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DUCATI JAPAN
フロント周りの力強さと先端から後方に流れるラインが解る。DSS EVO、フルLED+DCLなどを備える1200Sにツーリングパッケージを装備したモデル(パニアケース+センタースタンド+グリップヒーターなどのセットオプション)。
ウエストラインが絞り込まれているのも新型ムルティストラーダのデザインで強調された部分。先端までカラーパーツになったことで全体の印象もかなり変わった。
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スタンダードモデル。外観デザインでSモデルとの違いは少ない。美しいスタイルはそのまま。そこが魅力でもある。
リアセクションまで続く抑揚がよく分かる。 ハロゲンのヘッドライトとなるスタンダード。先代のイメージを色濃く伝えるスタイルとも言える。ノーズまでカラーパーツとなったのが新型の特徴だ。
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ムルティストラーダってそもそもどんなバイクなのか?

 本題に入る前にちょっとお復習いを。ドゥカティがムルティストラーダを世に送り出したのは2003年のこと。それまでSTシリーズでスポーツツーリングのセグメントを満たしてきたドゥカティだが、アドベンチャーバイクセグメントへとチャレンジした秀作として記憶されることになる。その出で立ちは前後17インチホイールや、空冷2バルブLツインを搭載するトラスフレーム、片持ちスイングアーム、当時スーパーバイクのトレンドだったセンターアップマフラーなど、およそ冒険バイクらしくないものだった。ライバルにあるようなオフロードラリーをイメージさせる、とか、仮想敵を意識した、というコトがない。ドゥカティはドゥカティという立ち位置が特徴的だった。

 この埃が似合わないクールビューティーはエンジンを1100に拡大し、前後オーリンズを搭載したSモデルを用意するなど2009年まで販売された。

 そして2010年。クールなデザインとドゥカティらしさはそのままに、最新技術の電子制御やハンズフリーキーなど時代でも最先端となる機能をちりばめた最新型をデビューさせる。1098系のテスタストレッタエンジンをベースに、モデルキャラクターに合わせ、バルブオーバーラップを11度として低中速からスポーツツアラーらしい特性を得たエンジンの搭載など、このクラスが帯びていたプレミアムさを頂点レベルにフォーカスした新型を送り込んだ。

 コンセプトは4バイクス・イン1。スポーツ、ツーリング、アーバン、エンデューロとこのバイクが走るステージで何処でも高い満足感を得られるよう最新技術を用い、4つのライディングモードを選択するだけでサスペンション設定、エンジン特性、トラクションコントロールとABSの効き味が統合制御されるという新次元の走りに打って出たのだ(先代モデルの試乗インプレッション記事はコチラ→)。

 走ればスーパーバイク由来のエンジンか、と思うほど柔軟性に富むエンジンにも驚かされた。ドゥカティといえば高いモデルほど市街地では低いギアしか使えない、というイメージがまるでひっくり返されたのだ。

 ライディングモードを切り替えるだけでムルティストラーダは、街ではソフトな乗り味に、ツーリングでは乗り心地と気持ち良いコーナリングを楽しみ、ワインディングではドゥカティの名に恥じない走りを披露し、ダートに入っても前後170mmのサスストロークと、オフ向けにイニシャルプリロードまで自動変更するリアサスの恩恵で、びっくりするほどの走破性を見せたのだ。

 そして2013年、ムルティストラーダはそれまでの電子制御をさらに進化させ、セミアクティブサスであるDSS(ドゥカティ・スカイフック・サスペンション)を採用。LEDヘッドライトの採用や、ツインプラグ化され二次エア導入を採用したアップデイト型エンジンを搭載。さらに低中速トルクと燃費を向上させた新たなパッケージとなってデビュー。4バイクス・イン1の思想がまた一歩前進していた。

