西村 章

 2019年開幕戦は、毎年恒例のカタールGPナイトレースである。今回も、トップ争いから中段グループに至るまで見どころ満載の内容で、なんでこんなに面白いのだろうというくらいエキサイティングな要素がてんこ盛りの22周だった。

 まずはアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Mission Winnow Ducati)とマルク・マルケス(Repsol Honda Team)の激烈な優勝争いから。


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 昨年同様の、というよりもまるで再現フィルムのような最終ラップ最終コーナーの攻防を繰り広げた両雄だが、昨年のふたりのタイム差は0.027秒だったのに対し、今年は0.023秒。
「1000分の3秒(正確には1000分の4秒)近づけたんだけど、充分じゃなかった。でも、やるだけやったよ」と負けた側のマルケスはさばさばした表情。勝ったドビはというと、「シフトミスをしてしまってマルクに前へ出られたときに、彼の状況がわかった」と、レース後にその勝因を明かした。「彼のグリップが自分より悪いとわかったので、それが自信になった。自分のほうがスピードがあったし、彼にチャンスの余地を残したくなかったので、できるだけ早く抜こうと思ったんだけど、最後は〈マルクスタイル〉で勝負を仕掛けてきた。でも、僕のほうが加速が良かったので、しっかりと対応することができたよ」

 2017年のオーストリアから始まった彼らのハナの差バトルは、2017年もてぎ、2018年カタール、とドヴィツィオーゾがマルケスを僅差で制しつづけてきたものの、2018年ブリラムではマルケスがついに一矢報いて0.115差で勝利。しかし、今回はまたしてもドヴィツィオーゾがマルケスを押さえ込んだ。両雄のこの戦い、今シーズンもおそらく何度か見られそうである。



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 3位はカル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)。昨年のフィリップアイランドで大転倒を喫して足首を骨折し、その復帰戦で表彰台を獲得するのだから、まさしく〈鉄人〉である。
「プレシーズンテストはいまひとつだったし、今週も苦戦が続いて、日中のウォームアップでは14番手だった。あの段階で『今日のレースで表彰台を獲得できるよ』と誰かに言われたら、きっと笑い飛ばしていただろうね」と笑顔で振り返った。

 レースは序盤からトップグループを構成し、安定したリズムで最後まで前の二人にくらいついていったが、「皆それぞれの戦いかたがあるけど、レース中盤くらいに攻めどきと攻めどころがわかってきて、それがアドバンテージになった」のだとか。


 数々の負傷に遭いながら、不撓不屈の精神でそれを乗り越えてきたイギリス人選手といえば、まず思い出すのはバリー・シーンだが、クラッチローもその領域に迫りつつあるのかもしれない。ここに戻ってくるまで肉体的精神的に辛くなかったはずがないのだが、そんなものをおくびにも出さず、なにより湿っぽくないのがいい。これぞジョンブル魂である。

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 4位はりんちゃんことアレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)。レース序盤からトップグループを構成し、マルケスやドヴィツィオーゾに果敢に勝負を挑みながら何度もトップに立った彼の姿を見ながら掌に汗をかいていたスズキファンは、かなりの数になるのではないかと推測する。
「スズキの旋回速度は図抜けている」とクラッチローは評し、ドヴィツィオーゾも「彼は昨日2回ほど転倒してフィーリングが悪くなっていたかもしれないけど、レースでは強かった。プレシーズンテストのときから彼の旋回速度はとても速かったので、今日も勢いを停めようと思った」と、警戒していたことを明かした。

 で、当のりんちゃん自身はというと、
「序盤から何度も上位陣で抜いたり抜かれたりしたけど、いいレースだった」と振り返った。「ここは直線も長いし、スズキにとってベストコースじゃないけど、4位でレースを走り出せたのは良かったと思う。去年は転倒だったからね」


 しかし本音の部分では、表彰台を充分に射程圏内に収めていただけに、強い手応えと同様かそれ以上にかなり悔しかったのではないだろうか、とりんちゃんの心中をお察しする。

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 そしてこれは正直すごい、と思ったのが、5位に入ったバレンティーノ・ロッシ(Monster Energy Yamaha Moto)。今回のウィークでは、昨年よりも総じて好調気味だったヤマハ陣営のなかで、唯一苦戦傾向に見えたのが、今年40歳を迎えたこの人だった。金曜最初のFP1こそトップタイムだったのものの、コンディションが改善して全員がタイムを更新したFP2では、唯一タイムアップできずに16番手。土曜の予選でもQ1からQ2へ進出できずに、5列目14番グリッドからのスタートとなっていた。

 ところがレースでは中盤以降にぐいぐいと追い上げて、最後はトップ集団に食い込み、優勝したドヴィツィオーゾから0.6秒差でゴール。

 ただし、
「このコースはうまく走れたけれども、他のコースではもっと苦労するだろう。今日も表彰台を目指したけど、そこまでは強さがなかった」
 と、まだまだ課題含みであることを正直に述べた。

