令和元年の巧

 
 全日本ロードレース選手権第2戦、鈴鹿2&4が行われた(4月20日~21日)。2輪はJSB1000クラスのみ、4輪はスーパーフォーミュラ、全日本フォーミュラ3との併催で、鈴鹿8時間耐久参戦を見据えたスポット参戦も多く、2組に分かれ66台が出走、熱気が渦巻いていた。
 フリー走行で高橋 巧(ホンダ)が、走行直後にいきなり昨年の最終戦に中須賀克行(ヤマハ)が記録した2分04秒571を超える2分04秒391のコースレコードを記録。この日、2分04秒台を記録したのは高橋のみ。
 さらに公式予選では前人未踏の2分03秒台に入れ、2分03秒874を叩き出しレコードを更新した。

■取材・文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝

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高橋 巧は、フリー走行でこれまでの2分04秒571を超える2分04秒391という驚異的なタイムを記録。公式予選では初めての03秒台で、もちろん鈴鹿サーキットのコースレコードに。

 JSB1000は2レースで行われ、ベストタイムがレース1、セカンドタイムがレース2のグリッドに適応されるという方式。高橋はセカンドタイムもトップで両レースのポールポジションを獲得した。4輪走行後でコースコンディションは決して良いとは言えない中での快走だった。
 
 レース1は、好スタートを見せた高橋巧がトップに立ち、これを中須賀が追うという展開になった。高橋がファステストラップを記録した3ラップ目、中須賀が転倒。高橋が独走優勝を飾った。
 レース2も高橋の快進撃が続き、渡辺一馬(カワサキ)にホールショットを奪われるが、2コーナーでインから高橋が前に出ると独走態勢を築いていく。中須賀はトラブルを抱えながら追撃し2位となる。
 高橋は、両レースとも2位以下に16秒以上の大差をつける圧勝だった。表彰台でも記者会見でも、高橋は控えめだけれど、笑顔を見せた。これまで、高橋は勝ったレースでも、ちょっと不機嫌だなと感じていたので笑顔が印象に残った。

ホンダワークスであるHRCが復活して2年目。今年こそ! の思いがある。表彰台の一番高いところで、ライダー・高橋 巧と監督・宇川 徹は何を想っただろう。

 ホンダワークスHRCが全日本ロードに10年ぶりに復帰したのは昨年。ヤマハファクトリーが2015年に復活、「ファクトリーの看板に恥じないように」との中須賀の思いが、彼の強さを際立たせたように思う。HRCのエースライダーの座に収まった高橋は、きっと誰よりも、このチーム復活を待っていたはずだ。
 
 サテライトチームで、中須賀という絶対王者に立ち向かって来た高橋は、JSB1000参戦9年目となる2017年に悲願のタイトルを獲得する。高橋の実力から考えると、こんなに時間がかかったことに驚く。だが、ワークスとサテライトチームの差は、やはり大きい。ワークスなら、マシンの改善やポテンシャルアップが、ダイレクトに感じてもらえることで対策のスピードが早い。
 事実、中須賀は2017年、タイヤホイールのサイズが16.5インチから17インチへと変更されたことで、彼の完璧なライディングに微妙なずれが生じ、トップを独走しながら転倒というアクシデントを引き起こした。ヤマハファクトリーは、中須賀の走りにマシンを適応させる改善を素早く行い、中須賀もそれに合わせ、後半戦は4連勝した、タイトルは高橋に譲るものの、5勝と最多勝に輝いている。

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どう走るか、いかに戦うのか──ピットの中でディスカッションが続く。

 高橋のポテンシャルを引き出すチーム、それがHRCであり、誰もが、その躍進に期待を寄せた。監督となった宇川 徹(元MotoGPライダーで、現ホンダ社員)も「HRCは勝って当たり前」という使命を持っての就任だった。だが、活動を休止していた10年の歳月は想像以上に大きく、チームが機能的に動き出すのには時間が必要だったのかも知れない。
 一方、中須賀チームは、すでに12年もの絆がある。
 
 昨年の最終戦、高橋の要望を取り入れスイングアームが変更された。だが、雨が降り路面コンデションが微妙だった。それでも高橋は昨年唯一となる勝利をレース1で飾り、レース2は3位となり、2018年シーズンはランキング2位で終えた。
 そのマシンの性能を確認できたのはオフシーズンのセパンテストだった。高橋は確実な手応えを得て帰国する。

