知っているようで実は知らないもうひとつのホンダ。 Power Product Quest 第4回 「4ストロークのホンダ」を貫くジャンル それは、船外機!「アプリケーションエンジニアリング」の最先端 ホンダ船外機の今

これまで様々なホンダ汎用機器、改め「パワープロダクツ」を紹介してきたが、今回はその中でも独立して大きな市場を展開する船外機のお話。特殊なジャンルにライバルに後れを取って参入したホンダは、得意とする4ストロークでマーケットを切り開いていく。

文●ノア セレン 
写真●依田 麗
取材協力●Honda

水上を走るもの、水を汚すべからず

 ホンダが船外機に参入を始めたのは1964年である。その時すでに国内ではヤマハやトーハツが船外機事業をスタートさせていたため、このジャンルにおいては後発メーカーと言える。後発であるという事は参考にできる先輩がいるという事なのだが、ホンダは安易にライバルを真似なかった。早くから4ストロークの優位性・将来性に着目していた本田宗一郎は、ライバルの2ストローク勢に対してここでも4ストロークによる製品化を敢行した。軽量や低コストなどが重視される船外機の分野でもである。

 4ストロークの船外機を作るというのは、オイルの潤滑や重量などの面からもライバルに対して難しさや不利な点は多い。しかし船外機は構造上マフラーを持たないため排気ガスはプロペラの中央部分を介して水中に排出される。排出ガスにオイルが混ざる2ストロークではそれを直接海中に放出してしまっている。まだまだ環境問題などがクローズアップされる以前から、ホンダはこういった問題を重視し、「水上を走るもの、水を汚すべからず」を絶対的なポリシーとし、不利な状況を理解しながらも、一貫して4ストロークでこの事業に臨んだのだった。
 結果として、船外機においても環境性能が重視される世の中へとシフトし、ライバルが4ストローク化する頃には技術的にアドバンテージを築くことができていた。いかにホンダに先見の明があったかがわかるというものだ。こうして1964年に発売されたGB30。赤いエンジンや白いタンクなど我々バイク乗りからしても愛着ある姿を確認していただきたい。
 バイクにおいてホンダはNRなど4ストロークで究極を目指す一方、時代が変わっていく中では2ストロークにも着手しNSRなどの優秀なモデルも作ってきた。しかしこと船外機においては排気量を問わず一貫して4ストロークで展開を続け、空冷単気筒の2馬力からV型6気筒の250馬力まで揃える今のラインナップも当然全てが4ストロークとなっている。


ホンダ初の船外機GB30。単気筒サイドバルブ171ccで3馬力のG30型汎用エンジンをベースに推進機を装着。エンジンは簡単に脱着可能で、他の作業用動力としても使用することが出来た。静かで振動が少なく低燃費の4ストローク船外機は、近海や湖水漁業関係者などに好評を持って受け入れられた。

船外機専門。船体は持たない

 ホンダのマリン事業は船外機のみであり、船体は作っていない。船外機は船に対して完全に独立している。これは船外機のみで船体の動力性能を一手に引き受けることを意味し、船体とのマッチングは大変重要な部分である。つまり自社で船体も作っていればその相性は追求できるわけだが、ホンダでは逆にあらゆる船体にマッチングさせる技術が進んだともいえる。
 自社で船体を作らない代わりに、当日取材に訪れた細江工場には大小さまざまな船体が用意されており、それぞれにおいてテストをしている様子がうかがえた。これは他のホンダパワープロダクツと同じ図式だ。汎用エンジンを用意し、それが使われる機械とのマッチングを図る。ホンダ製品の性能が十分に生かされるよう、この部分に特に力を入れることが汎用の世界では大切なこと。
 船外機においても同様で船体とのマッチングがとても重要であり、ホンダではそれを「アプリケーションエンジニアリング」と呼んでいるそうだ。船体の重さ・長さ・バランス・求められる動力性能など様々な要素を検討し、いかに適切なエンジンを用い、適切なセッティングを施すか。パワープロダクツ全般において力を入れている部分であるが、船外機でも多岐にわたるボートメーカーの様々なボートに対応しながら最大限の能力を発揮させるよう合わせ込んでいく技術は、自社の船体を持たないからこそ熟成されてきた技術ともいえる。
 これを証明するように、アメリカのコーストガード、沿岸警備隊の警備艇に搭載するエンジンとしてホンダが選ばれている。非常に高い性能が要求される沿岸警備隊への採用は入札形式で行われ、ホンダは船体メーカーであるセーフボート社とタッグを組んで高性能な高速艇をエントリー。一般的には考えられないような高い動力性能、信頼性、耐久性はもとより、非常にハードな使用環境に置かれるため様々なテストが行われて最終決定されるのだが、最終的にセーフボート社×ホンダに採用決定。これは船体の優秀さはもちろんのこと、いかにホンダが動力源であるエンジンでその船体の能力を100%以上引き出したかを証明しており、ホンダパワープロダクツのマッチング技術の高さを示したことはもちろん、ホンダ船外機の能力・信頼性・燃費・環境性能などバランスの取れた高性能も認められた結果だ。