「ヤマハは最速だったけど、ドゥカティより遅かったしホンダより遅かったしホンダのノンファクトリーより遅かったし、スズキより遅かった。今年の問題はスズキが強くなっている、ということ。スズキはだいぶよくなっているからがんばらないと。問題は、今のところ自分たちのパフォーマンスが2018年とまだ似た程度、ということなんだ」


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 9位に入った中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)も健闘した。最高峰クラス2年目の今年はライダー人生の正念場、とシーズンオフから常々話していた中上だが、今回の開幕戦では各セッションで水準の高い走りを披露。土曜の予選でもQ1からQ2へ勝ち上がり、3列目9番グリッドを獲得した。

 去年までの中上だと、良いグリッドを獲得したときでも、決勝レースではスタートに失敗してずるずる順位を下げ、そのまま中段グループに埋もれてしまう、ということもたびたびだった。しかし、今回のカタールGPではスタートを決めてトップグループに食い込むと、上位集団で走行。タイヤが消耗すると先頭集団から離れてしまった、という点では今後の課題も残したが、それでも充分に現在のパッケージが持つポテンシャルを発揮したレース内容だった。

「自分の課題だったレース序盤は、競り合いやペースアップ面で今までと違って速かったし、いい走りをできたと思います。前がホンダとドゥカティのワークスで、彼らは直線がロケットのように速くて抜けなかったけど、それを差し引いても、いい走りをできました」


  トップグループで走ったことで、いろいろなことがわかった、とも話した。
「レースの組み立てやタイヤマネージメント、スロットルの扱い、バイクの起こし方など、さまざまなことを勉強できました」

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 レース結果はポイント圏外の16位だが、これは速いな、と感じさせたのが、ルーキーのファビオ・クアルタラッロ(Petronas Yamaha SRT)。土曜の予選ではQ2で5番手タイムを記録し、2列目スタートを確保した。決勝レースではウォームアップラップ直前にエンジンがストールし、そのままバイクをピットレーンへ戻してピットレーンスタートとなってしまった。いわば超最後尾スタートだが、そこからレース中のファステストラップを記録し、猛烈な追い上げを開始。集団に追いついてからは、まさに「ちぎっては投げちぎっては投げ」状態で、ポイント獲得にはわずかに及ばなかったものの、16位でゴール。これでもしも本来のグリッド位置からスタートしていればどんな結果になっていたのだろう、とも思うが、それこそ所詮は「たら・れば」である。

「ウォームアップラップをできなかったので、タイヤが冷えていたから最初は厳しかったけど、温まってくるとプッシュできるようになった。今日のリザルトは望んでいたものじゃないけど、経験を重ねていけばもっといいレースをできるようになると思う」
 と、反省を込めながらMotoGPデビュー戦を振り返った。


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 そしてMoto3クラスでは鳥羽海渡(Honda Team Asia)が参戦3年目の緒戦で優勝を達成。最軽量クラスに12年ぶりの日本人選手優勝(2007年カタルーニャGP:小山知良)をもたらした。

 今回の開幕戦に先だつ三日間の事前テストから鳥羽は好調な仕上がりで、その勢いを開幕戦にうまくつなげてきた。土曜の予選では、自己ベストのフロントロー3番グリッドを獲得。前に誰もいないスタート位置で初めて走り出す決勝レースでは、序盤からトップグループを構成。Moto3クラスは大集団の激しいバトルが定番だが、鳥羽はその大混戦のなかで前を奪われても、臆することなく即座に攻撃し返す積極的な走りを続けた。最終ラップも冷静に勝負どころを読みきり、最終コーナーの立ち上がりを制してトップでチェッカーを受けた。

「最初はどう逃げ切ろうかと考えていたんですが、グループがすごく大きくて逃げられそうにないので、とりあえず1~2番手をキープすることに集中しました。最終ラップの1コーナーはトップで入らなければいけない、と思って、そこはがんばりました。最終コーナーは、立ち上がりが速かったので有利でした。最終コーナーを前で立ち上がっても抜かれないと思ったし、2番手で立ち上がっても抜ける自信がありました」
 この勢いを今後も維持し、毎戦トップグループで優勝争いを続けること。それが第2戦以降の鳥羽の課題になるだろう。




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 そして今回のレース終了後に、ドゥカティのドヴィツィオーゾとチームメイトのダニロ・ペトルッチ、そしてジャック・ミラー(Alma Pramac Racing)の3名が使用したスイングアームが、レギュレーションとガイドラインに反した空力パーツを備えている、として、ホンダ、スズキ、アプリリア、KTMの各ファクトリーチームが抗議を提出する事態が発生した。この抗議はFIMスチュアードパネルによって却下されたものの、その後、抗告がジュネーブのMotoGP控訴審へ委託されることになった。

