KYMCO AK550 RUN

 
国内ではイメージが薄いかもしれないキムコブランド。Lツインのドゥカティ、水平対向のBMW、キムコは……スクーター?? スクーターはもちろんのこと、実は様々なモデルを世界的に展開しているキムコグループ。そんなキムコの50周年記念に登場した最新マキシスクーター「AK550」を試乗する。

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:KYMCO JAPAN 

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■ノア セレン:普段は絶版車を中心に試乗することが多いが、特にこだわりはなく幅広く何でも乗る二輪ライター。今回のもてぎでの発表には写真のような演出もあり、キムコの力の入れようを実感した。
ライダーの身長は186cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 
台湾の実力者

 創立50周年を迎えたキムコは台湾のメーカーで、日本ではスクーターのイメージが強いかもしれないが実はモーターサイクルもATVも作る大企業。しかもヨーロッパでの認知度も非常に高く、分野や地域によっては日本メーカーを上回るシェアを持っているなど、世界規模で見たときには日本メーカーの強力なライバルともいえる存在なのだ。
 かつては台湾にてホンダ車の製作を受け持っていたが、その後独立。その経験から培った高い技術力をさらに高め続けたおかげで、現在ではK社やB社などの製品をOEM生産するなど他メーカーからの信頼も厚い。
 そんなキムコが創立50周年という節目に投入したのが、このAK550である。ラグジュアリーやスポーツを高い次元で求めるマキシスクーターの分野の中で、さらに「全てにおいて最高を求める人たちへ」向けて開発したAK550はA(アニバーサリー)K(キムコ)の名に恥じない徹底して作り込まれたフラッグシップモデルであり、その完成度たるや目を見張るばかりである。
 アジア地区を中心に小排気量スクーターを作っている会社、などというイメージがあったとしたらそれはもう過去の話だ。その証拠にこのAK550の試乗会はなんとツインリンクもてぎのフルコースで行われ、アジア各地からプレスが招待されたのである。日本車でもマキシスクーターは存在するが、もてぎのフルコースで試乗会をするほどスポーツをアピールしたいモデルも、パブリシティに力が入ったモデルもこれまでなかった。今回のローンチのためにキムコの代表取締役、アレン・コウ氏が現地に駆けつけたことからも、いかにキムコがこのモデルに自信を持っているか、そして世界に向けて華々しいデビューを飾りたかったかがうかがい知れる。

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50年の集大成を見る

 
 そんなキムコが50周年を記念して投入したAK550。ヨーロッパ各地で先行して販売されてきたが、国内の発売は今年の12月2日の予定だ。価格は税込127万4400円。
 エンジンは新設計の550ccパラツインで、最近のトレンドである270°クランクを採用。53.5馬力という出力で加速、最高速ともに優れると同時に、2軸バランサーを備えることで振動を抑えている。なお、このエンジンは環境性能にも優れ、始まったばかりのユーロ4のみならず、さらに非常に厳しくなるユーロ5にまで先行して対応しているのだから驚く。もう一つの特徴として、ドライブスプロケットをスイングアームピボットと同軸とすることで、ドライブベルトの張力がサスペンションの動きに影響されないという機構も持っている。
 車体は低圧ダイカスト製法で作られたメインのアルミフレームとハイドロフォーム製法で作られたサブフレーム部の組み合わせ。軽量でありながらスポーティさを追求し、またさらに低シート高など実用的な部分も総合的に考慮された設計だ。組み合わされる足周りは倒立フォークやブレンボキャリパーと豪華な装備で、前後15インチのホイールはキムコ自社生産。タイヤはメッツラーのFeel Freeが装着されている。これらの組み合わせによりAK550の前後重量配分はスポーツバイクのような50:50を達成しており、ナチュラルなスポーティさを実現する。
 他社に対して大きくリードしたのはメーターをはじめとするユーティリティだろう。「ヌードー」と呼ばれるフィーチャーはスマートフォンとメーターをリンクさせるというもの。よって専用アプリを使うことでメーター中央に配置されたカラーディスプレイを、スマートフォン経由で自由に活用できてしまうのだ。

