BMW「F850GS」「F750GS」試乗

 
2017年のEICMAミラノショーで発表されたBMW「F850GS」「F750GS」。エンジン、フレームともに一新され、そのプラットフォームを共有しながら、オフロードでの走行性能を高めた「F850GS」と、扱いやすさを追求した「F750GS」は、ともにBMWが得意とするアドベンチャーワールドを全方位的に広げる使命を受けている。そしてすべてを一新したことで、GSワールドの次なる一歩への布石ともなっている。

■試乗・文:河野正士
■写真:BMW Motorrad Japan
■協力:BMW Motorrad Japan 

 1993年、近代BMWとして初めて排気量650ccの単気筒エンジンを搭載した「F650」を発表。水平対向2気筒エンジンを搭載するRシリーズ、直列4気筒縦置きエンジンを搭載するKシリーズともに大排気量路線を進めるなか、BMWはあえてミドルクラスに打って出た。そして2006年には360度クランクを持つ排気量798ccの水冷並列2気筒エンジンを新開発しロードスポーツモデル「F800S」「F800ST」に搭載。翌2007年には、アドベンチャーモデルというカテゴリーを確立し、そのトップブランドとしてすでに絶大な人気と実力を誇っていたゲレンデシュポルト=GSの名を受け継いだ「F650GS」「F800GS」をリリースした。そのFシリーズは、その後10年で16万5000ユニットを販売。名実ともに、BMWの屋台骨となったのである。
 
 BMWは2020年までに販売台数20万台の目標を立て、現在そのロードマップの最中にある。それにはモデルラインナップのアップグレードおよび新規補強、プロモーション活動の見直しなどを行い、BMWブランドの進化と強化を行っている。今回試乗した「F750GS」および「F850GS」のフルモデルチェンジも、その重要な項目のひとつだ。

ディナー会場に展示されていた「F850GS(左)」と「F750GS(右)」。今回、開発者がスライドなどを使い車両説明を行うプレスカンファレンスは行われず、車体/アクセサリー/電装系と3テーマを巡るミニプレゼンテーション形式で車両説明が行われ、それ以降は好きなタイミングで気になる開発者に直接話しを聞きに行くというスタイル。もちろん各開発者は試乗会にも同行し、撮影の順番待ちやランチなどのタイミングでも車両を前に話を聞くことができた。

 2017年のBMWは、全世界で16万4000台を販売。昨年対比13%の成長率を記録している。そのような状況であっても、目標に掲げた2020年に販売台数20万台を達成するためには、約10年で16万台強を販売した、Fシリーズの一新は必須の項目だった。スズキ・Vストローム・シリーズ、カワサキ・ヴェルシス・シリーズ、新しくなったトライアンフ・タイガー・シリーズ、そしてモデル拡充と進化を図るドゥカティ・ムルティストラーダ・シリーズ、そしてヤマハ・トレーサー・シリーズや発売が予定されているテネレ700、同じく発売が噂されているKTM790アドベンチャーなど、600cc以上1000cc未満のアドベンチャーモデルは競争が激化している。そのカテゴリーを育て上げてきたFシリーズのアップグレードはBMWにとって最重要項目だ。またヤマハMTシリーズやカワサキZ650、そしてスズキSV650や発売を控えたKTM 790DUKEなど、ミドルクラスアドベンチャーモデルのプラットフォームを流用したロードスポーツ&ツーリングカテゴリーにおいても同様に競争激化が予想され、Fシリーズの進化はごく当たり前のメニューだったに違いない。
 
 そしてBMWは、Fシリーズを大幅に進化させた。いや、進化という言葉が持つイメージを大きく飛び越え、まったく新しいモデルを造り上げてきたと言える。LEDの異形ヘッドライト、エッジの効いたフロントノーズからタンクへと流れるボディデザインは紛れもなくFシリーズGSの進化形であり、そのDNAを色濃く受け継いでいる。しかしこれまで約10年間、Fシリーズの看板となっていた2気筒エンジンは、並列というレイアウトこそ受け継がれたものの、クランク位相を360度から90度へと変更(いわゆる270度クランク)。クランクが車輪とは逆方向に回転する、逆回転クランクも採用されている。しかもこの新型エンジンは、中国メーカー/ロンシンとの共同開発であり、エンジンの組み立てもロンシンで行い、車体組立はベルリンのBMW本社工場で行われる。

「F850GS」「F750GS」共通の新型エンジン。逆回転の270度クランクを採用した排気量853cc水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒エンジン。ドライサンプでありながら別体オイルタンクを必要としない構造を採用したことから、シリンダーの前後にバランサーを搭載しているにもかかわらず非常にコンパクトだ。「F850GS」と「F750GS」では、最高出力と最大トルクが異なる。

