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KTM JAPAN

 
実は最強!? 超絶バランスバイク「390」

 数あるKTMラインナップで、個人的に390は非常に優れたバランスをもった、実はベストチョイスな一台なのではないかと思っている。発表時にプレス向け試乗会があったのだが、軽量車体に375ccのパワフルでスムーズなシングルの組み合わせは楽しいだけでなく、上位機種である690も場面によっては追い回すことができてしまうほど高い能力を持っていることを見せてくれたのだ。それに加えてしなやかなでコンパクトな車体が自信を持って扱える気持ちにさせ、おっかなびっくり感が少なく積極的なスポーツ走行をしようという気にさせてくれた。
 
 そんな390、他のスモールDUKEシリーズ(390以下)同様にネイキッドスタイルのDUKEと、フルカウルとよりスポーティなディメンションやライディングポジションをもつRCとの二本立てラインナップ。いずれも美点はあるが、単純に言えばアップハンとセパハン、ネイキッドとフルカウルの違いであり好みで選んでいいだろう。
 
 サーキット走行をするのであれば、ポジションやカウルの有無からRCの方が適しているようにも思えるが、小さ目のコースならばアップハンで軽量なDUKEの方に分があるような気もするため甲乙つけがたい。いずれにせよ非常にバランスが良く、そしてスポーティな走りを楽しみやすいバイクだけに、KTMが積極的にレースイベントを展開する中で390も対象としたクラスを用意するのは、ある意味当然のことなのだろう。

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コンパクトでしなやかな車体に38馬力のシングルエンジンを搭載するRC390ベースCUP車両。写真は決勝で雰囲気がつかめてきて、予選タイムを2秒上回ることに成功した筆者。

 
筑波パドックはKTM祭り。その一員となれる嬉しさと一体感

 筑波サーキットでレース初心者でも楽しめるイベントレースとして開催される「筑波ツーリストトロフィー」。今回のRC CUPへの参戦は、年間3回行われるこの筑波TTの2戦目と同時開催されたRC CUPの4戦目で、KTM関連レースはKTM車ならば排気量問わず参戦可能なKTM CUP、筆者が参戦したRC 390 CUP with METZELER、RCに限らず390 DUKEも参戦可能な390 CUP with METZELER、そして耐久レースのKTM ENDURANCE CUPの実に4カテゴリー。この他シングルクラスには大量の690 DUKEが、ツインクラスにはRC 8が、エキスパートクラスにはRC 8やSUPER DUKE Rなどが参戦しているため、当日筑波のKTM率は非常に高く、ホスピタリティブースも充実していた。
 
 大きなオレンジのテントが連なるところに陣取れる幸せは、レース初心者こそありがたいものだろう。イベントレースといえども最初は居場所を見つけにくかったり、作法がわからず、他の参戦ライダーと打ち解けるのにも時間を要したりするもの。しかしKTMで参戦すればおのずとこのホスピタリティブースにて他のKTMライダーと接する機会が生まれ、たとえ初めての参戦でも仲間意識と安心感に包まれる。これはレースを楽しむうえでとても大切なことであるし、こういった活動によりレースへの門扉を広げてくれているKTMは素晴らしいと思う。とりあえずKTM車を持っていれば飛び込んでいける、そんな体制が整っているのだ。

今年は唯一となった全戦フル参戦中の服部選手。筑波は初めてというのに好タイムを連発し将来のポテンシャルを感じさせた15歳。 RC CUPは390 CUPと混走で、44馬力車両やアップハンのDUKEなどが皆一緒に走っている。390 CUPはノーマルクラスとストッククラスに分かれ、中にはチューニングが進んだ車両も。

 
390カップが2種類?「日曜」と「世界」がその違い

 では今回参戦したRC CUPとは? 実はRC CUP と390 CUPという二つのカテゴリーがあるため、ちょっと混乱してしまいがち。わかりやすく説明すると、390 CUPの方はサンデーレーサーのためのエンジョイレース、RC CUPは19歳以下を対象としたレースで年間チャンピオンになればヨーロッパで行われる「レッドブル・ルーキーズカップ」へ招待されるという、実はとてもまじめなレースなのだ。390 CUPの方は誰でも390(DUKE or RC)ならば参戦可能で楽しくレースできるが、今回筆者が走ったのはRC CUPの方のためもう少し詳しく説明しよう。
 