 この騒動の引き金になったのが、どうやらチームに対して3月2日に通達されたテクニカルレギュレーションの修正事項に関する文言のようだ。この通達は、激しい雨の際の水はねや、路面の小さな破片等がタイヤに当たるのを避ける目的、もしくは、タイヤの冷却を目的としたスイングアームの固定パーツ装着を許可するものであるらしく、スイングアームに固定されるその当該パーツはあくまで所記の目的を達するためのもので、いわゆるエアロパーツとしての空力効果を備えていてはならない、と規定されているという。

 「~らしい」「~という」などの推測表現ばかりで申し訳ないのだが、この修正事項に関する文書は現在のところまだFIMから公開されておらず、文章表現等の確認ができない。関係各方面の証言をつなぎ合わせて得られた文言の推測が上記のような内容、ということで、ひとまずはご寛恕を願いたい。

 さて、ドゥカティが今回のウィークでプラクティスセッションから使用していたスイングアームは、雨よけやタイヤ冷却だけではなく空力効果をも備えている、とアプリリアのマネージャー、マッシモ・リヴォラとスズキのダビデ・ブリビオがMotoGPテクニカルディレクターとドゥカティ側に伝え、レースでも引き続き使用されるようであれば公式に抗議をする、と警告も発していたのだとか。


 一方、ドゥカティ側のジジ・ダッリーニャは、リヴォラとブリビオの告発を否認し、空力効果はなく、あくまで後輪の冷却用にすぎないと説明した。決勝日のウォームアップを前に、ブリビオたちは最後通告を伝えたものの、ドゥカティも自分たちの姿勢を変えず、ミラーとペトルッチはプラクティスセッションと同様に決勝レースでもこのスイングアームを使用し、ドヴィツィオーゾも決勝レースで初めて使用した。そして、事前通告どおり、必然的な結果として4ファクトリーチームが抗議を提起した、という経緯が、どうやら今回の大まかな事情のようである。

 3月2日に配布された文書の詳細が明らかでない以上、今回の開幕戦でドゥカティの使用したスイングアームがルールに合致するものであるのかどうかについては、詳細な検証のしようがないのだが、雨よけパーツ、ということについていえば、各メーカーともアンダーカウルの形状を工夫することで、路面の水はねを後輪に当たらないように避ける工夫は、以前からポピュラーなものになっている。そして、この雨よけパーツだが、ヤマハファクトリーは昨年の最終戦バレンシアGPでスイングアームに装着をしていた。今回の抗議と抗告にヤマハファクトリーは名前を連ねていないのだが、その理由は上記の事情によるものではないか、という見方もある。

 今回の結論がいつごろ出されるのかは不明だが、もしも当初のレースリザルトが改訂されるような事態になれば、なんとも後味の悪い結末になる。

 そしてそんな結果になれば、100パーセントの力を出しきって真っ正面から戦い、勝負の後に互いの健闘を称えあったドヴィツィオーゾとマルケスが今回の一件の最大の犠牲者、となるのかもしれない。


次戦、第2戦アルゼンチンGP(アウトドローモ・テルマス・デ・リオ・オンドサーキット )は3月31日決勝です。

 




■2019年3月10日 
開幕戦 カタールGP
ロサイル・インターナショナル・サーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #4 Andrea Dovizioso Mission Winnow Ducati DUCATI


2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


3 #35 Cal Crutchlow LCR Honda CASTROL HONDA


4 #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


5 #46 Valentino Rossi Monster Energy Yamaha MotoGP YAMAHA


6 #9 Danilo Petrucci Mission Winnow Ducati DUCATI


7 #12 Maverick Viñales Monster Energy Yamaha MotoGP YAMAHA


8 #36 Joan Mir Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


9 #30 Takaaki Nakagami LCR Honda IDEMITSU HONDA


10 #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


11 #21 Franco Morbidelli Petronas Yamaha SRT YAMAHA


12 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


13 #99 Jorge Lorenzo Repsol Honda Team HONDA


14 #29 Andrea Iannone Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


15 #5 Johann Zarco Red Bull KTM Factory Racing KTM


16 #20 Fabio Quartararo Petronas Yamaha SRT YAMAHA


17 #88 Miguel Oliveira Red Bull KTM Tech 3 KTM


18 #17 Karel Abraham Reale Avintia Racing DUCATI


19 #53 Tito Rabat Reale Avintia Racing DUCATI


20 #55 Hafizh Syahrin Red Bull KTM Tech 3 KTM


RT #38 Bradley Smith Aprilia Factory Racing Aprilia


RT #43 Jack Miller Alma Pramac Racing DUCATI


RT #63 Francesco Bagnaia Alma Pramac Racing DUCATI


※西村さんの訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です!

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