったら困るというか、振動を車体になんとか伝えたくないと考えるのが普通ですが、それはW650には当てはまりません。鼓動感を出すために大きな振動は伝え、不快に感じる細かな高周波は伝えないということで試行錯誤しました。ラバーマウントを使ったりしてエンジン搭載方法を工夫しました。シート、ハンドル、タンク、ステップと人間が触れるところすべてで不快な振動を抑えながら、鼓動感を感じる大きな振動だけを心地よいレベルで伝えようと。スーパースポーツを作るより苦労したかもしれません」

真田:「感覚をカタチにする難しさが沢山ありました。どこを、どうすれば気持ちいい鼓動になるか徹底してこだわったんです」

濱矢:クラシカルなデザインはW650の主なテイストですが、初めから考えられていたのですか。

猪野:「デザインは最初からクラシカルの方向で決まってました。方向性に迷いはなかったですね。ミドルクラスよりは価格がちょっと上になりますから、ある程度は高級感や所有感を感じられるような要素を入れておかなければならないということで、エンブレムやカラーにも気を遣いました。メッキなどで目立たせるよりちょっとシックにしたかった。だからフレーム、ライトステー等やシリンダーを黒くしたんです。前のホイールも外観のバランスを優先して、18インチでは後輪とのバランスが悪いので19インチにしました」

真野:「だからその19インチに合うように車体も対応したんです」

猪野:「最初のデザインスケッチではもう少しスイングアームは短かったんですよ。後輪の真上にライダーが載るイメージです」

真野:「でもそれでは目標とする走行性能の確保が困難でしたので、デザインスケッチを切った貼ったして、ずらして見た目がおかしくないか確かめながらディメンションを決めていきました」

濱矢:カワサキのオートバイとして機能を譲れないところもあると思います。あきらめたことなどもあるのではないですか。

猪野:「フロントブレーキは最初はドラム。僕らはドラムで行こうと絵を描き始めましたけど、ムリだと言われまして(笑)」

真野:「これは650でスピードも出るからとてもドラムじゃムリだと。シングルピストンのキャリパーも考えましたけど、求める性能に見合うものがないということでダブルピストンになりました」

W650の今後の展開は?バリエーションは?

濱矢:4年目を迎えた今の目で見るとこうしても良かったと思うところはありますか。

渡辺:「これは今言っていいのか判らないけれど、エンジンに関しては、フライホイールマスが思ったよりたくさん必要だったのでジェネレーターカバーが大きくなってしまったんですね。これを初期の段階からもう少し詰めておけばね。もう少しクランクケースが大きくても良かったんじゃないかと。そうするともうちょっとすっきりと見えたかなと思ってます」

猪野:「う~ん、これは個人的な考えになりますが、僕はもう少し質素なモデルがあってもよかったかなぁと。豪華なエンブレムや塗装は控えめにしてもう少し値段を下げて、もっと手の届きやすいモデルがあってよかったかなと」

真野:「最低限の装備にして、価格を抑えた250TRの大きいのみたいなモデルもバリエーションに入れれば、ユーザーの選択権も広がるでしょうね」

クレイモデルにエンブレムなどの装備を付けるとより実車の雰囲気が出てくる。実車とはエンブレムが違う。

真田:「お客さんの話を聞いたらですね、Wが好きだから新しいWに乗るという人もいるんですが、スポーツモデルやクルーザーからの乗り換えという違うカテゴリーから来た人も結構いるんですよ」

猪野:「こういうオートバイの旧車は怖くて買えないけれど、新車だったら買ってもいいなという40代から50代の人や、その時代を知らないもっと若い人たちにも、安い仕様があったら取っつきやすいですからね。あっても面白いのではと思います」

濱矢:W650は海外でも販売されているますが、評価はどうですか?

真田「ヨーロッパでは比較的人気が高いですね。日本と同じくらいかな。アメリカにもカタチはあのままで出してますけど、日本ほどの人気はないんですよ。やっぱり日常で使うには、交通事情的にもう少し排気量がないとキビシイのではないでしょうか」


実物大で作られたクレイモデル。あとは感性に導かれるように、少しずつ削って狙った形に仕上げていく。

濱矢:将来的にもっと排気量をアップして発展させる可能性はありますか。

渡辺:「最初からそういう話はあったことはあったんです。トルクの面でもやはり排気量は効きますから。現状でもそういうことができるポテンシャルを持たせて作りました。大きな声では言えませんが、あのエンジン外形のままでもっと大きくする余裕があります」

猪野:「そうすると外観が変わってくるんです。エアクリーナー容量を大きくしないといけない。マフラーも大きくなってしまうから今のバランスが崩れてしまうんです。人それぞれですが、トライアンフが650の時はかっこよかったけど750になったら変わってしまったでしょ。Wも650だからあのスタイルが出せたんです」

濱矢:例えばは違う車体を用意するようなことは考えられませんか。

真田:「このエンジンは他の車体に使うのは難しいんですよ。このカタチにこだわったエンジンだから他になかなか使えないんです。個性が強いですからね」

濱矢:2001年の東京モーターショウに出品されていたスクランブラーモデルのようなものがあったらいいなと、いう人も少なくないと思いますが。

真田:「あれは遊びで作ったモデルなんです。もう出来てるじゃないかって(笑)。社内でも、な~んだもう出来ていたのかなんて言われます。まあ、あれはいろいろなアイデアを具現化したひとつのモデルですからね。反響はいいですよ。去年のモーターショウに250TRを使ったカフェレーサー仕様というのもありましたけどね。いろいろお客様の声を聞いて、どういうモノがいいか常に模索しています」


クレイモデルにエンブレムなどの装備を付けるとより実車の雰囲気が出てくる。実車とはエンブレムが違う。

濱矢:最後になりましたが、バーチカルツインの未来についてどうお考えですか。

真田:「今だとバーチカルツインは知る人ぞ知るみたいなところがありますからね。40代以上だったら知っているでしょうが、いちばん元気のある30代の人たちはスポーツマルチエンジンで育ったので、ツインを知らないと思うんですね。だからWですよ。一度乗ればその良さが解るはずです。もちろんもっと若い層にもバーチカルツインは新鮮できっと面白いはず。シングルの次はバーチカルツインでしょう。バーチカルツイン同士でロードレースというのも面白いと思うんですよ。だからもう少しスポーツ指向のバーチカルツインがあってもいかなぁと思います」

猪野:「私はバーチカルツインに思い入れがあるんです。持論ですがバーチカルツインが流行る土壌というのはイギリスと日本しかないと思うんです。それは国土の大きさ、景色、気候など含めて大型ツインがいちばん合う環境はこの2カ国だと。大型4気筒は速くていいのですが、楽しめる範囲が狭い。ちょい乗りからクルージングまで全ての要素で楽しめるのはツインじゃないかと考えます。日本中どこに停めても走っていても絶対に絵になりますから」 (おわり)


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