オオカミ男のひとりごと

HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい! と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250?、エイプ750?。
第72回 海外編第19章 Police car

 
ジャービーの町を出たオレ達は一路、ピールという港町を目指した。その途中、同行しているメンバーの一人が水車を見たいという事で寄る事に。オレは二日前にラムジーからダグラスまでの電車の中から見ている。だがこの道中にあるのはあれとは別のもう少し規模のデカイやつらしい。雨は上がり空には晴れ間も見えてきていた。
到着してみるとここはどうやら観光で人気が高いようで駐車場も広く結構な台数の車、バイクがいた。
駐車場から歩いて5分ほど。目の前にクソデカイ水車が見えてきた。
正面にはマン島のシンボルともいえるトリスケルのエンブレムが誇らしげに刻まれている。
その手前にゲートがある。中の方まで入っていくのは有料のようだ。

 
他のやつらはお金を払って中に入ったがオレはそこまでの興味はない。彼らが出てくるまで敷地内にある土産物屋で時間を潰すことに。店内は多くの人で賑わっていた。それほどの品数はないがやはりTTレースのグッズも置いてある。
その店の一角に何やら燻製のようなものが陳列されているショーケースを見つけた。
その中にあった魚の燻製がなんだかとってもオイシソウ。
もちろんオレの中の警戒心は今となってはどうやったってぬぐい切れない。
だがここまで来たらとことん試してみるべきだろう。ちょうど昼時で腹も減っている。
オレはパンとコーラ、そしてその魚の燻製を買って昼食にする事にした。
駐車場に戻るとまだみんなは戻ってきていない。さっそくその燻製の封を切ってみる。
まぁ、できたてではないので香りが立ち上るわけでもない。ほぼ無臭。余計な期待はしない。
今日の話のネタに味気ない燻製を食べたというだけでいいのだ。そして一口かぶりついた。
あれっ!? ウマァ~イ!!

スゲェ、ウメェ! なんだコレは!? ニシンかマスか?

これまで食ってきたものは何だったんだと言いたくなるほどの絶妙な塩加減。
コーラでなくビールにしときゃよかった。ちゃんとあるじゃねぇか、オイシイもんが。
ここへきてやっとまともな食い物を見つけた。マン島での生活も実質あと一日ほどしかないが意外とこの調子で次々においしいものにありつけるかも・・・なんて期待も湧いてくる。
まぁ、現実にはそんな事はまったく起きなかったのだがそれはまた別の話。久々のウマイ食事を食べ終えた頃、他の連中が戻ってきた。この燻製の話をすると例のマン島通の彼がそれがニシンの燻製でマンクス・キッパーというマン島の名物だと教えてくれた。
オレ達は再び車に乗り込みピールへ向かった。30分ほど走ると海が見えてきた。視界の端の方には城のようなものが見える。ピール城である。

 
近くまで行くとその城はかなり大きいものだというのが分かった。しかも荘厳なその風情は相当な歴史を感じさせる。聞くと建てられたのは900年も前だという。納得である。
この城も中に入ってみるのは有料。同乗メンバーのうち二人が中を見たいというのでここで降ろすことに。オレはイベント会場の方へ行く事にした。
海沿いのピールの街中は人でごった返していた。街の駐車場へ車を停め、そこから会場までは歩いていく。
その途中、何やら人だかりが見えた。一台の車に人が群がっている。
まだ距離があったためぼんやりとしかその車両の後ろ姿は見えなかったが・・・なんかフォーミュラカーのようなシルエットだ。展示車両か? だが近づくにつれそうでない事がわかってきた。ナンバープレートが付いている。
イベントの参加者が珍しいスーパーカーに乗ってきたのだろう。モーターサイクルのイベントではありがちな話だ。
それにしても見た事のない車である。
ボディデザインは派手なウイングこそついていないものの完全なフォーミュラカー。
一人乗車の定員で当然、屋根などついていない。
この天候の変わりやすいマン島で、なんて酔狂な。そしてその車両の前まで行きその全貌を目の当たりにした時、オレは我が目を疑った。
その車体にはデカデカと“POLICE”と書かれている。英語力の乏しいオレにもこの忌々しい単語は理解できる。
マジで! ウソだろう!?
どうやらこの島でイカレているのはTTレースのライダーだけではないようだ。



 
日本でもGT-Rやインプレッサといったスポーツカーをベースにした警察車両があるのは知っているがいくら何でもこれはあまりにもカッコ良すぎだろう。
こんなのに後ろに付かれたら止まれと言われなくても止まってしまいそうだ。
マン島では主要な街中を除いては実質、速度は無制限と言われている。そんな環境で本気で取り締まろうと思ったらこれくらいの車両が必要という事なのだろうか。
さすがマン島。モーターサイクルの聖地と言われるだけの事はある。
ここへきてまだこんなサプライズがあろうとは。何から何まで様々なバリエーションでオレを驚かせてくれる。きっと他にもまだ色々とビックリするようなものがこの島にはあるのだろうな。だが明後日にはオレは帰国の途につかなければならない。最終日を待たずして名残惜しさがじわじわとこみ上げてきた。
イベント会場に足を踏み入れてみるとステージではアマチュアバンドがライブを行っていた。会場内にはカスタムされたバイクが展示されている。そのスタイルは日本で行われているバイクのイベントとほとんど変わらない。