浜名湖に面し7万坪の敷地面積を持つ細江船外機工場。2001年8月から稼働し、今年3月までに累計183万2千台を生産。毎年8月には地域住民や従業員の家族などを招いてサマーフェスタを開催。各種催しの中でも浜名湖クルージングは人気ナンバーワン。


細江船外機工場では多数の船体とエンジンを組み合わせてテストを行っている。「アプリケーションエンジニアリング」とは、理論だけではなく地道な検証の繰り返しでもある

四輪の評判と技術を船外機にも生かす

 2018年3月までの累計生産台数は183万台を超えているホンダの船外機、現在のラインナップは空冷4ストローク単気筒OHV(57cc)の2馬力仕様から、最大では250馬力を発揮する水冷4ストロークV型6気筒SOHC4バルブ(3583 cc)まで11カテゴリー25機種をラインナップしている。そのうち、小排気量の単気筒の4機種は2015年から中国の工場で生産しているものの、それ以外の8馬力から250馬力の全ての機種はここ、浜松の細江船外機工場の1本のラインで生産している。四輪や二輪に比べれば規模は小さく、手作業の部分もまだ多く残るが、それゆえに小回りが利き、1か月の間に各種機種を生産、それも2巡するというのだからフレキシブルだ。
 船外機は、エンジンにほぼ直接プロペラがついているという、ある意味原始的な仕組み。それゆえに難しさもあるのだが、ホンダでは四輪の技術があるためそれを活かした商品展開もしている。
 5馬力仕様まではパワープロダクツのエンジンがベース、8〜50馬力までは専用開発エンジンだが、60馬力以上のモデルについては四輪のフィット、アコード、そしてレジェンドのエンジンをベースにしているのだ。ベースにしているといっても船外機はそもそもエンジン搭載の向きが違うため潤滑系統は見直さなければならず、また冷却についてもクーラントを循環させるのではなく海水(もしくは湖水・川水)を使うためやはり独自の経路や技術が必要。さらには船外機にはミッションがないため、変速機関係は全て省略される。こう考えるとあくまで四輪エンジンをベースにしているというだけで、かなり手が加えられていることがわかる。これをホンダでは「四輪のマリナイズ」と呼ぶそうだ。いかに四輪エンジンをマリン用に変更するか、という事である。
 そのためには多くの苦労もあるが、しかし四輪エンジンですでに性能や信頼性、燃費などの技術が確立されているというのが強み。PGM-FIやVTECなど我々になじみのある技術もふんだんに使われており、船外機独自の技術であるECOmoモード等と組み合わせ、高性能と同時に他社同クラス機種よりも1.5倍ほどの低燃費も達成している。これは四輪で培ってきた様々な技術を有効活用することで得たもので、四輪に対する高い評価や評判のイメージをそのまま、船外機もホンダを選ぶというお客さんも多いという。
 ちなみにホンダではパワープロダクツのエンジン、四輪のエンジン、二輪のエンジンと豊富に様々な形式のエンジンを持っているのにもかかわらず、中排気量帯には船外機専用エンジンも存在している。3気筒SOHC2バルブで998ccや808cc、552ccをラインナップ。ホンダに3気筒のイメージは(軽自動車を除いて)なかったためこのエンジンは専用設計なのかと質問すると、「専用ではあるが、そもそもはより排気量の大きい四輪用の4気筒エンジンから1気筒削った仕様であったりする」との返答。直接的に四輪エンジンを使っていなくとも、様々な選択肢があるからこそ、より船外機のニーズに合わせた専用エンジンも作り出しやすいというわけだ。



四輪用3600ccV6エンジンを縦型にして搭載し、2011年に登場した250馬力のBF250。優れた加速性能を実現するホンダ独自の空燃比連動点火時期制御BLASTなども採用。低燃費や高い動力性能などが評価され優秀な船外機に贈られるIBEX 2011イノベーションアワードを受賞。価格は2160000円〜(税抜)。

