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■文:中村浩史 ■撮影:南 孝幸
■協力:YAMAHA 

1909年にスタートした日本のバイク史に
確実にひとつ爪痕を残すヤマハのLMWシリーズ。
つまりは「前2輪」バイクのシリーズだが
そのLMWが、とうとうスポーツバイクにも踏み込んできた。
それがNIKEN=ナイケン。
いままで伝わって来たのは「前2輪でも大丈夫じゃん」だけれど
それどころじゃない「前2輪」のメリットがあったのだ。

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 NIKENってバイクは、本当に不思議で難しい。
 どんなバイクなの? って聞かれて答えても、それが的を得ているのかどうか、今ひとつ自信が持てない――それが僕の正直なところ。どんなバイクだって、10人乗れば10通りの評価や感想があると思うんだけれど、NIKENはさらに、10人乗ったら20通りは意見があるんじゃないかな、と思う。

 NIKENは、2017年秋の東京モーターショーで初公開されたモデル。それから市販へと段階が進んで、2018年9月にはもう市販が開始された。
 初めてモーターショーで見たときには「ヤマハはこんなことやってるのか。そのうちこんなバイクが公道を走る時代がやってくるのかねぇ」なんて思っていたんだけれど、「そのうち」ってのが1年もしないでやってくるとは(笑)。実際、そう考えていた人って多いんじゃないかな。
 そして2018年9月下旬には僕らジャーナリストが試乗の機会をもらって、乗ることになる。Webミスター・バイクでは、松井勉さんが乗って、書いたよね。それはココ<http://psp-traumland.info/?p=150396>に詳しいので、まず読み返してみてください。
 ただし、この時の試乗の舞台は、静岡県・修善寺のサイクルスポーツセンター。クローズドコース、つまり公道じゃない、いわばサーキット。アップダウンがあり、路面のミューもサーキット舗装ではない「公道っぽいコース」なんだけれど、いきおい試乗はハイスピード、フル加速、フル減速、フルバンク、ってことになる。
 もちろん、ヤマハにしてみれば、LMW(=前2輪構造)の限界走行でのタフさをアピールする絶好の機会。LMW、サーキットでも大丈夫ですよ、こんなに違和感ないですよ、って証明できるステージだったというわけ。

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 ここでの試乗、実は僕は参加できなかったんだけど、参加したジャーナリストのみんな、NIKENのこと、絶賛していました。Webミスター・バイクでは、松井さんがこう言っています。
「走り始めて数10メートルなのに、すでにしっかりとタイヤの接地感が伝わってくる」
「サスペンションのストロークも合わせてフリクション感がほとんどない。上質な乗り心地」
「ウェットパッチが残る路面、μが高くなさそうな路面でも普通のバイクでは試したくないようなことを堂々とトライできる」
「怖くない」
「道幅を使って直線でS字を書いても全く滑りそう、とか転びそう、とか思わない」
「安定している。それでいてスポーティな乗り味」
 そーなのか。フロントが2輪ってことはそういう乗り味なんだね、とか勝手に理解していたのだ。だってトリシティとか、ADIVA、ジレラに乗ったことはあるけれど、NIKENは明らかに違うから。これまで乗った「前2輪」オートバイは、スクーターで、いわばコミューター。けれどNIKENは、MT-09をベースとした、スポーツバイクなのだ。
 
 それから数日後、僕もNIKENに乗る機会に恵まれた。とは言っても、編集部に試乗車がやって来たから、そのへんをひと回り。ほー、ちょっと重さを感じるけど、走り出しちゃえばそうでもないかとか、フロントの絶対的安心感すごいなとか、これは転ぶ気がしないなとか、ほんの10分~15分でわかることなんかそれくらい。それが正直なところ。インプレッションしようモードに入ってないと、あんまり細部を気にしないもんですw。
 