 新たなサプライヤーとともに新型エンジンを共同開発するのは、その苦労が容易に想像できるが、意外なことにロンシンとのパートナー関係はシングルエンジンを製作していた2006年頃から続いており、確かな実績と信頼関係が構築されていたことから、まったく懸念がなかったという。

 またフレームもスチール鋼管を組み合わせたトレリスタイプから、スチールプレートを折り曲げて角形鋼管(開発者たちは中空構造と呼んでいた)を造り上げエンジンをつり下げるブリッジフレームとした。その新型フレームについてBMWモトラッドの開発副責任者のカール・ビクター・シャーラーから話を聞くことができた。

「性能とともに、製作工程やそれに伴うコストなど、総合的な判断で新しいフレーム形式を採用した。GSシリーズは、とくにオフロードでの高いパフォーマンスが必要となる。ジャンプからの着地やギャップを吸収しながら高速域でマシンを走らせるオフロードライディングには、軽量で高剛性なフレームが不可欠だ。スーパースポーツのような高価格帯モデルであればアルミフレームも考えられる。しかしFシリーズは、コストパフォーマンスの高さも重要な要素だ。そこでアルミ中空フレームに引けを取らない剛性と軽さを持つ、この新しいフレーム形状を採用した。ベルリンにある本社工場に導入しているプログラムで管理した溶接マシンを使うことで、高品質のフレームを低価格で製造することができる。トレリスフレームは溶接工程が多く、工程において今回のフレームの方が優れているのだ」

「F850GS」「F750GS」共通の新型フレーム(写真はF750GS)。そのフレームはトレリス構造から、スチールパネルから造り上げた中空鋼管フレームがエンジンをつり下げるようなブリッジ構造。そのフレームと繋がるアルミ製ステッププレートは、エンジン後端のエンジンマウントとスイングアームピボットを兼用する。

 実際に走らせると、じつにスムーズだった。排気音は紛れもなく不等間隔爆発の並列2気筒らしいものだったが、カラダに伝わってくるのはじつにマイルドな鼓動感。270度クランクを採用した新型エンジンは、Vツインのような爆発感が強い鼓動感を想像していたがそれは裏切られ、イメージとしては360度クランクと270度クランクの中間的な柔らかなイメージだ。試乗会初日はF850GSを駆り雨のワインディングを走り、その午後からはオフロードタイヤを装着したF850GSに乗り換えオフロードパークでの走行と、そこからホテルまでの帰路を、フラットダートを中心に走った。その際にアクセル操作でサスペンションを伸び縮みさせたりリアタイヤをスライドさせるきっかけを造ったりするのに、このマイルドな反応がどう影響するか気になったが、思った以上にコントロールしやすく、かつて林道ツーリングを楽しんでいた程度の筆者のオフロードスキルでも、オフロード走行を十分に楽しむことができた。

2日間開催された試乗会の初日は「F850GS」に試乗。しかし雨により出発が大幅に遅れ、試乗スケジュールは変更された。それによって午前中は、純正採用されるブリヂストンの新型アドベンチャータイヤ/バトラックス・アドベンチャーA41を履いた車両でワインディングを、午後はオプションでラインナップされるメッツラー/カルー3を履いた車両でオフロードパークやフラットダートの試乗を行った。

 また試乗会2日目は舗装路のワインディングを中心に「F750GS」を走らせたが、そこではアクセル操作に対して車体の挙動が穏やかで、そこからアクセルを開ければ車体がしっかり前に押し出されていく感覚を味わうことができた。

試乗2日目はランチ前までの試乗スケジュール。快晴のなか、ブリヂストン/A41を履いた「F750GS」をワインディングで走らせた。

 極々個人的には、360度クランクの並列2気筒エンジンが生み出すフラットトルクと、トレリスフレームによって構築された軽量コンパクトでしなやかなフレームはFシリーズGS、いやRシリーズを含めたGSモデルが積み上げてきたGSワールドの核となる部分と考えていた。しかしBMWは「F850/750GS」で新しいエンジンとフレーム、それによって生み出されるフィーリングによって、これまで築き上げてきた“GSワールド”から飛び出したのではないかと感じた。そのことについて、先述したBMWモトラッドの開発副責任者のカール・ビクター・シャーラーに聞くと興味深いコメントが返ってきた。
 
「270度クランクが生み出すトルクフィーリングが、新型エンジンの肝になる。GSモデルに必要なのは豊かなトルクだ。絶対的なパワーではない。したがって排気量拡大においても、いたずらにピストン径を広げるだけでなくストローク量も確保した。もちろんこの決断を下す過程で多くの議論をかわした。しかし我々は“新しいGSワールド”を造り上げるために、あえて不等間隔爆発エンジンが生み出すトルクフィーリングを選んだのだ。またその決断によって、排気音も大きく変化した。歯切れのいい排気音は、ライダーをよりエキサイティングにさせるだろう」
 
