オオカミ男のひとりごと

HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい! と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250?、エイプ750?。
第68回 海外編第16章 Sulby straight

 
後ろ髪をひかれる思いでVIP席を手放したオレ達はこれからサルビーストレートへ向かう。
ちょうど昼時である。目の前のスーパーできっと美味しくないであろうハンバーガーと飲み物を買い移動を開始した。車に乗り込み少しした頃、オレの携帯が鳴り響いた。表示を見ると母親からだ。普通に着信してるし。これにはちょっと驚いてしまった。ちなみにオレは今回、マン島に行くという事を母親に告げていない。つまりオレが今、どこにいるか知らない。恐る恐る出てみると
「明日、親戚の○○さんと○○さんが畑の野菜をとりに来るんで軽トラを別の場所に動かしておいてくれない。」と。
何なんだこの目の前の状況と会話の内容のギャップは!?だが今さら現状を知らせ、事の経緯を説明するのは実に面倒くさい。
ということで「100%無理!! 邪魔なら勝手に動かしてくれ」とだけ言って電話を切った。他にも1件、日本からの着信があった。相手はオレのキャンプ仲間だ。どうやら観戦中の騒ぎの中で気づかなかったようだ。とりあえずかけ直してみる。数回のコールで出た彼は
「毎年やってる○○さんのキャンプって今週末だっけ?来週末だっけ?」と。
なぜそれをオレに聞く?
本人に聞くのが一番手っ取り早いだろうに。彼もオレがマン島にいる事は知らない。
とりあえず知っている情報を教えてやると「今年は行くの?」と。
行きません!って言うか、行けませんて!!
いい夢を見ている最中に叩き起こされたような苛立ちがこみ上げてくる。いや、彼らが悪いわけではない。これはスマホ、携帯など道具の進化による副作用的な弊害の一つだ。
その機能の素晴らしさは認めるが便利すぎるのも考えものである。
10分ほど農道を走りサルビーストレートへ着いた。

 
ライトウェイトクラスの出走までまだ少し時間があるのでその前に腹ごしらえだ。T夫妻もオレと同じくハンバーガーを買ってきたようだ。んっ!?
彼らは何やらケチャップかマスタードのようなものをかけているが・・・
聞くとこの手のソース類はハンバーガーなどを買った際にレジで言ってもらうらしい。なんてこった。オレ、もらってないし。そんな事、知らないし。自分のやつを開けてみると確かに何もかかっていない。またしても痛恨のミス。それでも空腹には勝てずそのまま食べてみるが・・・やはり、先日、教会で食ったトマトだけサンドイッチに勝るとも劣らない味気無さだ。とにかくひたすらコーラで流し込む。これはもはや食事というより作業である。

ひとまずカロリー補給という作業を終えたオレは観戦場所の物色にかかった。
サルビーストレート。
TTレース屈指の最高速アタックポイント。
距離にして5キロほどの直線なのだが実際は緩い超高速コーナーが点在しているため純粋なストレートはそれほど長くないとも言われる。しかも完全にフラットとは言えない狭くて荒れた路面。しかしトップクラスの連中はそんな事、お構いなしにここを300オーバーで駆け抜ける。中には「ここが休憩区間」などと言ってのける奴もいるとか。
やはりマン島TTにおいてトップであるという事は一番イカレてるという事なのである。
観戦場所としてはストレートの中間付近から終わりのあたりまで牧草地を歩いて移動できる。そして思っていたほど観客は多くない。しかもバラフブリッジのように柵を設けるでもなく観戦の規制がかなり緩い。大丈夫なのか?
ヘリの音が聞こえてきた。いつの間にかレースは始まっていたようだ。
まだ観戦ポイントは決めていなかったが手近なところで奴らの全開走行を見る事に。

ライトウェイトクラスは650cc2気筒のマシンで実質、カワサキ車両のワンメイクレースのようなものらしい。650のツインという事でトップスピードは280前後くらい。それでもほぼ300と言っていい速度ではありますな。コースをのぞき込むと先頭の車両が見えてきた。とりあえずその姿を捉えようとカメラを構えた。ファインダーをのぞき込み連写。するとその車両が目の前を通り過ぎた時、何かがオレの体にぶつかってきたような・・・。
風圧と呼ぶにはあまりにも強烈な一撃。これってもしかして衝撃波!?
まぁ手を伸ばせば届きそうな距離で目の前をバイクが300近いスピードで通り過ぎたのだ。そうなるわな。

 
その後も次から次へと同じ調子でマシンが通り過ぎていく。そしてその都度、空気の塊のようなものが飛んでくる。ライトウェイトのクラスでこの有様である。最高速で300を遥かに超えるシニアクラスは一体、どういう事になるのやら。
そして、ライトウェイトクラスのレースが終わった。この後はいよいよそのTTレース最高峰であるシニアクラスの予選となる。オレはストレートの終りの方まで歩いて移動した。
そこはコース脇が土手になっていて観客はその土手の上に座って観戦している。オレはその空いてるスペースに陣取った。それにしても・・・さっきの所は柵はなかったがロープは張られていた。ここはロープすら張られていない。まぁさっきの所とは違い、ここはちょっと広めの歩道がある。そのぶんコースとの距離がいくらか余分に保たれているわけだが・・・
それでもバラフブリッジでのような事もある。しかもオレのすぐ横に、ここ危ねぇよ! 的な看板が。

 
これはこれで結構、怖い。
万が一の時には土手を飛びおりなければならないかも。そんな事を考えてたら遠目にコース上をキジが横断しているのが見えた。本当に大丈夫なのか!? 目の前はストレートエンドの超高速コーナーだし、なんか色々、不安要素が多すぎて落ち着かない。しかしそんなオレの心配事など知った事かとレースはスタートする。そしてマシンがやって来る。
ヘリの音に混じって完全に吹け切ったバイクの排気音が聞こえてきた。
視界に捉えた時には豆粒ほどにしか見えなかったマシンの姿はあっという間に大きくなり目の前に迫ってくる。そして凄まじい勢いで駆け抜けていく。

 
やはり最高峰クラスだけあってその速さは他のクラスと比較してもあからさまに違う。
しかもオレのいる位置を過ぎると右方向へ直角に曲がるコーナーが待っている。



 
奴らはそれをギリギリまで我慢してフルブレーキング。中にはタイヤから白煙を上げている奴もいる。常にギリギリ。そして常に全開。
場所場所での違いはギアが何速に入っているかだけのようにも思える。
一周60キロもあるコースを飛んだり跳ねたりしながら平均で210キロという速度を維持するために彼らはそれこそ自らの命を削るようにして走る。
そりゃ死ぬわな。
実際、今年もここまでですでに3人のライダーが亡くなっていると聞く。この日も予選が終盤を迎えた頃、レッドフラッグが振られた。どこかで大きな事故があったようだ。マン島TTにおいてはこれが普通。何事も起きない事の方が異常。
この火傷するほどにヒリつく感じこそが長年にわたって世界中のバイク乗りを魅了する理由なのかもしれない。レースは結構、長い時間中断されていたが再開される事無くそのまま終了となった。


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