 その後に、ヤマハさんが魅力的な試乗チャンスを与えてくれたのだ。
「NIKEN、乗りませんか? それも一般道と高速道路で300kmほどツーリングして」
 まずクローズドコースで乗せて限界性能を味わってもらって、次は一般道での試乗チャンスなんて用意周到、至れり尽くせり。クローズドコースの試乗はそんなに食指が動かなかったけれど、この一般道ツーリング300kmには、イチも二もなく乗っかりましたね。
 常々、バイクの試乗ってのは、実際に使うような用途じゃなきゃ意味がない、と思っているクチなので、NIKENはぜひ一般道で乗りたい。街乗りもツーリングもして――と思っていたんです。F1マシンを公道に持ち出したって正しい評価はできないし、オフロードバイクでアスファルトを走ったって、ただしく紹介できないもの。だから、ストリートバイクはストリートで乗りたい。

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 そのNIKEN、やはり目の前にすると押し出しがすごい。前の2本のタイヤを支持するフロントフォークが各2本、計4本。そのフロントタイヤ間(=トレッド)がワイドで、フロントカウルの下に広がる空間が、なんともバイクっぽくない。フロントカウルもイカツくて、街を走っていて、ちょっと後ろにつかれたくないバイクだな。
 またがってみると、そのインターフェイスはMT-09イメージ。けれどハンドルポジションが手前に引かれてハンドルがライダーに近く、やはりフロントまわりのボリュームが大きい。走り出しも、やっぱりMT-09よりも70kgも重い重量を感じるものだ。走り出してすぐ、何度かの信号待ちで止まる時も、やっぱりおっとっとっと……と感じることがある。
 けれど、重さという違和感を感じるのはここまで。走り出して5分もすれば、普通のバイクと変わらないフットワークを味わえる。面白いもんで、へぇぇ、こんななんだな、と思い始めると右に左にハンドルをこじってスラロームしてみたりする。
 NIKENはまず、圧倒的なフロントの接地感を普通のバイクとは比べ物にならないほど感じることができる。フロントの接地感の乏しさっていうのはつまり「転んじゃうかもしれない」感覚に直結するものだし、もう少しハンドリングのことに翻訳すれば、きちんと直進性が確保されていて、フロントタイヤのグリップを使って曲がることができる、ってことだ。つまりNIKENは、パッと乗りで「転んじゃうかもしれない」感が少なくて、よく曲がる、ってこと。ヤマハがバイクという乗り物で表現したかったのがココで、特に「転んじゃうかもしれない」感の少なさを商品化したかったのだろう。
 この辺までは想像通りなLMWだ。さらに、直進でガツンとフロントブレーキをかけてABSを作動させたりして、さらにガッチリ強いフロントの接地感を味わってみたり、交差点でわざと白線とか横断歩道に乗っかってバイクを寝かせてみる。
 この辺で、スポーツLMWってスゴいな、ってことに気づき始めた。これがトリシティ125/155だと、アンダーパワーゆえに、スポーツバイクでLMWシステムを使ったときのデメリットが現われようがない。100psを越えるバイクで、果たしてLMWはどう動くのか――この疑問は、ぜんぜん平気だな、違和感なんかないじゃんか、すごいなヤマハ。そんなところに着地しようとしていたのだ。

 絶対的なフロントタイヤへの安心感は、どんな路面コンディションでも、少しのミスでも「転ぶ気がしない感」につながり、これがフロント2輪であっても違和感のないハンドリング=LMWな理由だと思われていたのだ。

