CB650F TEST by NOAH 3rd

 
 暖かくなってきて、再びCB650Fが輝き始めた。日々の移動やツーリングではなく、ストリートファイターらしく都内でのショートトリップ。そこで見えてきた新たな魅力。短距離でも濃密な時間を提供してくれる高い趣味性に気付かされた。

■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン 

 
何をおいても、このバイクはカッコ良い。

「それ、なんていうバイク?」
「あ、ノアが○○○(外国車メーカー)乗ってたって、これなんだ」
「違いますよ、コレ、ホンダのCBですよ。カッコイイでしょ!」

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「なにそのバイク、どこの?」
「外車?」
などと聞かれることの多いCB650F。あまり見かけることはないのだが、堂々とホンダの現行車である。特にこのカラーリングはホンダ色をうまく隠しており、ホンダやCBというブランドや先入観に関係なく多くの人に「カッコいい」と認識されるようだ。珍しさも手伝って、積極的に目立つところに停めたくなる。

 なんて会話を、CB650Fに乗っていてよく交わした。すでにこのバイクに乗り始めて8か月ほどになるが、同じモデルを見たことはわずかに1回。筆者が断然カッコイイと思っている同色のグレーだったが、ホンダのメインカラーである赤×シルバーにいたっては一度も見たことがない。それだけ珍しいのだから、一般のライダーにとっては新鮮味があるのだろう。国産車の枠を超えて、多くの人は「こんなカッコ良い現行車が、国産であったんだ」という反応をしてくれている。
 そう、このバイクへの反応は一貫して「カッコ良いね!」なのである。「こんなバイクあるんだ」という驚きも多く、最初に書いたように外国車だと思っている人も多い。これには僕も同意見だ。今回は都内で夜の撮影を行ってその気持ちはまた強まり、むしろなぜこのバイクをあまり見かけないのかがよくわからない。
 CB650Fは、いわゆるストリートファイター的な位置づけだろう。ベースとなるスーパースポーツモデルがあるわけではないが、しかしクイックな操作性を持っていて、十分以上のパワーがあり、気軽に高性能が楽しめるネイキッドという意味では、なんとなくその部類だ。そしてストリートファイターが最もカッコ良く活きるのはやはりストリートであって、そして見た目だけでなく乗り味についてもストリートを活発に駆けるのが一番楽しいんじゃないか、と改めて思った撮影となった。

 
本当の使い方で最も活きる活きる

 スポーティなネイキッドだが、付き合いやすい。ワインディングも通勤も、万能にこなす。レギュラーガソリンで経済的にも維持しやすいのに、かなり速い。などなど、欲張りな筆者に応えてくれたCB650Fだが、付き合いが進むうちに、筆者のメインの使い方ではいくらか不満も出てきていた。
 一番使うのは、自宅のある北関東から都内へのアクセスである。撮影用の衣装や資料をタンデムシート括り付け、早朝の高速道路を走り都内へ。仕事が終わればだいたい深夜でまた高速道路を走って北関東へと帰っていく。暖かい季節では「荷物をもう少し括り付けやすかったら……」ぐらいのことしか不満は思い当たらずむしろエキサイティングかつ無理のない、楽しめる運動性に興奮しながら帰宅したものだが、寒くなってくるとカウルがないことがどうしようもなく辛くなってきた。もちろん、兄弟車種でCBR650Fというフルカウル版も存在する(こちらはたまに見かけますね)のだが、あちらはポジションもより前傾で防風性は勝るが気軽さはCB650Fにいくらか譲るだろう。
 気温がマイナスの朝4:30に家を出る時、音が静かであったり始動性が最高だったりグリップヒーターがついていることはもちろんありがたいのだが、高速道路に上るとそれ以上に「寒い!」というのが大問題だった。加えて言うなら、ガソリンワンタンクで都内まで往復できないことにも気づいてしまい、長距離移動に長けているアドベンチャーモデルも所有する筆者にとって、冬の間はCBの出番が激減したことをご理解いただきたい。

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今までのツーリングや高速移動主体の使い方から、今回は完全に趣味に振った「夜のひとっ走り」で撮影。大都会東京の夜を流しているとキビキビした操作性とのんびり走りを許容する懐の深さを同時に楽しめる。ショーウィンドウに映る姿も、何だか未来的で東京の夜によく合っていた。