 RC CUPではイコールコンディションを徹底するため、参戦車両はCUP車と呼ばれる、KTMが用意する専用車両を購入しての参戦となる。これは基本的にはRC 390なのだが、前後にフルアジャスタブルのサスペンションを備え、そして他にもレバーやステップ、マフラーなどが変更されたコンプリート車。車体周りの運動性はスタンダード車に対して向上している代わり、エンジンは44馬力からCUP車専用の38馬力に抑えられている仕様だ。なおタイヤもメッツラーのM7RRが指定タイヤ。メッツラーの中で一番のハイグリップというわけではないが、軽快なハンドリングやドライグリップは高いレベルにあり、さらにウェットコンディションにも対応するオールマイティなタイヤでランニングコスト低減にも一役買っている。これらレギュレーションにより、あくまでイコールコンディションの中、ライダーの能力だけで世界行きの切符を勝ち取ってもらえる設定なのだ。
 
 日本で、世界をめざしてレースをやっていくとなると、これまではなかなかわかりにくい部分もあっただろう。どこに出場して、どのチームに所属して、どれぐらい速ければ世界に行けるのか……。わかりやすい答えを持っている人は少ないように思う。しかしこのRC CUPならば、KTMのもつヨーロッパとのパイプも生かし、「日本で勝てば世界へ挑戦する権利をあげる」とシンプルな道筋を示してくれている。もちろんそこから先はヨーロッパで力を見せることができるか、もしくは自分でパイプを作れるかなどが重要になるだろうが、少なくとも最初のレールは敷いてくれるのだからありがたい。「世界をめざしたい」と思っている若手ライダーにとってはいいチャンスだろう。
 
 そんな本気なレースに自分が参戦していいのだろうか? とも思ったが、今年はこのレースがスタートした初年度で参戦者が少なく、盛り上げの意味で! と誘っていただいたのだ。

パドック内に展開されたKTMのホスピタリティブースは巨大なもので、KTM車で参戦する人にとっては心強いオアシス。ライダー相互の助け合いや、KTMからのスポーツドリンク提供など、楽しくレースをできるようなサポートが行われていた。 こちらがCUP車両で、CUP参戦にはこの車両を100万円で購入することになる。車両の他にヘルメットやオイルのサポートもあり、世界を目指す車両としてはリーズナブルといえるだろう。
CUP車両は前後のサスペンションにWPのフルアジャスタブルを備え、各種セッティングに幅広く対応。またフォークは純正のものより剛性も高く、走りのポテンシャルは高い。マフラーはアクラポヴィッチのスリップオンが装着されるが、エンジンは38馬力に抑えられたものとなっている。

 
 
大ブーイングの予選→タナボタ決勝!

 そんなわけでKTMジャパンの広報用CUP車両を用意していただき、急遽参戦が決まったこのRC CUP。筑波サーキットはあまり得意ではないが「軽い気持ちでイイですよ、楽しんで走って下さい!」とKTM関係者に誘われ当日ノコノコと現れると、用意された車両はタイヤウォーマーを巻かれた超戦闘態勢の車両で自分の呑気さが少し不安になる。しかし先述したホスピタリティブースには他のKTM車両参戦者が皆でワイワイしており、そのフレンドリーな雰囲気に一安心。
 
 690やRC 8 R、1290 SUPER DUKE Rなど周りにあるバイクを「いいなぁ!」「いいなぁ!」と見回した後、ライバルとなる390チームを視察。直接のライバルとなるのは同じRC CUPにフル参戦中の服部選手。なんと15歳で、今シーズン全てのラウンドにフル参戦しているのは彼一人だという。マシンは当然同じCUP車両だが、歴戦(転倒)の痕もありすでにタダモノではない感を醸し出していた。KTM関係者に「彼は筑波は初めてだから、引っ張ってあげてね!」などと言われたが、とんでもない、勝てる気がしない。
 
 RC CUPと390 CUPは混走で、まずは予選。足周りのセットアップがわずかに硬い気もしつつコースインすると、周りのライダーの速さに唖然とする。直線ではやはり44馬力のSTD車が速く、それでいてコーナーではCUP車の優秀な足周りを活かす技術がライダーにない……。引っ張ってあげないといけない服部選手は初めての筑波でいきなり10秒台を出している中、こちらは13秒台で必死。あらあら、情けない。
 