二面性を持つ船外機マーケット

 第一回第二回のインタビューで芝刈機や汎用エンジンについて伺った時と同様に船外機もまた、主に地域によって実用とレジャーという二つの使われ方がされている。今回お話を伺った、パワープロダクツ事業本部・マリン事業部の佐藤公亮部長は、ホンダ入社後しばらくして、パワープロダクツの仕事で韓国・台湾を担当。この時に船外機に出会うのだが、これら地域では基本的に漁業ニーズがメインで、あくまで実用としての船外機の姿を見る。
「韓国は当時輸入制限があったのですが、船外機はその対象ではなかったんですよね。そんな時に韓国のディストリビューターからのアプローチもあって、韓国で販売を開始しました」と佐藤さん。また同様に実用ユースとして、中国マーケットでも内陸でカニや小魚の養殖を行う業者によって使われている主に小排気量の船外機などに関わってきた。
 一方で後の赴任先であったカナダでは、完全にレジャーとして楽しまれている船外機にも出会う。
「カナダは小さな湖が無数にあるんです。春・夏になると地元の人はもちろん、アメリカからも家族連れで長期の釣りキャンプにくるんですね。そういう人たちは湖で船に乗って一日中釣り三昧。同じホンダの船外機が、排気量は違いますがこちらでは完全にレジャーユースで使われていまして、これは新しい船外機の一面との出会いでしたね。この二面性を見てこれは面白い製品だなぁと思いました」
 カナダだけでなく、先進国で主にレジャーとして楽しまれているのは40馬力以上の船外機。かなりプレミアムな商品であることを思えば、実用で使われているものとの対比がわかるというもの。芝刈機などと同様、広い意味では同じ仕事をこなす商品が、ラインナップや地域によってまるで別の使われ方をするという二面性を持っているのだ。



海外ではレジャー用も需要が高いホンダの船外機。その根底にあるのが高い性能と信頼性。1999年オーストラリアの冒険家ハンス・ソルストラップ氏が全長約5.4mの小型ボートにBF90を装備、オーストラリアから日本へ約6000kmの単独航行に成功。このサイズのボートによる単独航行は世界初の快挙だった。 海外ではレジャーユースの他、コーストガードの警備艇にも採用されているホンダの船外機。日本では主に漁業など業務用で採用される場合が多い。漁業関係者にホンダの船外機は扱いやすく壊れないと評判が高く、GB30以来ホンダ一筋というユーザーも多いようだ。

船体の大型化と共に躍進する大型船外機

 では船外機の今後はどうなのだろう。実は船外機マーケットは特に大排気量帯で伸びているという。というのは、かつて一般的だった船内機、いわゆる船底にエンジンが載っている船は減ってきているというのだ。その理由は、船内機はメンテナンス時などにアクセスが悪く、またマイナーな存在になりつつあるため新機種が登場せず、既存のものは設計が旧くて近年の環境規制に対応できなくなってきているからだ。加えて船底にエンジンがあると船内スペースが限られてしまう。その点船外機は船内が広々と使え、大掛かりなメンテナンスなら船から外して行うこともできる。こういった点が着目された事、また船外機の高性能化により、最近では船外機を装着するタイプの船が増えているそうだ。

「メンテ時などのアクセスがしやすいこともあって近年は船外機にシフトする傾向にありますね。またパワーの大きい船外機も人気です。久しぶりにマイアミのボートショーに行ったところ、数年前よりも格段にレジャーボートが大きくなっていますね。これを効率的に走らせるとなるとかなりパワーのある船外機が必要になります。さらにありがたいことに、レジャーユースとなると船外機を見せびらかしたい、といった気持ちもあるようで、大パワーの船外機を船尾に複数並べるのが最近のトレンドのようです。実際にハイパワーな船外機3基掛け、4基掛けされているはカッコ良いですよ(笑)」
 大きな乗り物やハイパワーエンジンを見せびらかしたい……バイクと似たような感覚ではないだろうか。
 ホンダのラインナップでは現在250馬力が最大だが、マーケットには300馬力、400馬力級の製品もあり、今後はさらにハイパワーなモデルを展開していくことだろう。
 一方で国内は、一部の釣り愛好家などを除きいまひとつマリンレジャーはメジャーな遊びにはなっていないようだ。遊びやすいインフラなどの環境もアメリカやカナダのようには整っていないかもしれないが、それ以前にレジャーの選択肢として意識されていないというのが現状だろう。
「マリンレジャーが流行らないというよりは、単純に楽しみ方が知られていないのではないかな、と感じます。こちらから、こういう遊び方がありますよ、こんな風に楽しめますよ、というのをアプローチしなければいけないと考えています。そんな一環で、入門機のBF2(2馬力)は4色のカラーラインナップを展開しました。製品の見た目から楽しそうだな、と感じてもらえれば嬉しいですね」