 さらに、都会的で先進的なデザインであるCBを自宅の砂利の駐車場に置いておくのも忍びないな、という気持ちもあった。北関東の田舎で乗っていると、都会のように排気ガスやタイヤカスで汚れるのではなく、シンプルに泥が付着していくため、マメに洗車しないと農耕器具みたいになってきてしまう。だからこそ、今回細部まで洗車して夜の都内を走り回ったのは、このバイクが本来活きる場面に持ってきてあげたようで気持ちが良く、また改めて「カッコいいナァ!」と惚れ直す機会となったのだった。
 そう、やはりバイクは適材適所だ。先日新型となったスーパーカブならばそれこそどんな場面で使っても実用的かつ趣味性も高いだろうが、90馬力もあるスポーツモデルともなれば、そもそも「こんな使い方をしたら楽しいモデルですよ」というコンセプトがあるわけで、今回のショートトリップを通してCB650Fの主眼はツーリングや長距離移動ではなく、短時間のエキサイティングな走りなのだな、と気づかされたわけだ。それでいてCB-Fならではの万能さももちろん備えるのだが、しかしやはり今回の撮影では、今まででCBが一番輝いていたと感じた。

 
仕事終わりのひとっ走り

 お疲れさんビール、ではないが、お疲れさんのひとっ走り、そんなバイクの楽しみ方をしている人はどのぐらいいるだろう。筆者は首都圏に住んでいた頃は、一日の終わりに友達と首都高のパーキングで待ち合わせ、グルっと横浜の方まで行って、軽食をつまんで、流しながら下道で帰宅、なんていうことを、わりによくしていた。特に夏の間はやっと涼しくなった夕べをバイクで泳ぎ回るのはとても気持ちが良いもので、他にもそんなバイクがいたりして楽しかったのを覚えている。
 そんなことを思い出しながら、やっと暖かくなってきた都内を流し、そして首都高へと上った。いつものように荷物を積んでいるわけでもない。これから120キロ先まで移動(帰宅)しなければいけない、という制約もない。純粋にバイクを楽しむためだけ、しかも短い時間。ストリートファイター系のバイクとはこのように使われるのが正しいのだろう。
 これがとても楽しかったのである。これまでいかにこのバイクが万能で無理のないスポーツ性を有しているかをアピールしてきたが、万能な中にも最も光る場面がもちろんあるわけで、CB650Fについてはこんな使い方こそが今までで一番、素直に「楽しい」と思えた。
 空き始めた幹線道路をスイスイと走り、北関東の漆黒と違い煌びやかな都心を流す。先代よりクロス化されたミッションのおかげもあって瞬発力が高く、タクシーの群れをピッピッと鋭くかわしていく感覚は痛快。

首都高に上る。お、速そうな車。ちょっと一緒に走ってから、「や、どーも」なんて手をあげる。継ぎ目の多い首都高でもCBの足はしなやかにいなし、怖さとは無縁のライディングを提供してくれる。

 またワインディングでのコーナリング性能とは違って、車線変更や交差点でのクイックで楽しい操舵性にも改めて気づかされる。別段深いバンク角になるわけでもないのだが、その浅い領域で軽快にキュキュッとバイクの向きをメリハリよく変えていけるのは、こういったなんてことはない短距離の走りでもしっかりとこのバイクの性格を楽しめるという意味で有意義に思える。万能ゆえに個性は少ないかな、などと思ったこともあったが、目的とされた使い方をしてあげればそこにはちゃんと個性があり、スポーティなネイキッドなのだと改めて認識。むしろあのホンダがこういったアプローチのバイクをラインナップしていることを今さら新鮮に思えてしまった。同じく超万能で高性能な王道ホンダ車CB400スーパーフォアがあるが、このキビキビ感や瞬発的な興奮はなかなか得づらいため、やはりCB650Fは高い汎用性の中にもストリートファイター系のしっかりとした個性があるんだという事を確認できた。
 今さらこういった新しい発見をしながら、オシャレな街並みや遅くまで頑張るパリッとしたビジネスマンを眺めつつ走る。東京駅、丸の内、銀座。あ、東京タワーが近い。地下鉄路線図とは関係ないルートで街から街へと移動していくのは、大都会にいながらして同時に俯瞰しているような独特な感覚だ。そしてそんな自分をさらに俯瞰している写真を見ると、CBはこの大都会に良く溶け込んでいるではないか。背景とのマッチングを見ると、むしろ今までの郊外の写真は場違いにすら思えてしまった。都会の夜のショートトリップ、乗り味もルックスも、「CBが活きている!」と感じさせてくれた経験だった。

