幻立喰・ソ

第90回「知らぬは恥だし、みんな知ってたの?」

 
「みなさま、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます」と、すでに1月も末のご挨拶です。
「おいおい今頃とんだご挨拶だな」
 そのとおり。まさにずいぶんなご挨拶のご挨拶からスタートです。続きまして、今年の目標なんぞつらつら述べるのが王道ではございますが、「よーし、ことしもたくさんたべるぞぉ」と、頭の悪い小学生のような抱負を聞かされ、みなさまの気を滅入らせるのもなんなので先に進みます。

 仕事にしろプライベートにしろ、そこそこ付き合いがあっても、苗字は知っていても名は知らない(またはその逆)人いませんか。最初に聞けばいいのに、いい年をしたおっさんが今更「お名前は?」なんて照れながら聞くとあらぬ嫌疑をかけられ、人間関係がおかしくなってしまうかもしれません。

 立喰ソも、正式店名を知らないこと「あると思います」(←最近とんと聞かなくなりました)。その昔は店名を書いていない立喰ソもそこそこありましたし。関東では、「黄色」「味じまん」「左衛門橋」あたりは、正式な店名よりもこっちのほうがしっくりくる方が多いと思います。
 師匠の名著「ちょっとそばでも」を拝見し、「味じまん」の正式店名を知ったときは、腰は抜かしませんでしたが、腰を抜かさんばかりに驚きました。さすがに情報時代の昨今ですから、ヤングソ人たちには「黄色? 味自慢? 左衛門橋? こいつ何にも知らねえ素人だな」と思われるでしょうから、このへんで。



この中から店名を探せと言われれば「味じまん」になります。(2017年12月撮影) 店名が見当たらなければ、一番近い目標物で呼びたくなります。(2011年12月撮影)

 
 大手チェーン店の場合は、さすがに店名は出ています。しかし大手のFは支店名が店頭に見当たりません(私が気がつかないだけかもしれないですが)。支店名など知らなくても、たいして問題はなさそうですが、例えば〇〇駅の近くに〇〇店と〇〇駅前店があったりするのです。支店名表記がないからどっちが〇〇店でどっちが〇〇駅前店なのかわかりません。もしも駆け落ちカップルが待ち合わせた場合、すれ違いなってしまうのではないかと心配です。お互いを信じているだけに、しかも24時間営業ですから、永遠に待ち続けることになるやもしれません。たかが支店名ですが、このように世に心配のタネは尽きないのです。ああ心配だ。

 そんなこととはなんの関連性もない常磐線のいわき駅です。1994年に改名される前は「平(たいら)駅」でした。つい最近まで平だったと思ったら、もう20年以上前なんですね。その昔の常磐線特急ひたちの行先方向幕には「平行」と表示されていました。アディダスの青いヤッケに真っ赤な野球帽を被った鉄道ぼうやの私は、「へいこうだって。おもしれーっ、うひゃうひゃうひゃ」とはしゃぎながら、リコーオートハーフを片手に上野駅を走り回り、機嫌の悪い国鉄職員に怒鳴られまくっていたのはすでに45年以上も昔の話です。なつかしいというよりも恥ずかしい。
 平駅からいわき駅になってもホームに立喰ソはあったはずですが、今や影も形もありません。見たような記憶はあるのですが、残念ながら未食のまま、幻立喰ソになってしまいました。が、今回は駅ソではなく、駅前の印鑑屋さんのお話です。



ハナタレ小僧から成長(除く人間性)した頃の485系特急ひたち。平駅ではなく上野駅にて。(1978年5月撮影) 2代前のひたちに使われた651系は、いわき-富岡の普通列車で最後の?ご奉公中。特急料金なしで乗れます。(2018年1月撮影)

 
 駅前の印鑑屋さん? 知っている人は知っている、知らない人はまるで知らないでしょう(当たり前)。印鑑屋さんとはいえ現役店なので一応あってなきがごとき当コラムのルールに従ってイニシャルでW印舗とします。ググれば店名は一発でわかりますけど、店名自体は重要ではありません。
 このW印舗の隣といいますか、一体となった建物に立喰ソがあります。5〜6人で満員になるコンパクトな立喰ソです。小さな調理場で誠実そうなおかあさん(誠実そうなじゃなくて、誠実です。間違いなく)が一人で、接客、調理、洗い物をせっせとこなしています。この立喰ソには店名を示すような表記がありませんでした。今思えば、そうでもないのですがそう思い込んでいました。なによりもW印舗と同一の建物でありますから、店名もW印舗だとばかり思っていました。だってそのほうがおもしろいじゃないですか(不謹慎)。