ケースの上側にアルミのパネルを貼った新意匠のパニア。リッドの剛性感が上がりしっかりした印象。ケースのあわせ部分の防水性も強化された。車体キーと共通なのは先代同様。一度使うと手放せない装備。
ツーリングパッケージに含まれるセンタースタンド。メンテナンスを始め、荷物を積むときなど便利なことこの上ない。 ピボットプレート、フレームなど全体にこのエリアをスリム化。ケースカバーのデザイン意匠の変更などもあってシートからストンと足を下ろせる印象に。またステップにつま先乗りしたとき、くるぶしへのマフラーの干渉も低減している。左ステップではスイングアームとの干渉も減った印象だった。細かく攻めたデザインになっている。
中央にブレーキランプ、周囲にテールランプを光らせる。リア周りにも彫りの深さを与えているのが解る。 テスタストレッタDVTは左右のケースカバー、ヘッドカバーなどを新意匠に、またベルトカバーも新しいものとなっている。ヘッドにDVTユニットを装着するため、重量は増えた。ドゥカティではその点でスーパーバイク系への転用は現状考えていないという。モンスターやディアベルにこのエンジンが搭載されたら……。夢広がる部分だ。 最新トレンドをさりげなく盛り込んだサイレンサーピース。2つのテールエンドは4角から多角形になった。
Y字3本スポークとなったホイール。リアブレーキディスクはφ20mm拡大されφ265mmとなった。エンデューロシーンやタンデムで多用するリアブレーキのタフネスアップとコントロール性向上が上げられる。より効くリアブレーキになっていた。 ブレンボモノブロック、4枚パッドを採用する1200S。パニガーレに準ずる。そのタッチは非常にリニア。制動感の立ち上がりもライダーの操作感どおりのすばらしいもの。φ330mmのディスクプレートとなる。作動性を向上させたフォークユニットを使用する。 スタンダードのフロント足周り。ディスクプレートはφ320mm、モノブロックキャリパー+2パッドを採用する。リアは1200Sと共通だ。
ストロークセンサーを新たに装着した1200SのDSS EVO用リアショックユニット。ライディングモードによるダンピングがプリセットされたモードとなるが、DSSのメリットはサスペンションが持つ100%の実力を瞬時に引き出せること。アーバンモードで走っていても大入力があれば減衰圧を最弱から最強までの間で自動的にコントロールする。また、パッセンジャーや荷物が増えた場合、プリロード設定もボタン一つで操作が可能だ。 スタンダードモデルのリアサス。スタンダードはこの位置に手動のプリロードアジャスターを装備する。圧側、伸び側を含めフルアジャスタブルだ。 60mm上方にスライドするフロントスクリーン。ピンチスライド式のそれはスライド時のスムーズさが増した。ウインドスクリーンの形状も見直され快適さを増している。
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跨がるだけで感じた
快適性とインターフェイスの向上。

 そんなムルティストラーダ小史を踏まえた上で今回の2015年デビューの新型ムルティストラーダを見ると、これまでの世界観をさらに伸ばした正常進化版と言える。

 そして最大の目玉は2輪市販車では世界初となる吸排気カム双方に可変バルブタイミングが装備されたテスタストレッタDVT(デスモドロミック可変バルブタイミング)エンジンの採用だ。その効果がいったいどうなっているのか。興味津々でテストに向かった。

 スイッチ類が先代よりさらに直感的に操作出来るようになった新型は、最初から乗り手に対し受け入れ体勢を整えているように思えた。ハンズフリーキーをポケットに入れエンジンを掛けると、そのノイズが柔らかい。クラッチカバーやカムカバー類のデザインを見直すことでしっかりと音対策をしている。だからLツインサウンドが純度高く耳に届く。これは上質。

 新しいムルティストラーダは跨がると足を下ろしやすいスリムさが印象的だ。これは新型の大きな特徴の一つで、正面から見るとノーズからサイドに流れる部分で40mm、ラジエターの横のカウルで20mmそれぞれ拡大されている。快適性を上げるためだ。カウル各部はサイズアップしているのに、ウエストのくびれはしっかりシェイプされライダーの足元周辺は40mmスリム化されている。また二段階に調整可能となったシートは、シート高を820mmか800mmに選択できる(日本仕様)。ローシートが標準だった先代のシート高が825mmだったことを考えると、これまで足つき性で諦めていた人も、もう一度ディーラーで足つき性を確かめる必要がでてきたようだ。また、ライダー側のシート長も前後に伸びており、現地で乗った825mm/845mmシートはフォームにストローク感があり快適だった。

 シートを外して見ると、シート下に縦積みされていたMFバッテリーがフェンダーに沿うように寝かされている。最低地上高を上げるためにエンジン搭載位置も上げているのにかかわらず、にわかには信じられないほど。見た目にも様々なレイアウトを煮詰めてシート高を下げているのが解る。ドゥカティ、本気だ!