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非常に深いバンク角でもてぎを駆ける

 
 先述したように、モトGPも行われる国際レーシングコースでスクーターの試乗とはなんと贅沢なことか。それだけスポーツ性に自信があるということだが、同時にストリートユースがメインであろうこの車種の良さが本当にわかるのか、という不安もあった。しかしせっかく与えられた機会、まずは革ツナギを着こみ精一杯そのスポーツ性を引き出す走りに徹した。
 ピットレーンを走り出し、コースインと共にアクセルを大きく開けるとレスポンスは上々、鋭い加速を見せる。スクーターのポジションながら、シート後部にストッパーがあるため尻周りのホールド性は高く鋭い加速時にも一体感は高い。エンジンや車体の暖気と共にライダーの気分も高めつつ一周すると、意外にも早くパワーに慣れてしまった。スピードメーターは優に150キロを超えているのだが、何せもてぎはとてつもなく広いため速度感覚が麻痺する。一般道ではかなり速いと感じるはずだが、この広大なレーシングコースでは、3周目にはすでに余裕を持って全開にしている場面が多くなった。ただこれは遅く感じる、というわけではなく、コーナー脱出のダッシュなどはやはり一定の鋭さを感じさせてくれるもの。しかし振動が少なく車体各部の立て付けも良いようで、それがもたらす上質感がエキサイティングさを上回ってくる。ユーロ5をもクリアしているという最新設計のエンジンはきっと街中でとても上質でありながら同時に十分なパフォーマンスを持っていることだろう。
 
 コーナリングだが、とにかく深いバンク角に驚く。革ツナギを着ているためどうしてもスポーティな乗車姿勢をとりたくなるが、足が後方に置けず中途半端な姿になってしまうものの、それでも膝を擦るようなスポーティな走りを許容する。そしてその領域でも車体は何も擦らないのである(センタースタンドも装備)。バンク角はライバル機種より確実にあるだろう。
 気分よく攻め込んでペースが上がるほどに純正指定圧に設定されていたタイヤ内圧が高くなりすぎ接地感が薄くなってしまったため、アグレッシブな走りから足を投げ出したノンビリ走行へと切り替えた。するとまた違った一面が感じられた。先ほどまではスクーターらしからぬ前後重量配分を活かすような、良く効くブレーキも活用した、フロントに積極的に仕事をさせる乗り方で旋回力を引き出していたのだが、そんなことを意識せずともとても素直に走れてしまったのだ。体を起こしてシートに体重を預けているとフロントタイヤはかなり遠くに感じるのだが、それでもコーナリング中に接地感が薄くなることはなく、オンザレールで気持ちよく旋回できてしまう。
 
 そもそもスクーターで膝を突き出して走り込む方が不自然でありこちらが正しい乗り方なのだろうが、その二面性というか、許容度の広さに楽しみの幅を見た気がした。ちなみに後の走行ではタイヤの空気圧をサーキット向けに落として再試乗したが、こうするとさらにグリップ感が豊富で本当にスポーツバイクのように楽しく攻めることができてしまった。上質なツーリングと共にスリルのある走りを掲げるAK550だが、少なくとも後者の「スリル」の部分についてはスクーターの領域を飛び越えて十分に楽しめることが確認できた。

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前後の重量配分が50:50に近いこともありほとんどスポーツモデルとして扱うことができた。積極的にハングオンするような走りではスポーツモデル的旋回性が生まれ楽しめたが、後に足を投げ出したスクーター乗りに変更してみたらそれはそれでクイックに走らせることができ、スポーツの中にも二面性がある事に気付かされた。とにかくバンク角の深さは驚異的でスポーティ走行を心おきなくさせてくれたのが好印象だ。

 
公道へと持ち越された細部の印象

 
 まだ日本では発売前ということもあり、今回用意されたAK550はどれもナンバーが装着されておらず、大きな柱であるツーリング性能を味わうことができる場面に持ち込むことができなかったのは残念だ。しかし限られた試乗環境の中での印象は、サーキットでのパフォーマンスに限らずとても良かった。ブレーキやアクセルのみならず各部のタッチや遊びは日本車と同等以上のレベルにあり非常に上質に感じることができたし、視覚的にも高級車と呼ぶにふさわしい完成度と言える。音も静かで振動も少なく、タンデムでの長距離ツーリングでも後部座席からの不満は聞こえてこなさそうな印象だった。また高さを調整できるスクリーンの効果も大きく、試乗した1台めでは高く設定されておりこれが高い防風性を示してくれた(もっとも、スポーティさを求めるなら低い方が良いだろう。スクリーンが低い位置に設定されていた2台めの方が明らかにハンドリングは良かった)。
 メーター内の「ヌードー」もじっくりと試す時間がなかったが、台湾現地の風景などが待ち受けに設定されており、まさにスマホと同じ感覚で活用できることが容易に想像できた。USBポートの設定など、この領域では日本車の一歩先を行っていると言えるだろう。
 しかし本当の使い勝手やライバルとの比較は公道を走らせてみるまでは語れない。渋滞路での取り回しや信号でのストップ&ゴーなどは実際にそういった状況にならないと気づかない事柄も多いため、その分野においてはいずれ追レポートの機会を設けたい。