 
欲張り男の最大公約数

 今回の都内での撮影だけでなく、単純に季節が良くなってきて、冬の間は少し敬遠していたと言わざるを得ないCB650Fは再びとても魅力的になってきた。泊りがけのツーリングや様々なワインディングも楽しいことは昨シーズン確認済みであるし過去の記事展開でも説明したとおりだが、でもワクワクするような暖かい風が吹くようになった忙しい年度末に「ちょっとだけ!」と乗った時に再び新たな魅力に気づくことができた。短時間でも濃密な関係を持てること、距離を乗らなくても充実した経験ができる事。バイクに乗る時間をたくさん捻出するのが難しい大人にとって、これも大切な部分だろう。

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トラックのいなくなった夜の湾岸地帯は独特の魅力がある。大友作品「アキラ」など思い浮かべながら、3車線もある道を気持ちよく走る。他に交通はほぼなく、都会にいながら脱現実できる場面。シルバーにブラックのラインが入ったCBはこんな夜の景色もよく似あう。

 趣味だけでなく移動の手段としてもバイクを使う筆者としては、このCBのアドベンチャー版があればいいのに、と思っていた冬のシーズンだ。スムーズかつ元気なエンジンや柔軟な車体とサスの設定は、アップハンと防風性の高いスクリーン、大容量ガソリンタンクや積載性を高める荷台の装着などすればとても快適で楽しいツーリングマシンになることだろう。同社には400Xという車種もあるが、650Xなどあればとても良いと思うし、今まで以上に筆者の使い方にもマッチしてさらにオールラウンドに使えることだろう。しかし一方でこのキビキビ感が失われてしまっては意味がない。NC750Xを持っているホンダとしては650Xの選択肢はなかったのかもしれないが、しかし実現すれば高級ミドルクラス4気筒ツアラーとして孤高の存在になりえるはずだ。
 というのが、冬の間に距離が伸びなかった言い訳とさせていただきたい。CB650Fは快活なハンドリングと懐深い車体、元気なエンジンとの組み合わせで多くの場面で楽しめる名機ではあるが、他のほとんどのバイクがそうであるように、やはり暖かい季節に乗るのが最高なのだ。そして年に2回はロングツーリングに行きたい、しかし平日の夜に首都高をグルっとしてリフレッシュしたいという、丸の内あたりのパリッとしたビジネスマンにとって、これ以上のベストバイクはないのではないかとすら思える。
 以前の連載で「名車CB400スーパーフォアの650cc版」と書いたが、設計が新しいことも手伝い、スーパーフォアらしきオールラウンドさにさらにプラスされた魅力がある事を今回確認。これからスタートするシーズンではそんなこともふまえて、理解の進んだCB650Fと再び仲良しな日々が過ごせそうだ。
 去年新型になりパワーのアップ、足周りの充実、スタイリングの見直しなどを受けたCB650Fは、海外では大ヒットモデルであったホーネット600の「再来」と大歓迎された。しかし国内ではホンダも広報活動に積極的とは言えない。こんな良いバイクの周知に、少しでも貢献できていれば幸せだ。
 
(試乗・文:ノア セレン)

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忘れてはいけないのがその気になった時の元気なエンジン。90馬力と聞くと今どきは特別ハイパワーでもないが、明らかにスーパースポーツ由来と感じられるエンジンは打てば響く気持ちの良いレスポンスを持っており、現実的な速度域では無類の速さも持っている。見通しの良いトンネルでは、つい前傾姿勢になり右手を大きくひねってしまった。
●CB650F 主要諸元
■型式:2BL-RC83■全長×全幅×全高:2,110×780×1,075mm、ホイールベース:1,450mm、最低地上高:150mm、シート高:810mm■車両重量:208kg■燃料消費率:31.5km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)、21.4km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒、総排気量:648cm3、ボア×ストローク:67.0×46.0mm、圧縮比:11.4、最高出力:66kW(90PS)/11,000rpm、最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/8,000rpm■燃料供給:電子式PGM-FI■始動方式:セルフ式■点火方式 :フルトランジスタ式バッテリー点火■燃料タンク容量:17L■変速機形式:常時噛合い式6段リターン■タイヤ(前×後):120/70ZR17M/C 58W × 180/55ZR17M/C 73W■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク■懸架方式(前×後):テレスコピック x スイングアーム式■フレーム形式:ダイヤモンド
■メーカー希望小売価格:923,400円(2016年4月21日発売時価格)

| 第1回目『比べない。競わない。CB650Fな日々。』はコチラから |

| 第2回目『さて、乗り味はどうなの?』はコチラから |

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