 先日、2年ぶりくらいに寄ったのですが、すると入口になにやら貼り紙が。立喰ソに貼り紙といえば……例の悲しいお知らせでした。
 え、え、え、え!? なんと2018年3月31日で閉店だそうです。



ぱっと見たら印鑑屋さんです。か、もつ焼き屋さんです。(2015年3月撮影) 久々に訪問してみたらなにやら貼り紙が……。(2018年1月撮影)

 
 3回くらいしか訪問できていないのですが、前回は閉店時間を過ぎていたにもかかわらず、ダメ元で「もう終わりですよね」と声をかけると、「いいですよ、どうぞ」と迎えていただきました。いただいた温かいソで、まさに身も心もぽっかぽっかになりました。そんな温かい立喰ソの店名を知らない罰当たりな私が、「印鑑屋さんと同一の立喰ソとは、なんともユニークである」などと調子に乗って吹聴する前に、見かねた立喰ソ神がお導きになったとしか思えません。

 貼り紙には「みな様に支えられ30年 本当にありがとうございました」とありました。平成もすでに30年。まさに平成とともに駆け抜けた立喰ソなんですね。昭和ばかりに目がいってしまうアナログソ人間の私ではありますが、私自身が昭和より、平成時代に過ごした時間の方が長くなっているのです。あと1年となった平成を振り返りつつ、あの日と変わらない身も心も温まるソをいただきました。
 ぽっかりあいた胸の隙間を冷たい風が吹き抜けていくような気がして、しんみりとソをすすりました(もちろん大げさな表現ではありますが、4割増くらいです←立喰ソ神のバチが当たります、きっと)。 

 「そば八店主」貼り紙の最後は見慣れぬ店名が……閉店の衝撃も相当なものでしたが、これも相当な衝撃でした(さらに「まだ現役店なのに実名か!」というツッコミをされてしまうと、まさにぐうのねもでませんが。ぐう)。

 おまえは知らないだろうと、鼻高々で顛末をABくんに話したら「ああ、そば八ね。なつかしいなあ」とぬかしよりました。この男、あちこちに出没しているので侮れません。
 ちなみに検索したら「そば八 いわき」で検索したら「そば八 平店」と出て来ました。どうやらW印舗だと思っていたのは私だけだったようです。しかもいわき店ではなく平店。これもまた立喰ソ神のお導きでしょう(なんでも神様のおかげにしておけば、角がたたずまるく収まる。ような気がする)。

「真実を知らずして真実を知る。おもしろて、やがて悲しき立喰ソ」、30年間おつかれさまでした。心温まるソをありがとうございました。



いつ、どこで見てみも悲しいお知らせ。30年間おつかれさまでした。そして、ありがとうございました。(2018年1月撮影) 最後なのでちくわに山菜、これでも360円! まだひと月あります。せめてもう一度くらいは食べたいですが。(2018年1月撮影)

●幻立喰NEWS2018 復活した富岡駅に新店舗!

東日本大震災で被害を受けたJR常磐線は徐々に復旧しています。最後に残った浪江-富岡間も2019年度末の開通を目標に工事が進んでいるようでなによりです。で、現在終点となっている富岡駅のすぐ横に立喰ソが登場しました。「さくらステーション KINONE」というお店で、売店と食堂を併設した純粋な立喰ソではないのですが、もちろんソもあります。調べてみたら立喰ソ極右派系(笑)にはあまり歓迎されないであろうNRE系列店なのですが、『富岡町の木である「桜」と、木の根のようにしっかりと地に根をはり今後も復興を進めていくという思いを込めた名称です。地域貢献を尊重し地元に密着した店舗運営を目指しています。』()とのこと。しっかり根付いてくれるよう願いつつ、ソをすすってまいりました。三陸わかめのソ、肉厚ぶりんぶりん!




バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。やっと1000店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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