 新しいGSワールド……それはどういう意味か追っかけで質問したが、それははぐらかされてしまった。しかし「F850GS」「F750GS」の開発と発売には、新世界を開く大きな使命が秘められているのかもしれない。そのあたりの真偽を確かめるには、もう少し時間が必要かもしれない。

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●BMW F850 GS

750GSのスタンダードモデル以外に標準装備される6.5インチのTFTフルカラーディスプレイ。さまざまなセッティングが行えると同時に、スマートフォン用アプリ「BMW Motorrad Connected」によってさまざまなアクティビティが提供される。 キーレス・ライドを採用したことで、イグニッションON状態であれば、フューエルタンクキャップもキーレスで開けることができる。フューエルタンクはシート下だった前モデルから、ミッション上にほぼ垂直なカタチで配置されている。 フロントノーズからタンクサイドカバーへと繋がるラインはGSファミリーのDNAを色濃く受け継いでいる。
異形ヘッドライトを採用したGSらしいフロントフェイス。葉脈のようなデイタイムライディングライトやヘッドライト、そしてウインカーはLEDとなる。またスクリーンの形状はF750GSとは異なり、やや大柄となる。 パニアケースの装着を考慮し、シートレールやリアキャリアが設計されている。 キーレス・ライドを採用したメインスイッチ周り。ワンプッシュでメインスイッチがONとなる。
「F850GS」のエンジンは、最高出力95hp@8250rpm/最大トルク92Nm@6250rpmを発揮。エンジンを開発する際、ストローク量を確保することでGSらしいトルクフルなフィーリングを目指したと開発陣は語っていた。 「F850GS」は、リアに17インチのクロススポークホイールを採用。写真はメッツラー/カルー3を履いているのだが、標準装備されるのはブリヂストン/バトラックス・アドベンチャーA41か、ミシュラン/アナキー3だ。スイングアームは両持ちタイプだ。 リアサスペンションはリンクを持たない直押しタイプ。車体の中心に配置されている。スプリングトラベルは219mm確保されている。
ギアシフトアシストプロ、いわゆるクイックシフターを装備。シフトアップ&ダウンともに使用することができる。このエンジンマウントとスイングアームピボットを兼ねるステッププレートがこのフレームの重要なポイントだと、開発陣が語っていた。 左グリップにあるスイッチ周り。BMWではいまやお馴染みのジョグダイヤルによって走行中の操作も用意だ。 右グリップ周りのスイッチ類。日本での採用は不明だが、オプションで装備されるSOSボタン。IMUなどによって転倒などのアクシデントを探知し、オペレーターに自動連絡。救急車の手配などを行う。このスイッチ周りにマイクとスピーカーを完備。
オプションで設定されているESA(エレクトリック・サスペンション・アジャストメント)。選択したライディングモードに合わせ、ABSやASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)、DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)ともにセッティングを変更。各パラメーターのセッティング変更も可能だ。 しっかりと静音されたサイレンサー。撮影の待機中、他のライダーが駆け抜ける際の歯切れの良い排気音は、これまでのFとはまったく違う。しかし膨張室とサイレンサーでしっかりと消音されていて、走りながら聞く自身の排気音はかなり抑えられている印象。 「F850GS」はフロント21インチホイールを採用。またφ43mmの倒立フロントフォークも装着している。スプリングトラベル204mmを確保している。

 
●BMW F750 GS

「F750GS」は、F850GSと共通のフラットフォームを採用するため、ここではその相違点を紹介する。
やや小振りなスクリーンを採用する「F750GS」。またBMWの2018年モデルを象徴するこの“オースチン・イエロー”カラーはFシリーズでは「F750GS」にのみに採用される。
「F750GS」のエンジンは、最高出力77hp@7500rpm/最大トルク83Nm@6000rpmを発揮。850からの変更パーツはなく、セッティング変更のみで750独自のフィーリングを造り出している。 前後ホイールはアルミ・ダイキャストホイールを採用。リアは、ホイールサイズもタイヤサイズも変更なし。 フロントは19インチホイールを採用。またフロントフォークはφ41mmの正立タイプを装着する。
「F850GS」の場合。シートは標準タイプで、シート高は860mm。両カカトが高く上がっているがつま先は地面に着き、舗装路においてはそれほど不安はない。
「F750GS」の場合。シートは標準タイプで、シート高は815mm。両カカトは少し上がっているがつま先はしっかりと地面に着いている。ライダーは身長170cm/体重68kg。
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