 けれど、LMWの真価は、そこじゃなかった。それが、高速道路に上がって走り始めたときに、ハッキリわかったのだ。
 試乗コースは首都高から中央高速を抜けて長野方面へ。首都高に駆け上がってすぐに「ん?」と感じられたのだ。高速道路をバイクで走っている感覚、思い出してみてください。渋滞なく走っている時、数秒に1度、定期的に「ガコッ、ガコッ、ガコッ、ガコッ」と、高速道路の継ぎ目を乗り越えるショック、感じるでしょう? NIKENには、あれがないのだ。いや「ない」といえば言い過ぎだから「ものすごく感じづらい」なのだ。
 この「ガコッ」は、フロントのふたつのタイヤが段差を乗り越えるとき、両手をはじめとして体全体で感じるものなんだけれど、フロントタイヤとリアタイヤが段差を乗り越えるどちらの瞬間も、身体に、そのショックをほとんど感じない。リアの乗り越え感は、リアサスがクシュッとショックを吸収しているのがわかるんだけれど、フロントがわからない。そんなにサスペンションの性能がいいのか――と思ったらさにあらず。NIKENのフロント構造をよく見ると、タイヤ→サスペンション→フロントフォーク支持リンクまでが連結されてはいるんだけれど、そこからハンドルまで「直接的に」つながっていないのだ。
 これが、フロントのショック吸収を両手に伝えない秘密なのか――。そういえば、この手応えはなんとなく覚えがある、と思ったら、それは他メーカー名を出すのもアレだけれど、BMWのテレレバーやデュオレバー車の、あの感じなのだ。特にK1300のデュオレバーのフィーリングに、すごく近かった。
 フロントのゴツゴツ感が両手に伝わらないと、走行中の疲れが飛躍的に少なくなる。事実、100kmを越えると肩が凝り、腰が痛くなり、お尻が痛くなってちょっと休みたくなるおじさんライダーの僕が、その体の疲労をほとんど感じなかったのがスゴい。あれ、今日は体調いいのかな、と思ったけれど(笑)そうじゃない。いつもなら正確に疲れてくる距離レーダーに狂いはない。やはりNIKENは長距離走行で疲れないのだ!
 高速道路を走っている時に、もうひとつ気づいた。100km/h弱くらいで走っている時、すぐ隣を抜かしていく大型トラック。なのに、いつもはブワッと横風にあおられるシチュエーションでも、NIKENはビクともしなかった。これもLMWのメリットのひとつなのだろう。
 

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 ワインディングに入ると、松井さんも他のジャーナリストも書いていたLMWらしいハンドリングのメリットも確認できた。けれど、公道やワインディングでは、そんなフルバンクなんてさせないし、と思っていたら、公道での常識的なスピードとバンク角でも、LMWのメリットはハッキリと分かった。それが、荒れた路面を踏んでいく、よくツーリングで出っくわす、あの時だ。
 ブレーキングしてコーナーに入っていくNIKEN。スカッとフロントが滑っちゃわないからいつもより余裕をもってブレーキング。旋回を始めると、フロントがぐりぐりと路面を掘り起こしていくような絶対的な安心感があってコーナーを回っていくと、回り込んだ先が日陰で濡れていたり、舗装が荒れていたり、アスファルトがボコッと穴あきだったり。
 けれどそんな路面でも、NIKENは何もなかったようにコーナーをクリアする。いつもなら「やべっ」とヒヤリとする場面を、軽くスルー出来るのだ。
 ちなみに、路面にボコッと穴がある場面でも、それが車線のセンターならば、NIKENのフロントタイヤがそこを踏むことはない。だって、前2輪が左右に分かれているからね。リアタイヤがボコッと穴を踏んで車体が振られたって、前2輪も絶対的な安定感のおかげで何事もなくコーナーをクリアできるのだ。
 少しペースを上げてみても、このメリットは変わらず。もちろん、同時に走って検証したわけじゃないんだけれど、たとえばコーナリングの「旋回スピード」だけを取ってみればMT-09よりもNIKENの方が高い気がする。それも、先の路面が荒れていようが荒れていまいが、である。

「前2輪? そんなんでまっすぐ走れるの?」って思う人は多いだろう。答えのひとつ目は「前2輪だって違和感ないよ、まったく普通に走れるから」ってもの。
 けれどこれからは「前2輪だからこそ」感じるメリットを伝えたい。けれど、これは残念ながら体験するのが一番手っ取り早いので、そこはヤマハさんもちゃんと考えている。定期メンテもセッティングも修理も、特殊知識を必要とするNIKENは「NIKEN取扱店」でのみ扱っているんだけれど、それは北海道に11店、青森と岩手に3店、宮城に10店というふうに、全国にきちんと取扱いショップがある。ヤマハのウェブサイトでは「試乗可能ショップ検索」もできるから、ぜひとも一度、乗ってみて。それも長時間、いろんな路面コンディションで乗ってみたら、きっとLMWのよさははっきりわかる。
 
 少し残念だったのは、直立静止機構をつけてくれなかったこと。ヤマハがコストの関係か、それともバイクにそんなもんいらん、と判断してつけなかったのかは不明だけれど、やっぱりトリシティもNIKENも、前2輪という「特別」さに、誰でもわかるような特色をつけてほしかった。バイクのこと、まったく知らない人がNIKENを見ると、へぇ3輪なんだ、あれ? 自立せずにサイドスタンドなの? って驚くはず。その想像を、乗り越えてほしかった。
 
