西村 章

 寒い。金曜午後FP2の気温は15℃。土曜午後の予選は13℃。日曜の決勝は16℃。オーストラリアGPの開催地フィリップアイランドサーキットは、南側にバスストレイトを抱えていて南極からの冷たい風が吹き寄せるので、体感温度は上記の数字よりもさらに低く、一ケタ台といってもいいくらいの激寒状態でウィークが推移する。しかし、今年の決勝レースは、トップグループが入り乱れてめまぐるしく順位を入れ替える激アツの戦いになった。
 トップを走行した選手の推移を見ると、以下のとおり。

 ポールポジション/マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)-ジャック・ミラー(EG 0,0 Marc VDS)[Lap01/Lap04]-バレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)[Lap05/Lap08]-ヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3[Lap09/Lap13]-ロッシ[Lap14/Lap16]-ザルコ[Lap17/Lap18]-マーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)[Lap19/20]-マルケス[Lap21/Lap27]

 これだけ先頭がコロコロ入れ替わったのは氷山の一角で、トップグループのバトルは、ここにアンドレア・イアンノーネ(チーム・スズキ・エクスター)やカル・クラッチロー(LCRホンダ)も加わって、じつに緊密でめまぐるしいバトルが続いた。
 選手同士のきわどい接触も何度もあり、「まるでMoto3のレースみたいだった」という言葉は、レースを終えた当事者たちの口からも発せられていた。印象的だったのは、このバトルを終えた選手たち全員が、自分の順位に関わりなく充ち足りた表情とさばさばした口調でレースをふりかえっていたことだ。相手のアグレッシブな攻撃を非難したり、オーバーテイクが危険だと譴責するような言葉は、今回に限っては誰からも聞かれなかった。


申し訳ありませんが、この激闘がMotoGPとF1との違いです、はい。

「正直、すごいレースだったよ。序盤はタイヤにしっかり熱を入れるために落ち着いて走ってたけど、後半になってヨハンたちと接触する展開になった。大集団で、まるでMoto3みたいにキッツい展開だった」(マルケス:優勝)

「心からレースを楽しめた。こういうアグレッシブなバトルでは、ライバルたちよりもバカにならないと勝てないよ」「特に終盤は激しくなって、接触も多かった。Moto2から上がってきたザルコなんてとてもアグレッシブだけど、それで怒ってみたところで状況が変わるわけじゃない」(ロッシ:2位)

「ラスト5周で、ヨハンに仕掛ける準備をした。4コーナーのブレーキが強かったので勝負したけど、アンドレア(イアンノーネ)と接触して集団の後方に順位を下げてしまった。そこからジャックとカルを抜いて、リカバーしていった。ここ最近は厳しいレースが多かったので、表彰台を獲れて良かった。シーズン後半戦で初めて力強く戦えた」(ヴィニャーレス:3位)

 4位のザルコは、マルケスと4コーナーで接触した際の出来事を
「ほぼ同じスピードで進入していった。マルケスもいいスピードで入ってきて、あれ以上スピードを落とせなかったけど、マルケスは『これはまずい』と思ってバイクを引き起こすくらい、彼はクレバーだった。バレンティーノとも(接触が)あって、イアンノーネとはサイベリア(6コーナー)で接触した。クラッチローとも接触した。僕たちはファイターだから、ファイトし続けないとね」
 と振り返った。ザルコは、最終ラップの最終コーナーでロッシとヴィニャーレスを相手に三つ巴の勝負になったが、最後は彼らの後塵を拝して0.043秒差の4位でゴールラインを通過した。僅差でバトルに敗れて、正直なところ悔しくなかったか、と彼に訊ねてみた。
「全然。がっかりするなんて、今日のレースには相応しくないよ。優勝者から1秒ちょいで2位争いを繰り広げたのだから、それでがっかりするなんてあり得ないよ」
 とのことである。



内容的に今季ベストリザルト。 内容的に今季ワーストリザルト。

 そして何より印象的だったのが、6位のイアンノーネだ。表彰台を逃してもそれなりに満足げな様子で振り返ることは、ドゥカティ時代には珍しくなかったが、ここまで納得した表情でその日のレースを語るのは、スズキに移籍して以来、今回が初めてかもしれない。
「今日は、最初から表彰台を争える自信があった。いい戦いをできて満足している。毎周150パーセントで走ったけど、残念ながら加速で損をしていて、そこが今の僕たちの課題になっている。この課題は既にわかっていることだし、皆がその改善に向けてがんばっている。だから、今後はこのギャップを縮めていけると思う。レースでは、MotoGPの最高のライダーたちとオーバーテイク合戦をできて、すごく楽しめた。今年は僕にもスズキにもチームにもホントに厳しいシーズンだけど、諦めずにここまでがんばってきた。スズキは旋回はいいけど、立ち上がりが厳しいんだ。でも、マレーシアとバレンシアもこの調子でがんばりたい」

 一方、前戦の日本GPで優勝して、ランキング首位のマルケスに11ポイントまで迫っていたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)は、今回のウィークは苦戦が続いて13位でゴール。なんとか3ポイント獲得したものの、マルケスとの差は開いて33ポイントになってしまった。ドヴィツィオーゾは転倒リタイアになった第2戦のアルゼンチン以外では全戦でポイントを獲得してきたが、今回は得点を重ねてきた15戦のなかで最低の獲得ポイントである。その印象について彼に訊ねてみると
「最悪だね。アルゼンチンより悪いよ。なにしろ、スピードをまったく発揮できなかったから」
 と言いながらも
「チャンピオンシップポイントでたくさん離されてしまったけど、まだ二戦あるので前向きに考えたい。厳しいのは事実だけど、このスポーツではどんなことだって起こりえるから」
 と、ポジティブな態度を見せた。

 今週末の第17戦マレーシアGPは、果たしてどんな展開になりますやら。

*   *   *   *   *

 Moto3クラスでは、ジョアン・ミル(Leopard Racing/Honda)が年間総合優勝を決めた。今シーズンは彼に何度か単独取材をさせてもらったのだが、ライダーとしての資質の高さはもちろん、受け答えの聡明さが常に印象的な選手だ。来季からはMoto2クラスにステップアップする。中排気量での2018年の彼の走りには、引き続き要注目、である。



次世代を担う大型選手が既に育っているのが、スペインのすごいところ。
今季自己ベスト。 バトルで当てられまくって9位。 2位から追い上げ中にギア抜け。
*   *   *   *   *

 では、この週末にセパンでお会いしましょう。


 



■2017年10月22日 
第16戦 オーストラリアGP
フィリップアイランド・サーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Repsol Honda Team HONDA


2 #46 YAMAHA


3 #25 YAMAHA


4 #5 YAMAHA


5 #35 HONDA


6 #29 SUZUKI


7 #43 HONDA


8 #42 SUZUKI


9 #44 KTM


10 #38 Red Bull KTM Factory Racing KTM


11 #45 OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


12 #26 HONDA


13 #04 DUCATI


14 #17 Pull & Bear Aspar Team DUCATI


15 #99 DUCATI


16 #53 EG 0,0 Marc VDS HONDA


17 #19 Pull & Bear Aspar Team DUCATI


18 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


19 #22 Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


20 #8 Avintia Racing DUCATI


21 #9 OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


22 #23 Broc PARKES YAMAHA


RT #41 Aprilia


※西村さんの最新訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です!

[|第128回|]
[MotoGPはいらんかねへ]
[へ]