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ゼッケンは“13”だ。トランプで言えば13番目、すなわち“キング”である。

 今年の高橋のゼッケンは“13”だ。なんとなく不吉な数字として敬遠される数字だが「だから、選んだ。誰も選ばないから」と答えていた。開幕前のトークショーでは「トランプのキングの数字」と語った。並んで座る王者中須賀への静かな宣戦布告だった。
 
 開幕戦もてぎでは、事前テストから好タイムを記録する。
「今年の巧は違う、アベレージも高く、トータルでのポテンシャルが上がっている」
 と、中須賀は警戒感を漂わせていた。
 予選で中須賀とのタイムアタック合戦を見せ、セッション開始早々に高橋が1分47秒072で一気にトップに立つ。中須賀も47秒087で続く。中須賀が47秒047とアップしPPを獲得する。このタイムは、MotoGPのレコードに1秒5と迫るもので、JSB1000のレコードを大きく更新。ベストタイムのレース1、セカンドベストで決まるレース2ともにポールポジションを決めている。絶対王者中須賀、そして高橋の進化に誰もが目を見張った。

2019年シーズンの第2戦目。進化したマシンを手の内に入れ、完璧なレースをし、勝利した。

 レース1では、中須賀がホールショットを奪い、高橋が追う展開で、このふたりに追いつくものはいなかった。中須賀が逃げ切り優勝。高橋は2位となる。レース2は高橋がリードし、47秒台のハイペースバトルを展開、最終ラップまで続いた戦いを中須賀が制しダブルウィンを飾った。

「マシンが安定して、自分の好みに近くなったことで、セッティングに悩むことなく、走り出しからアタック出来ている。負けてしまったけど、これまでとは違うレースが出来た」
 レース後の高橋はこう語った。
 そして第2戦鈴鹿2&4の事前テストからベストタイムを更新し、レースウィークではすべてのセッションでトップタイムを記録、ダブルウィンを飾るパーフェクトな週末を過ごした。

絶対王者・中須賀克行との戦いは続く。今年のJSB1000から目が離せない。

「これまで、中須賀さんは、様子を見て最後に勝つレースをしていた。余裕で勝たれていた。だから、中須賀さんの本気を引き出したかった。本気で勝負がしたかった。開幕戦で、その本気を感じることが出来た。そして2戦目では、すべてのセッションでトップタイムを記録して勝った。そんなレースは、これまでしたことがなかったと思う」
 そこに高橋の笑顔のワケがあった。
 勝てたこともだが、絶対王者の中須賀を本気にさせ、同じフィールドで戦ったというアスリートとしての喜びがあった。
 だが、「もう嬉しくない。次のレースのことで頭がいっぱいだ」と言う。そして、ふたつの独走レースで気が付いたことがあった。
「集中力を保つことが難しかった。中須賀さんは、こんなレースをいくつも重ねて来たんだと思うと、中須賀さんのすごさを知った」
 といつもの高橋の顔になった。

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 第2戦鈴鹿は、ヤマハは事前テストに参加していなかったため、そのハンデがあったと言われており、第3戦SUGOが、正真正銘の戦いだと見られている。
 王者中須賀に戦いを挑む高橋の戦いは、他のライバルを追いやり、異次元の戦いを見せている。ヤマハファクトリー、ホンダワークス、勝つことを使命とした戦いが激化している。そして、中須賀を破る時、高橋の新しい扉が開くことになるはずだ。
 世界への夢を高橋は諦めてはいない。扉を叩く拳の強さが磨かれ輝きを増している。
 
(レポート:佐藤洋美)
 

●2019 MFJ SUPERBIKE Race Calendar
第3戦 5/25(土)~5/26(日) 宮城・SUGO
第4戦 6/22(土)~6/23(日) 茨城・筑波 ※JSB1000の開催はありません。
第5戦 8/17(土)~8/18(日) 栃木・もてぎ
第6戦 8/31(土)~9/1 (日) 岡山・岡山国際
第7戦 10/5(土)~10/6(日) 大分・オートポリス
第8戦 11/2(土)~11/3(日) 三重・鈴鹿


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