 結局予選は13秒3というタイムで6番手。同じ13秒台に3台おり決勝は楽しくなりそうだ……と思っていたらKTM野口社長がいらして「おいおいノア君よ、何をやってるんだい?」とチクリ。なんと決勝グリッドには自ら傘を持ってくださり「頼むよ!」とプレッシャーをかけ続けて下さる。フォークの減衰を少し抜き、あとは本番パワーに期待する。
 
 決勝グリッドはポールポジションのとても速い方が他のレースで転倒してしまい、実質5番手スタート。スタートで1台に抜かれ6番手に後退し、2周目ぐらいで2台をパスし4番手へ。集中力が高まり予選よりもかなり乗れている感覚があり、さらにもう1台をパス。前方には服部選手が見えたためさらにプッシュしたが、その甲斐なく少しずつ離されていっているのがわかる。「だめかぁ」と諦め3位表彰台を守る気持ちになった時、なんとその服部選手が前方で転倒したのが見えた。速いが若さゆえに転倒も多いと聞いていたが、まさか目の前で……。
 
 1位ライダーは遥か前方で追いつくのは不可能。ならば堅実に2位を守ろうと後続とのギャップを調整しつつペースをコントロール。そのまま10周のレースを終え2位ゴールとなった。タイムは2秒短縮し11秒となったが、転倒してしまった服部選手は9秒台まで縮めたのだから頭が下がる。タナボタ感が強いが、表彰台のシャンパンを楽しませていただいた。

予選で散々なタイムだった筆者は、サスペンションのセッティングをわずかに変更。柔らかい方向に振ってフロントからのインフォメーション向上を狙った。結果として良かったようで決勝ではより安心して攻め込めた。 CUP参戦という意味では直接のライバルとなった服部選手。15歳で、とても速い。体重もきっと筆者より20キロは軽いことだろう(負け惜しみ)。タイム的には全くライバルとならなかったが、残念ながら決勝では転倒。今後も応援したい。
決勝グリッドではKTMジャパンの野口社長自ら傘をさして下さった。他のメーカーで社長がグリッドに一緒に並んでくれるなんて考えられない! 今回RC/390CUP参戦者と記念撮影。始まったばかりでまだ参戦者は多くないが、このレースの魅力に気づく人は今後ますます増えると思う。

 
仲間と、親子で、みんなで楽しみたいKTMレース

 借り物バイクでなんだかおいしい結果までついてきてしまい恐縮だが、改めてKTMのレースへの想い、バイクのパフォーマンスを楽しもうという取り組みを感じられてとても良い体験となった今回の参戦。レースしてみたいがレース用車両を用意するのも大変だしあまりレベルの高いものは気後れするし……という方にはピッタリの、普段公道で乗っている390(もしくは上位排気量でもいいのだが)で参戦できてしまう本当に楽しいレースだ。
 
 多くのKTM車両は最初から十分なパフォーマンスを有しているため大きな変更も必要なく、それでいて最低限のレース準備は各ショップもサポートしてくれる体制にある(メーカーの社長が自らグリッドで傘をさしてくれるなんてことが、他メーカーで想像できるだろうか!?)。会場でもこのようにホスピタリティブースがありサポートしてくれ、これならば仲間と楽しいレースごっこをするにも良いし、または息子さんを世界に連れてって行ってあげたいという本気志向のレース参戦を望む人にも良いだろう。44馬力のSTD車両にハイグリップタイヤを装着した父親が、車両的にはハンデのあるCUP車両の息子を引っ張ってあげる、などという参戦スタイルすらも連想させてくれ、本当に夢のあるレースだと思わせられた。
 
 次戦はまた筑波サーキットにて、8月23日に行われる。観戦すればその魅力をさらに感じることができるはずだ。そしてこれまでレースをしてみたいがキッカケが見つからなかった人や、敷居の高さを感じてしまっていた人を、きっと後押ししてくれることだろう。

表彰はRC CUP、390 CUPのノーマルクラス&ストッククラスと3つのクラスをそれぞれ分けてのものに。2位表彰台に浮足立っていたが、RCクラスでは1位ということで1位Tシャツを頂いた。恐縮しつつ、しかし表彰台は気持ちがいい!!
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様々な排気量が参戦できるKTM CUPでは1190 RC 8 Rや1290 SUPER DUKE、690 DUKEなどが参戦。ハイレベルではあるがハイレベル過ぎない、フレンドリーな競争だがカリカリはしていない、そんな健全なサンデーレースが展開されていた。


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