斉藤和記フォトギャラリー 原点は、8耐。

インディカーを25年以上追い続けている写真家・斉藤和記の原点はミスター・バイクであり、モータースポーツ写真の基礎を学んだのは鈴鹿8耐だった。
第101回インディ500で佐藤琢磨の勝利を撮影し、インディカーに一区切りを付けた斉藤が、もう一度撮りたい、と思ったのが40周年の8耐だった。
インディカー・フォトグラファーが切り取った8耐のシーンをご覧ください。

■写真・文:斉藤和紀


 1993年からインディカーのレースを撮影している斉藤和記です。はい、昨年佐藤琢磨選手が初優勝したインディ500なら知ってるぞ、という方もいるかもしれませんね。1周の平均速度が約370km/hのオーバルコースを200周し、近年は3時間ぐらいで500マイル走っちゃいます。だいたい東京から広島ぐらいまで行ってしまう感じで、琢磨選手は101回目のチャンピオンに輝きました。
 いったいなんでそんなヤツがミスター・バイクで8耐のフォトギャラリーなんかやるんだ? と思うかもしれませんが、実はもともとこの業界に入るきっかけがミスター・バイクで、80年代の中頃に東京エディターズでバイトしたのが最初でした。それまで舞台やステージ関連の写真を撮っていたものの、雑誌の世界はまるっきり初めてで、編集や原稿の書き方などをこの虎の穴で一から学ばせてもらったんですね。
 後々それが自分の本『US-RACING』やインディ500の写真集『The 101st Indy500 ── In the ZONE 極限への挑戦』作りに繋がっていくことになるなんて、毎日の徹夜でフラフラになっていた当時は夢にも思ってもいなかったわけですが、それどころかその編集時代に始めたレースの撮影がやがて本業になるとは、これっぽっちも考えていませんでした。ほんと、人生どうなるかわからないもんです。


 ミスター・バイク時代はその後の自分の方向性を決める様々な出会いもあり、かつてアメリカに住んだことがあるという人が周りにはたくさんいて、いつの日か自分もと思うようになっていました。意を決してカミさんと一緒に渡米したのが1992年で、その翌年のロングビーチでとうとうインディカーと出会ってしまったんですね。
 日本ではF1の撮影も経験していたのですが、4輪は2輪と違ってドライバーがよく見えないせいか、どうもしっくりこないというか、あまりその面白さが理解できませんでした。それがなんでインディカーにハマったのかというと、市街地コースだったので手を伸ばせば触れるんじゃないかというほど近く、バンピーな路面でドライバーが必死にドライブしている様子が良く見える!
 間には60センチぐらいのコンクリート・ブロックと金網のフェンスしかないので、音も凄ければ小石やタイヤカスがバチバチに飛んできて痛いだけでなく、たまにコンクリートに突っ込んでくることもあって、僕自身は逃げたもののカメラとレンズがすっ飛んだこともありました。コーナーを立ち上がって壁ぎりぎりに掠めていく時など、今でも変な汗をかきますし、毎回生きている幸せを実感する日々です。
 これですっかり虜になってしまった僕は、その由来ともいうべきメインレースのインディ500も行かないとまずいだろうということで、翌月インディアナポリスへ。でも今度はそのスピードが速すぎてフレームに収めることすら難しく、それまで培ってきた自信は粉々に砕け散りました。このままじゃ終われない、そう思って続けることにしたらあっという間に25年が経ってしまったんですね。


 ほんとうに幸運だったのは、やはり日本人ドライバーの初優勝を撮れたことで、40万人もの観客の目の前で母国のドライバーが勝利する瞬間を撮影できたことに尽きます。しかしその反面、残念ながら仕事につながることはほとんどなく、各誌面を飾ったのは無料のオフィシャル・フォトばかりでした。ある程度覚悟はしていましたが、実際にその現実にも直面することになったわけです
 もはや自分の中で完全に吹っ切れた感もあり、それまでこだわってきたインディカーの全戦撮影を、今こそ辞める時だという決心がつきました。永遠に現場に行けるわけではないので、いつかその決断を下さなければならないとこの5年ぐらい考えていたんですね。そして、これまで行きたくても行けなかった他の撮影もどんどんしようと決め、最初に選んだのが40周年となる8耐と、相馬野馬追でした。
 8耐はミスター・バイク時代、僕にモータースポーツ撮影の面白さを教えてくれた最初のレースです。バイクのレースはすべてそうですが、生身の体をさらけ出して戦うライダーたちはほんとうに魅力的で、もう一度撮影する機会をいつも模索していました。結局、最後に行った1991年以来の撮影になり、木曜と金曜日の二日間だけになってしまったのですが、もう楽しすぎて至福の時間はあっという間でした。


 金曜のナイトセッション終了後、今度は鈴鹿から福島県の南相馬市までドライブし、朝から相馬野馬追を撮影。東日本大震災で地震や津波だけでなく、東京電力福島第一原子力発電所の事故に遭いながらも、1000年以上の伝統を絶やすことなく継承している現代のサムライたちを撮るのも長年の夢でした。今月21日13時から30日17時まで、『南相馬市民文化会館ゆめはっとギャラリー』でインディカーのベスト・ショットと一緒に写真展『相馬野馬追とインディ500に挑むサムライたち』をやるので、ぜひ見ていただければと思います(詳しくは をご覧ください)。

 ところで、レース直後はほとんど需要がなかった佐藤琢磨選手が優勝した第101回インディ500の写真ですが、その後まったく予想外の展開が待っていました。前年に制作した第100回インディ500写真集の読者から要望を受け、クラウドファンディングで印刷などの足りない資金を調達したところ、希望の額の倍近くを達成。琢磨選手の過去7年間の参戦経緯も含めた第101回インディ500写真集として、世に送り出すことになったのです。

 応援していただいた中にはミスター・バイク時代の上司や同僚もいて、ほんとうに嬉しくなりました。レース終了後は現実に直面して少し愕然としたものですが、それでもできることを探して前向きに動いていれば、なんとかなるんだなと。人のつながりはほんとうに大切だと実感しましたし、このままではお蔵入りするしかなかった昨年の8耐の写真をこうして古巣のミスター・バイクに載せてもらえたことも感謝感激で、なんだかレースの撮影を始めた頃を思い出します。

 僕の新しい人生の門出は、いつもミスター・バイクから始まるんですね。これからはインディだけでなく、色々な撮影にチャレンジしていきたいと思っているので、みなさんどうぞよろしく!


※斉藤和記の写真はこちらのFacebook(https://www..com/3110.Photography.jp/ )にもありますので、良かったらご覧ください!

※写真集『The 101st Indy500 ── In the ZONE 極限への挑戦』の問い合わせ、購入は[email protected]までメールでご連絡ください。