西村 章

 もし、第4戦ヘレスの6コーナー立ち上がりでアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)が転倒に巻き込まれていなければ。あるいは、もし、第5戦ル・マンでアンドレア・ドヴィツィオーゾが、彼には珍しいフロントからの転倒で自滅していなければ。

 既に済んでしまった勝負ごとを〈たら・れば〉で仮定してみても意味のないことではあるが、これらの二戦でもしも彼が優勝してマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が2位もしくはそれ以下の順位に甘んじていれば、2018年シーズンは今とはかなり様相の異なっていたものになっていたはずだし、第13戦サンマリノGPで優勝を飾ったような強さをドヴィツィオーゾがシーズン序盤から毎戦発揮していれば、今頃は相当に緊迫したチャンピオン争いになっていたことだろう。いっても詮ないことではあるし、じっさいにはそうはならなかったところが、今年の各選手各陣営の勢力争いの現実ではあるのだが。そう、それこそドビがよく口にする〈リアリティ〉というヤツである。



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 とはいえ、今回のドビ、そして、ラスト2周で転倒してしまったとはいえ、チームメイトのホルヘ・ロレンソの速さは、彼らの直近のライバルでチャンピオンシップをリードするマルケスを内実ともに圧していた。

 土曜の予選を終えてポールポジションを獲得したのはロレンソ。自身がヤマハ時代に記録したサーキットベストラップを2年ぶりに更新したPPである。対するドヴィツィオーゾは2列目4番グリッド、マルケスは同列5番グリッドからのスタートになった。

 トップグリッドスタートのロレンソは
「ドゥカティは今まではここミザノで苦戦傾向だったけど、一ヶ月前に実施したテストでもいい走りをできて、そのときの内容を上手く活かしていいバイクに仕上げることができた。フィーリングはいいし、レースペースもいい。明日は27周の長丁場なのでキツいレースになるだろうし、温度条件が上がるだろうからタイヤにも厳しくなるだろう。タイヤ選択が重要になると思うけれども、最終決定は明日の状況を見て決めたい」
 と話し、ドヴィツィオーゾは
「明日は速いタイムのレースになるだろうね。ホルヘは、最初から飛ばしてレースを引っ張りにかかると思う。自分も明日に向けた戦略はあるけれども、レース展開の中でそれを実行できるかどうかは別問題。状況を見ながらうまく対応していきたい」
 と日曜の戦況を予測した。

 一方のマルケスは
「ドゥカティはブレーキで安定しているし、旋回もいい。タイヤが新品の時は差が大きいけれども、消耗してくると彼らとの差は小さくなる。明日は、ついて行ければ対応はできると思う」
 と希望的観測も込めながら抱負を述べた。

*   *   *   *   *

 日曜午後二時にスタートしたレースは、ドヴィツィオーゾの予想どおりにロレンソがホールショットを奪って序盤から前に出た。しかし、6周目でドヴィツィオーゾがトップを奪うと、以後はマルケスやロレンソよりもコンマ数秒上回るラップタイムを連発して、じわじわとふたりを引き離していった。

 マルケスはレース後に「ドビに追いつけそうになかったので、5ポイントを捨てても2位を確保することに切り替えた」と振り返ったが、ロレンソの前に出ても前のドヴィツィオーゾを追うのではなく、自分の位置をキープするための走りになっていた。

 一方のロレンソは、中盤から終盤にチームメイトを追い上げる望みは最後まで捨てていなかったようだ。両選手は、レース展開を以下のように振り返っている。
「(レース中盤に)ホルヘを抜くことができたのは、向こうがミスをしたから。今日はドゥカティについていくことはできても抜くことまではできなかった」(マルケス)
「ブレーキでミスをしたときにマルクが抜いていったけれども、彼はドビに追いつけるペースじゃないとわかっていたので、2位のポジションを守るためのブレーキングで走っていた。それでドビがさらに逃げて、差が開いてしまった。そこから追いついて、1.3秒まで差を縮めた。その先を詰めていくのは厳しく、フロントに不安もあったものの、かなりムリをして攻め続けた。旋回角度が1度だけ深くて、その際にフロントがブレーキングを支えてくれなかった」



 ロレンソがラスト2周の8コーナーでフロントを切れ込ませて転倒してしまったため、結果的にマルケスが2番手に浮上。単独4番手を走行していたカル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)が3位でチェッカーを受けた。

 ちなみに彼らのタイヤ選択は、ドゥカティふたりはフロント・リアともにミディアム、対するホンダはマルケス、クラッチローともフロントがハード、リアがミディアムという選択だった。

 ロレンソによると、今回はタイヤの使い方の面でドヴィツィオーゾの方が彼よりも一枚上手だったようだ。
「ドビはとても安定したタイムで走っていた。彼には、どのコンディションにもうまく対応してタイヤをしっかり作動させるだけの経験がある。ソフトなら自分のほうが0.2秒ほど速く走れたかもしれないけれども、逆に僕はミディアムで苦戦傾向だった」
 ことほど左様にタイヤ選択(およびそこから来るライダーの安心感と自信)は、走りに大きく影響する、ということなのでありましょう。

 ちなみに、彼らとやや異なるタイヤ選択をしていたのが、4位に入ったアレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)である。彼の場合はフロントにミディアム、リアがソフトというコンパウンドの組み合わせだった。10番グリッドのりんちゃんはスタートを上手く決めて1周目に6番手へ浮上。その後、クラッチローたちとバトルをしながら4番手へポジションアップ。最終的にはクラッチローから離されて単独走行になってしまったが、その理由は「おもいのほかフロントタイヤが早く終わってしまったので、ポジションを守ることに切り替えた」のだとか。



「フロントはタイヤパフォーマンスのせいなのか、何か原因があるのかはわからないけど、土曜のFP3やFP4でも似たような問題があった」
 と話す彼に、今回のタイヤ選択はスズキのマシンにベストチョイスだったのかどうか、と訊ねてみた。
「ベストの選択だったと思うよ」
 と、即答するりんちゃん。
「今回のウィークではフロント用にハードを履いてない。ソフトは金曜に試してみたけど、ソフトすぎた。だからミディアムが当然の選択。リア用は、ウィーク中に何回かミディアムも試したけど、フィーリングがよくなかった。スピニングが激してトラクションも良くなかった」

 結果は、表彰台まであと一歩。つまり、コンセッション解消までもあともう一歩。シーズン残り6戦で、あと一回表彰台に登壇すれば、スズキ勢は来季から通常レギュレーションに復帰である。

*   *   *   *   *

 というわけで今回はここまで。次回はスペインとはいえ、まさに荒涼とした僻地のど真ん中に建つモーターランドアラゴン。ではそれまでしばらくごきげんよう。

次戦、アラゴンGP(モーターランド・アラゴン)は9月23日決勝です。

 



■2018年9月9日 
第13戦 第13戦サンマリノGP


順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


2 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


3 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA


4 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


5 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


6 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


7 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


8 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


9 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


10 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


11 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


12 #21 Franco Morbidelli EG 0,0 Marc VDS HONDA


13 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


14 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


15 #51 Michele PIRRO Ducati Team DUCATI


16 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


17 #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATI


18 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


19 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


20 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


21 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


22 #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA


23 #23 Christophe PONSSON Reale Avintia Racing DUCATI



RT #6 Stefan BRADL HRC Honda Team HONDA



RT #44 Pol ESPARGARO Red Bull KTM Factory Racing KTM



RT #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI



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