フルカラーTFTモニターを採用する1200S。ライディングモードによって表示内容も変化するのはモンスター1200と同様の手法。タコメーターのグラフが上昇する時、数字が大きくアップライトされるのも特徴的。高級感ある仕上がり。 ライディングモードは走行中でも変更が可能だ。左スイッチから操作するとモード選択画面に入り、ライダーは長押しで決定。走行中であれば「アクセルを閉じろ」とのメッセージが現れ、それに従ってアクセルを閉じると選択したモードがアクティブになる。デフォルトで設定されたABS、DTC、DWCの作動特性をユーザーの好みで変更する事も可能だ。 スタンダードモデルの表示状態。ライディングモードはじめ情報ディスプレイとしての機能としてスタンダードでも不足はない。燃料ゲージの表示など、文字がもう少し大きいと瞬時の視認性がさらに上がるだろう。
スイッチ類も新意匠に。主要なスイッチには夜間のバックライトを備える。以前はユーザーのみぞ知る隠しコマンド風だったスイッチだったが右側ではメインスイッチ、グリップヒーター用のスイッチが独立。左側ではライディングモード等の切り替えスイッチと方向キーが一体になったスイッチとなった。そのシンメトリー側にあるのが新装備のクルーズコントロールスイッチ。50km/h以上、2速以上で作動する。 1200Sに採用されたロー・ハイともにフルLEDとなったヘッドライト。速度、バンク角に合わせてカーブの先を照らすDCLも備える。LEDライトが持つ輝度と照度はライダーの視認性を助け、他の車両からの被視認性も向上させる。
オープンタイプだったナックルガードはバーエンドまで回るタイプとなった。樹脂製だが塗色によって独特の質感を持っているのが特徴。ミラーは少し小ぶりに。 工具が必要になるが、日本仕様は800mm~820mmの2段階調整となる。ヒップ部分の面積が後方に広がり、前下がり気味だったシートにフラットな部分ができ、長時間でも快適性が向上している。今回の試乗の多くはヨーロッパ仕様のシートで行った。シート下のスペースにはUSB電源、ヘラーソケットによる12ボルトの出力ソケットがある。より使い勝手の良い位置に電源ソケットが移設されている。また、ETC車載器などを載せるのに充分なスペースもある。
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驚きは最初の30秒から……。
テスタストレッタDVTの威力。

 エンジンは驚くほどスムーズで従順。ほぼ2,000rpmならもう常用域。先代もかなりのもの、と思ったがそこから加速を試みても無理なく力を生み出すのだ。その新型の回転フィールときたらどうだ。さすが試乗車、たっぷりと慣らしをしたんだろうと、メーターに目を落とせばオドメーターは僅か47キロ。ド新車でこれか! そのフレキシビリティー。なんだ、このエンジン! 思わず口を突く嬉しい驚き。

 フレキシビリティーだけではない。2,300rpmあたりからスムーズさと肉厚なトルク感を伴った力強い加速がはじまり、先代より一つ上のギアでも楽しめる。そこに不快なエンジン振動がない。モンスターなどと共通のスロットルバイワイアー式のアクセルユニットは、先代よりも市街地レベルで多用する微少開度での反応がもう少し、と感じる場面もあったが、ランサローテの道を良いペースで走る開度になると気にならない。慣れの問題もあるのだろう。

 エンジン特性には新型が採用した可変バルブタイミング方式が大きな役割を果たしている。吸排気双方のカムシャフトを適宜位相させることで最適なバルブタイミングを造り出すこの機構は、インジェクション、イグニッションの点火タイミング、カムの位置などをセンシングして、コントロールバルブを経由したエンジンオイルの油圧で吸排気カムのタイミングを可変させるもので、テスタストレッタDVT(デスモドロミック・可変バルブ・タイミング)と名付けられている。

 このシステムによりトルクは9%、出力は7%、測定モードでの燃費は8%向上した。また、バルブタイミングの最適化により、吸気菅への燃焼ガスの吹き返しも低減されサージングが最大78%減少したという。
 スムーズでリニア。トルクフルでパワフル。それでいて何処にもトゲがない。また、それぞれのシリンダーヘッドにノックセンサーを配備し、オクタン価が低いガソリンや気圧の低い高地などでもしっかりと燃焼状況をモニターするのも特徴だ。先代(11.5:1)から12.5:1へと上昇した圧縮比への対処でもあるのだろう。

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上質な乗り心地を得たDSS EVO。
進化したセミアクティブサスにも驚く。

 テスト車の白いボディーのムルティストラーダ1200Sにはお馴染み、ドゥカティ・スカイフック・サスペンション(DSS)が装備されている。その名の由来は、「空からフックでつり下げられているようなスムーズなサスペンション」というもの。

 新型ではサスもDSS EVOへと進化している。先代同様ザックス製のユニットはフロントフォークはフリクションロスを減らし、初動からスムーズな動きを見せ、リアにはストロークセンサーも加わった。先代は前後の加速度センサーから信号を受け路面状況を判断し減衰圧をコントロールしていたが、新型では前に2つ、リア1つの加速度センサーに加え、バイクの状況を的確に判断し、制御にフィードバックするイニシャル・メジャーメント・ユニット(IMU)を採用したのがニュースだ。IMUは、ロール、ピッチング、縦加速度、横加速度、垂直加速度など5つを検知してDSSの制御に一役買う。IMUは他にも進化したコーナリングABS、ドゥカティ・ウイリー・コントロール(DWC)、そして1200Sに採用された旋回時、バイクが寝ている時にも遠方を照らすようにライトをコントロールするドゥカティ・ライト・コントロール(アダプティブヘッドライトだ)の制御ソースにもなっている。