パワープロダクツ事業本部マリン事業部 部長
佐藤公亮さん

1986年ホンダ入社。1年間の実習を経てすぐにパワープロダクツ部門へ配属される。出勤したら革靴を地下足袋に履き替え、軽トラを運転して機械の実演をするという農業機械の仕事を九州で4年間。その後に4輪を2年間挟むものの、海外勤務を希望したことで再びパワープロダクツに戻り、コマーシャル領域での担当としてパワープロダクツの海外営業に携わる。1996年にはカナダへと赴任。パワープロダクツだけではなく二輪やATVも含め取り扱う。ここでレジャーユースの船外機に出会い、5年の赴任を終えた時には「マリンをやりたい」と希望。国内において管理職を経て、2011年からは中国に5年間。合弁会社における船外機の事業化などに関わりレジャー領域での船外機の普及に尽力した。

 鮮やかなイエローやレッド、ブルーが展開されるBF2を見ると、なるほど「楽しそうだな」と思わせてくれる。バイクと同じだろう、見た目に「なんだか楽しそう」「カッコいい」「使ってみたい」と感じさせてくれる製品こそが遊びへの取っ掛かりとなるものだ。こういった小排気量船外機から興味を持ってもらい、ゆくゆくは官・民が一体となって楽しみやすい環境づくりにも取り組みたいという。
 実用領域で活躍する船外機、レジャーユースで大型化するプレミアム大型船外機、そして国内ではこれからアピールしていきたい船外機を使ったマリンレジャー。パワープロダクツの中でも独立している感のある船外機の分野だが、今回の取材を通して、また一つ世界で活躍するHondaを見た。


空冷単気筒OHV57ccエンジンで、2馬力クラス最軽量を達成。国内では唯一の遠心クラッチを採用したBF2。船舶操縦士免許不要で入門用に最適。昨年5月シルバーに加え、黄、青、赤、白をラインアップ。価格は132000円(税抜)。

細江船外機工場 1本のラインであらゆる船外機を生産
浜松の細江船外機工場では、1か月の間に全ての機種を2回ずつ生産。8馬力からスタートし、最大の250馬力まで大きくしていき、また小さくしていくというサイクルだ。10馬力までは、ライン上の各作業員が作業する時間は約80 秒という設定。最大馬力である250馬力仕様では約250秒という設定のため、その分ラインはゆっくり流れる。



まずはラインで組み込まれていくエンジンパーツがそれぞれ手作業であらかじめ組まれている。 ライン上は重いエンジンを作業員に負担をかけることなく作業しやすい向きにするため、機種ごとにアタッチメントがありそれを回転させたりすることもできる。勤務は2時間交代。その間は立ちっぱなしとなるため、クッション性のある床材を採用するなど腰痛対策もして快適な作業環境を確保している。


エンジンが組みあがると、スイベルと呼ばれる実際に水中に入る部分とクレーンを駆使しながら結合。 完成後はムリネというこの部品をプロペラの代わりに装着し、水槽で最大回転数までしっかりと回してテスト。本来のプロペラを装着しては高出力エンジンのテストが水槽内でできないためだ。

歴史を変えたホンダの船外機

1971年 BF45/75

1990年 BF35/45

1993年 ボーデン湖規制

船外機用に専用設計された水冷2気筒エンジン(4馬力と7.5馬力)を搭載したホンダ初の本格的な船外機。扱いやすくバランスのとれた性能と安全性が好評で、1990年代まで販売されるというロングセラーとなった。 シカゴボートショーで発表されたホンダ初の中型機は、曲線主体の新デザインを採用。ストライプの一切入っていないシルバーメタリックのボディは、直線的だった他社船外機のデザインも変化させるきっかけにもなった。 欧州で実施された船外機初の排出ガス規制がボーデン湖規制。2ストローク勢が対応不能の中、ホンダ船外機は全ラインアップが規制値をクリア、世界を驚かせた。写真は1998年クラス初の電子制御燃料噴射を採用したBF115/130。

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