 
第5のアジアメーカー

 
 キムコは日本の4社のように究極のスポーツモデルをリリースしているわけではないのだが、しかし一方で電動バイクの分野では日本メーカーの数歩先を歩んでいる。プロジェクトNEXと呼ばれる電動バイクへの取り組みは非常に現実的であり、2018年にはまるっきり新世代の電動バイクを発売するという。さらに欧州の国によっては日本メーカーよりもシェアが大きいこともあり、キムコは成長著しいアジアの大メーカーとなっているのだ。アジアのバイクと言えば日本の4社、というのは過去の話かもしれない。キムコの勢いを見るとアジアの第5のメーカーとして存在感は非常に大きい。
 そんなキムコの頂点バイクAK550は最先端の性能を与えられ、ゆえに値段も決して安くはない。しかしそれでも国際的に日本車と渡り合える魅力を有しているのだ。その本気度合いに感じ入った共に、日本メーカーもウカウカしていられないな、などと思ってしまった経験となった。
 
(試乗・文:ノア セレン)

モダンなLEDテールランプは素直にカッコイイ。ブレーキング時はセンター部が点灯。タンデムグリップも大型でタンデムランの快適性は高そうだ。 フリーピストンを内蔵するリアサスは、リンクレスながらスムーズな作動性と高負荷時の踏ん張りを両立。ファイナルはベルトドライブ。 ステップボードは自由度が高く大柄なライダーでも窮屈さは感じなかった。細部までデザインされた各部の作り込みが見事だ。
倒立フロントフォークにブレンボのラジアルマウントキャリパーを装着するなど豪華装備。ダブルディスクはφ270mm。タイヤはメッツラーを純正装着。 シート下スペースは同排気量帯のライバルと比べると大きめの印象。ライトは向きを変えることもできるなど細部まで気配りがある。開閉のダンパーも上質だった。 メインキーはスマートキーで、手前のスイッチを押すとリングがブルーに光り回すことができるようになる。操作には少し慣れが必要か。
左右のメーターで、タイヤ空気圧などまで様々な情報が表示される。中央部がヌードー用カラーディスプレイで、スマートフォンの専用アプリで様々な表示をさせることができる。使い方はかなり広がりそうであり、オーナーはスタイルに合わせて活用できることだろう。写真ではプリセットのアナログ式スピードメーターを表示。 手元のスイッチは非常にわかりやすく、日本車に乗り慣れた人なら迷うような操作はない。グリップヒーターは標準装備で、パワーモードも2つ用意されている。停車時しか2つのモードの切り替えができないのが残念なところ。パーキングブレーキはヤマハのシステムと同様の親指で操作できるレバーで大変使いやすかった。 燃料タンク容量は15リットル。メインキー部でカバーを開け、キャップは手動で開けることができる。
785mmというシート高で足つきはかなり良好。低重心な印象もあり常に安定感があった。バックレストは工具なしで位置を調整可能。カーボンプリント表皮など質感も高い。 手元も左右にボックスが備わるが、今回はその使い勝手まで検証することはできなかった。 上方に跳ね上がりスポーティなイメージのマフラーは、消音効果が高いようでとてもジェントルな排気音。その演出も上質な大人のスクーターに相応しい。
フルLEDの灯火類はモダンなデザインを実現。スクリーンは高さ調整ができるが、ワンタッチではなく工具を使ったボルト留め。 スクーターではあるが、TMAXやX-ADVのようにフォークはステムの上下で支持されスポーツモデルのような剛性感を追求。
リンクレスのリアサスと、ピボット同軸のファイナルドライブ。当初はアクセル開け始めのトラクション感が薄い気もしたが、タイヤの空気圧を落としたら気にならなくなった。
車体構成はTMAX的に思える部分もあるが、エンジンとしてはX-ADVのレイアウトによく似た、270°クランク+2軸バランサー。 CVT変速、湿式多板クラッチを経て、ピボット部を貫通してファイナルのベルトドライブへと繋がるパワートレイン。 キムコグループの代表取締役、アレン・コウ氏も登場。190cmはあろうかという身長で、若く、イケメンで、これからまだまだ発展していくであろうキムコを象徴しているかのような存在だった。
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●KYMCO AK550 主要諸元
■エンジン種別:水冷並列2気筒DOHC4バルブ 排気量:550.4cc 燃料タンク容量:15リットル 最高出力:39.3kw(53.5ps)/7,500rpm 最大トルク:55.64Nm/5,500rpm クラッチ:湿式多板 変速機:CVT無段変速 最高速度:161.7km/h(実測値)■シート高:785mm 装備重量:226kg フレーム:アルミニウム 全長×全幅×全高:2,165×795×1,400mm 軸距:1,580mm タイヤサイズ:F120/70-15/R160/60-15

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