 
しばらくの間、本場のロックを聴き、遠目に城を眺めながら時間を過ごす。
会場の盛り上がりが一段落したところで一緒に来ていたW氏の提案でピールの街を散策する事に。海沿いを歩いていると前方から歩いてくる日本人を見つけた。手にはヘルメットを持っている。向こうもこっちに気づいたらしく手を振っている。誰かと思ってよく見てみると以前、メイン会場で会ったマーシャルのY君だ。こんなところで会うとは何たる奇遇。
彼は今日のレース中止を受けて時間ができたので島内をバイクでツーリングしていたようだ。ホテルに帰る途中、ここのイベントに寄ったらしい。少し話をしたのち彼はバイクに跨り颯爽と走り去っていった。
いいなぁ~。今回は無理だがいつかこの島をオレもバイクで走ってみたい。
オレ達は再び街中を見て歩いた。海沿いの通りにはパブをはじめとする飲食店が立ち並んでいた。他の連中との待ち合わせまでまだ一時間以上ある。少し早いがここでもう夕食を済ませてしまおうという話になった。どの店も恐ろしく混みあっていた。
3軒目に入った店で何とか二人分の席を見つけそこに座った。
メニューを手に取り見てみる。
やはりさっぱりわからん。
この島ではどの店もメニューには文字の羅列だけで日本のファミレスのように写真などは載っていない。困った。
するとW氏の横で食事をしていたオジサンが彼に話しかけてきた。そしてメニューを指さしながらあれこれと語っている。オレにはまったく理解できなかったがW氏はある程度、わかったようだ。オジサンが何を言っていたのか聞いてみるとなんでも「俺が今、食べているものがイギリスで最もポピュラーなものだから食べてみなさい。」と薦めてきたそうだ。
メニューに書かれている“STEAK&KIDNEY”というやつらしい。
W氏はせっかく薦めてくれているのだからとそれを注文する事にしたようだ。
なかなか、チャレンジャーである。
さてオレはどうするか。
イギリスでポピュラーと言ってもフィッシュアンドチップスの例もある。それに・・・STEAKはわかるのだが一体、KIDNEYってのは何なんだ。謎である。
よく見るとメニューにはSTEAKとだけ書かれた項目もあった。オレは冒険を避けてそのステーキだけのやつを注文する事にした。昼においしいものを食べたせいでオレはすっかり守りの姿勢だ。せっかくなので飲み物はギネスの生ビールを注文した。
ひとまずは乾杯してビールを一口。
うぉっ!? ぬるい!! なぜに生ビールがこれほどにぬるいのだ。
実はオレはドラフトマスターの資格を持っている(ドラフトマスター=客に生ビールを提供するスペシャリスト)。
あえてその立場から言わせてもらえばこれは許せん!
だが・・・この超アウェーな強面のバイク乗り達がひしめいている店内で文句など言えるはずもない。泣く泣くぬるいビールで喉を潤すオレなのであった。
ほどなくして料理が運ばれてきた。
おや? オレがオーダーしたのはSTEAKのはずなんだが・・・。目の前にはシチューのようなものの上になぜかパイが乗っかった不思議な食べ物が。そして、たっぷりのフライドポテト。

 
オレは普通に焼いた肉を想像していたのだがこっちではこれをSTEAKと呼ぶのだろうか。
これまた謎である。

とりあえず食べてみるとやはり普通にビーフシチューである。マズいというわけではない。かといって特においしいわけでもない。ただ、なぜシチューの上にパイを乗せてあるのだろう。一応、パイはそのまま食べてみたりシチューにつけてみたりしたがそれで特に味わいが変わるわけでもない。頭の中にクエスチョンマークを躍らせながら黙々と食べる。
W氏は隣のオジサンに「どうだ、うまいだろう。」みたいな事を言われている。彼はそれに笑顔で親指を立てて見せていた。しかしその笑顔は微妙に引きつっている。あとで聞いたらKIDNEYは内臓の事だったようだ。なんとか謎の肉料理を食べ終えたオレは一旦、トイレに行った。やはりポテトがやたら多いせいで無駄に腹一杯になっている。満腹感はあっても満足感をイマイチ感じないのがこの島の食である。
トイレから戻るとテーブルの上に新しいビールが置かれていた。W氏が買ってきたようだ。
「これは?」と聞くと「まだ時間があるんでもう一杯飲みましょう」と。
腹は一杯だったが奢ってくれるというのでありがたく頂戴する事に。それに買ってきてくれたのがマン島オリジナルの地ビールらしいので興味もある。
改めて乾杯しビールを口に運んだ。
こっ、これは・・・完全にダメなやつだ。
ぬるいのは覚悟していたがそれ以前にスゲェ、マズい。
せっかくの奢りなので頑張って飲んだが半分でオレはギブアップ。W氏に「申し訳ないがこれ以上、無理だわ。」と言うと彼も同感らしく「うん、おいしくないよね。コレ。」と。
彼のジョッキは半分もすすんでいない。さっきまで名残惜しさを感じていたオレだがなんか・・・早く日本に帰りたくなってきた。


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