 ホンダはMotoGPマシンレプリカを、カワサキはスーパーチャージャーレプリカを発売して、歴史に爪痕を残した。そしてヤマハは、LMW。これも間違いなく、バイクの歴史に爪痕を残す歴史的発明なのだと思う。
 
(文:中村浩史)
 

前2輪は、外側から支持する片持ちダブルフォークが左右に装着され、つまりフロントフォークが計4本! ダブルフォークになっているのは、片持ちのために1本だけではインナーチューブが回転してしまって支持できないため。15インチタイヤはNIKEN専用で、トレッド(タイヤ間距離)は410mmと、ミラーやハンドル幅より狭い。 イカツい顔つきのフェアリングは、前2輪のため左右幅が広く、従来のバイクのイメージを持たせながら新しい感覚をアピールしている。ヘッドライトとウィンカーはLEDで、ヘッドライトの光量、照射範囲とも文句なし。写真の青いフォーク部分が、リンクを介してのみ、ハンドルに連結されているのに注目。これが高速道路の快適性につながるのだ。 フロントサスペンションまわりの構造。正直、よくわかりません(笑)。静的バンク角45度まで車体がバンクしても、フォーク左右を連結するプレートは水平を保って安定性を確保し、通常のフロントフォークで言うオフセットやキャスター/トレールに当たるジオメトリー設定が、ハンドル切れ角とリーン時の旋回性や内外輪差を吸収するようです。
シングルディスクローターを装備した15インチホイールをダブルで装備。制動力は文句ないし、NIKENの特徴はそれが躊躇なく使いやすいことだ。フロントブレーキ比重多めの急ブレーキを何度も試してみたら、ABSが介入する場面でも、フロントがズルッと滑る恐怖感がほぼゼロ。これはLMWシステムの大きなメリットだと思う。 タンデムの機会も考えてか、リアサスはタンデムステップ部にプリロード調整用のリモートダイヤルを持つモノショック式。リアフェンダーはスイングアームマウントで、ナンバーステーも兼用。テールランプ、ウィンカー、ナンバーランプはすべてLEDで、パニアケース装着バージョンもヨーロッパのモーターショーで公開された。
特徴的なフロントまわり以外、MT-09をベースとしているNIKEN。エンジンはNIKEN専用にクランクマスを約18%増量し、ごろんごろんと粘るトルク特性としている。クラッチはアシスト&スリッパー方式を採用し、クラッチレバーは軽く、エンジンブレーキの効きも緩和されている。シフトアップ方向のみクラッチワークなしでシフト操作が可能だ。(写真はMT-09のエンジンカット) フロントに重量物があるためか、車重や重量の前後配分も考えて、フューエルタンクはアルミ製。MTシリーズに比べてハンドルバーはライダー側に引かれ、ライダー乗車位置もMT-09より約50mm後方としているが、これも車重の前後配分を考えてのもの。左ハンドルスイッチにはクルーズ/トラクションコントロール設定ボタン、走行モードボタンが備わる。 黒文字盤の反転液晶は、スピード、ギアポジションを表示し、タコメーターはバーグラフ式。瞬間&平均燃費や水温、気温に加え、走行モードやトラクションコントロール段階も表示する。左上のソケットは12V電源供給用で、スマホマウントを前提にしている位置だ。しかし、MT-09やMT-07、トレーサーやトレーサーGTと、もう少し部品共用したらいいのに。
■YAMAHA NIKEN 主要諸元
●全長×全幅×全高:2,150×885×1,250mm ホイールベース:1,510mm、シート高:820mm、車両重量:263kg●エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、排気量:845cm3、ボア×ストローク:78.0×59.0mm、最高出力:85kW(116PS)/10,000rpm、最大トルク:87N・m(8.9kgf-m)/8,500rpm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、燃費消費率:26.2km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、18.1km/L(WMTCモード値 クラス3、サブクラス3-2 1名乗車時)、●燃料タンク容量:18リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン、タイヤ:前120/70R15M/C 56V × 後190/55R17M/C 75V●メーカー希望小売価格:1,782,000円


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