 乗り味では、DSS EVOの印象は先代よりもフラットで快適、かつ場面に応じたサスのダンピング制御を行うことになった。前後170mmのサスストロークは先代と同じながら、どこかストロークの長いバイクに乗っているような心地よさがある。それでいてフワフワした感触はないし、ピッチングなどはしっかりと抑えられている。実は1200Sの後にコンベンショナルなサスペンション(コチラもフルアジャヤスタブルの豪華版。セミアクティブではないが)のスタンダードに試乗したのだが、ブレーキング時のピッチングやコーナリング時の車体の動きなど、これはこれでリニアながら、DSS EVOのフラット感を体験した後だと、その動きにブレーキのかけ方、アクセルの入れ方などをライダーがきめ細やかに見る必要があることが解った。好みの問題だが、長距離では肉体的にも精神的にも1200Sのほうが楽できるのはいうまでもない。

 中でも直線からブレーキング、旋回に入る瞬間からそのコーナーで求められる最大バンク角まで寝かせ、アクセルを開けて立ち上がる、という一連のなかで何処にも違和感がなく、制御され囲われている不自然さがまったくないDSS EVOは、路面とのコンタクトを愉しみ、景色を味わう余裕が出来る。これこそドゥカティが狙った本質だろう。

 また、4つのライディングモードで足周りが細かく変更されるのはDSS EVOの方だから、4バイクス・イン1をたっぷり味わいたいならば、1200Sをオススメする。

 話を戻すと、高性能、高機能なサスペンションとIMUの追加装備で姿勢制御とタイヤの接地性が高まった。コーナリングABSの実力に浴するような場面には遭遇しなかったが、1200Sに装備されたφ330mmディスクと4枚パッドのモノブロックキャリパーの組み合わせは、初期から中入力、高入力への移行もスムーズだし、足周りもそれに呼応してダンパー特性を変化させるから、過度な荷重移動や姿勢変化も少ない。安心感の高い減速コントロールができる。

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たった200キロでは物足りない。
さらに長い距離で味わいたい新型ムルティストラーダ。

 カナリア諸島の一つ、ランサローテは火山の島。海岸線と内陸部のワインディングを駆けたり、スピードバンプや荒れた舗装のある集落の中をゆったりと走ったり、時に高速走行をしたり、ダートのごく一部だが走るチャンスがあった。あれだけ風光明媚な場所で景色にうっとりする間もなく僕は新型ムルティストラーダのエンジンの多彩さに驚き続けていた。4,000から5,000rpmでの力強さは隼クラスと同等な印象だった。その分、フラットになってゆく高回転域では一休みになるのか、と思ったが、新型エンジンはその領域はその領域での力強さをみせる。乗り手の意識を置き去りにするような乱暴さは皆無だが、全域パワフル、という言葉は好く見聞きし、僕自身も書いたりするがこのエンジンこそそれにふさわしいものはないと思った。

 この好印象はそのまま日本の道でも味わえるはずだ。はやく日本の高速道路で、市街地で、そして峠道で印象をもう一度確かめたい。もちろん、今回はおさわり程度だったダートでの走りもしっかりと味わいたい。乗ってみて期待がますます高まる完成度だった。2015年夏、ムルティストラーダが日本に届くまでもう少しの辛抱だ。
(レポート:松井 勉)

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メーカーにとって新型車を世界に発信するメディアローンチは、趣向を凝らした演出、撮影場所の設定、プロダクトの魅力をそのまま感じとれる路面状況など気合いと配慮と“おもてなし”が混ざり合ったもの。今回、スペインのカナリア諸島、ランサローテ島で行われたローンチは、2010年のムルティストラーダ1200登場以来5年ぶり。プロダクトプレゼンテーション前にウエルカムドリンクから始まり、火山の島を直接思わせる洞窟の中をライトアップし、そこでエンジニアが思いのたけを伝える。それが終わり、スクリーンが巻き上がると、その奥に広がった溶岩洞窟のホールから生演奏が……。その回廊を通り、ディナーへ。20時間を越すフライトの疲れも吹っ飛ぶびっくりの演出だった。

そしてテストライドは地元の協力も得てスムーズに行えるような下準備、そしてステキなランチスポットの設定など、乗り手が乗り手として心響き合うような設定だった。他のメーカーもそれぞれに特色があるが、小技を効かせたおもてなしは、ドゥカティの特徴。ゲスト先導ライダーには、ムルティストラーダのアンバサダー、カルロス・チェカ(写真下右、レッドの1200Sに乗り先頭を走る)も同行。なんだかムルティストラーダのプレミアム感とはこういう周波数なんだ、と理解できるものでした。


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