オオカミ男のひとりごと

HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい! と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250?、エイプ750?。
第23章 Goodbye Isle of man

 
オレ達を乗せた車はダグラス市内へ入った。このあと、先にメイン会場へ行った連中と合流する。マン島最後の夕食はみんなで外で食べようという事になっていた。会場にいるはずのW氏に連絡をしてみた。そして聞かされたダグラス市内の様子はというと、・・・
メイン会場は物凄い人で溢れかえっている。周辺の飲食店はどこも満席で入りきれない客が外で飲んでいるような有様だという。つまり街全体が打ち上げパーティーな状態。
しかも最後の花火が夜の11時に上がるためそれまでこの騒ぎは収まりそうにないらしい。
会場の周辺で腰を落ち着けて食事というのは不可能なようだ。結局、オレ達は宿泊先に戻りそこで夕食にすることにした。買い出しのためいつものスーパーに立ち寄った。
するとスーパーの隣の店舗に行列ができている。何だろうと思いその店の前まで行ってみると・・・なにやら中華料理のいい匂いが漂ってきた。
店の中はレジがあり待合用の椅子が並んでいるだけだ。客たちは出来上がった注文の品を受け取って店を出ていく。
なるほど。テイクアウト専門の中華料理屋のようだ。
その名も“ゴールデン・ゲート(金門)”

 
いつも通っていたスーパーの横にこんな店があるとは今まで気づかなかった。オレはここで夕食を買っていく事にした。そうと決めてしまうとなんだか無性にチャーハンが食べたくなった。中華で、しかもチャーハンでハズレる事はそうそうないだろう。オレは数あるメニューの中からエビチャーハンを選んだ。
かなり混雑していたため注文してから商品が出てくるまで30分以上待たされた。さっそくに家に戻り食事の時間である。

買ってきたチャーハンを袋から取り出してみると入れ物がなんかデカイ。分かりやすく言うとティッシュの箱ほどの大きさだ。蓋を開けてみた。あれ? いや・・・まぁチャーハンには違いないんだが。卵は? ネギは? とにかくエビだけは鬼のように入っている。
そりゃぁエビチャーハンだものと言われりゃそれまでなんだけど。そのまんま過ぎねぇか!?
彩というものが全くないチャーハンが特大の入れ物にぎゅうぎゅうに詰まっている。
色のないビジュアル。そしてこの量。中華なんだけどマン島らしさ全開である。
だが味までマン島らしいとひじょうに困る。とりあえず恐る恐る一口食べてみる。
んっ!? イケる!! 結構、オイシイじゃないか。気をよくしたオレは一気にがっついた。
しかしその勢いのままに完食・・・とはいかない。いかんせん具材がエビしか入っていない上に大盛二人前ほどの量である。だんだん飽きてきた。なんとか半分くらいまでは食べたもののさすがに限界が近い。結局、他の人たちにも手伝ってもらいながらやっとのことで食べ終えた。食事を終えて一息つくとなんだか疲れが一気に噴き出すような感じがあった。
緊張の糸が緩んだというか噴出し続けていたアドレナリンが途絶えたというか。
あぁ、本当に終わっちまったなぁという実感が沸き上がってくる。10時くらいになったら会場まで行って最後に花火を見ようかとも思っていた。しかし、もはやそんな気はまったく起きない。だがそれは決して不快な感じではない。心地良い疲れとでも言ったらいいか。
まぁ少しだけ気持ち悪い感じはあるがそれはエビだけチャーハンを食い過ぎたせいだ。
この日はいつものように遅くまでみんなで語るという事はなかった。部屋に戻りベッドに横たわる。遠くに聞こえる花火の音を聞きながらオレは眠りに落ちていった。

帰国当日の朝はメチャクチャに早い。その早さは新聞配達レベルである。時刻はAM4:00。
マンチェスター行きの飛行機の出発が6時。搭乗の手続きやらなんやらを考えるとどんなに遅くとも5時には家を出なくてはならない。旅というのはいつもそうだが行きはよいよい、帰りは・・・なのである。そしてその道のりが長ければ長いほど帰りの道中は実にかったるい。それに拍車をかけるように外は雨が降っている。朝食など食べている余裕はない。
バタバタと支度を済ませオレ達は空港へ向かった。空港へ着くとこのクソ早い時間にもかかわらず多くの人がいた。オレ達以外の日本人も何人かいる。来るタイミングはバラバラでも帰りはだいたい皆同じという事だ。それにしてもとても眠い。TTレースも終わりあとは帰るだけとなると頭も体も全然シャキッとしない。日本国内でやってきたようなバイクの旅なら帰りとはいえまだいくらか緊張感を保てる。だが移動手段が完全に人任せの状態ではただ気怠いだけだ。搭乗手続きを済ませ飛行機に乗り込む。機はフライビー航空で来た時と同じ紫ボディのプロペラ機。出発の時間になり機体はゆっくりと動き出した。そして滑走路に入る。少しの徐行をしたあと激しいエンジン音と共に機体は怒涛の加速をみせた。しかしもう驚くことはない。人の経験による感覚というのは0と1とで大きく異なる。

オレ達を乗せた機はどんどん速度を上げていった。そして離陸。1週間という時間を過ごしたマン島と遂にお別れだ。島での生活は最初に自分の中で立てた予定とはだいぶ違うものになった。それも当たり前の話である。何から何まで初めての人間がいきなりこんなイカレた場所にきて予定通り事が進むわけがない。この島はオレのチンケな想像もつまらない予定も早々に破綻させてくれた。それと引き換えに与えられたのは恐ろしいほど濃密で刺激的な経験。そしてそれは色んな意味でオレ自身が試されてたようにも思える。時には苦痛を、時にはこの上ない喜びを伴った数々の出来事。オレが再びこの地を訪れる事はあるだろうか。窓の外を見てみる。
雲に覆われてマン島の姿はまったく見えない。だが確かにそこに在る。そしてこの島はこれからもTTレースと共にずっと在り続けるのだろう。来るか来ないかはオレ次第である。
さらばISLE・OF・MAN。さらばモーターサイクルの聖地よ。


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