世界耐久選手権最終戦『“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース』「8耐の、もう一つの戦い」

ニッポンの真夏の祭典『鈴鹿8時間耐久ロードレース』にはもう一つの顔があって、EWC(世界耐久選手権)の最終戦でもあるのだ。「真夏に最終戦?」と思ってしまうのだが、ヨーロッパだけでなく最近ではアジアでもこの『8耐』が大人気なのだという。
だから「鈴鹿8耐こそグランドチャンピオンが生まれるにふさわしい場所」なのだ。
ランキングトップは、SERTスズキ、2位に僅か1ポイント(P)差でGMT94ヤマハ。3位には1位から27P差でYARTヤマハ。また、 YARTヤマハから野左根航汰、SERTスズキからは濱原颯道のホープが参戦したこともトピックだ。
8耐のもう一つの戦いを追った。


■レポート:佐藤洋美
■写真:赤松 孝

 日本最大のバイクイベント、真夏の祭典『鈴鹿8時間耐久ロードレース』(鈴鹿8耐)は7万4000人の観客を集めました。今大会は40回目の記念イベントだったことで、レジェンドライダーが大集結。1978年第一回大会の優勝者、ウェス・クーリーやグレーム・クロスビー、そしてケニー・ロバーツ、ケビン・シュワンツ、また藤原儀彦、北川圭一、梁明、宇川徹が来場。宮城光と平忠彦のトークショーも開催されました。鈴鹿8耐 第1回大会~第39回大会までの車両展示は壮観なものでしたし、音楽とレースのコラボという新たな試みもあり森友嵐士(T-BOLAN)が来場、175Rやnobodyknows+のライブ、署名人のデモランが行われました。灼熱の太陽とうんざりするほどの暑さの中で「暑いね~」を挨拶変わりに開催される鈴鹿8耐は、いろいろな意味で“祭り“なのだと思わせてくれた大会でもありました。

40回目を迎えた『8耐』が、いつものように11時30分にスタートした。

 そして、世界耐久選手権(EWC)の最終戦として開催され、ここで世界タイトルが決定するという大事な大会でもあったのです。ワークス系チームが大挙して参戦、メーカーの威信を賭けて戦われる鈴鹿8耐でEWC組がトップ争いに顔を出すことは難しい。それでも、EWCタイトルのために1Pでも稼ごうと彼らは鈴鹿8耐にやってきます。

 ユーロスポーツ(欧州のスポーツチャンネル)がEWCの放送権利を持ち、鈴鹿8耐をライブ中継したのが3年前。欧州では大反響で、夜中にも関わらず局が始まって以来の高視聴率を叩きだし、実に4000万人も視聴者が増加したといいます。現在はアジア圏でもオンエアされ、鈴鹿8耐の知名度は上がっています。
 ユーロスポーツイベントの代表フランソワ・リベイロ氏は決意しました。
 「鈴鹿8耐こそグランドチャンピオンが生まれるにふさわしい場所だ」
 こうして鈴鹿8耐を最終戦に設定。
 2016-17シーズンは日本のTSRとトリックスターが世界1を目指しフル参戦を表明しました。また、2017年ヤマハファクトリーとなった野左根航汰(YRATヤマハ)が途中参戦開始するなど、EWCがこれまで以上に注目されたシーズンになりました。

 開幕戦は仏・ボルドール24時間耐久で開催され15回もの世界タイトルを獲得している#1 SERTスズキ(バンサン・フィリップ/アンソニー・デラール/エティエヌ・マッソン)が優勝、2位にSRCカワサキ、3位に#10 トリックスターが入りました。第2戦は仏ル・マン24時間耐久で、#7 YARTヤマハ(ブロック・パークス/マービン・フリッツ/野左根航汰)との熾烈な戦いを制して#94 GMT94ヤマハ(デビッド・チェカ/ニッコロ・カネパ/マイク・デォ・メリオ)が勝利。第3戦スロバキア8時間耐久でも
GMT94ヤマハとYARTヤマハはトップ争いを繰り広げGMT94ヤマハが勝利、2位YARTヤマハ。第4戦ドイツも戦いが続きましたがYARTはトラブルで4位となり、GMT94ヤマハが3連勝、そして、最終戦鈴鹿8耐を迎えました。

 ランキングトップは、SERTスズキ、2位に1ポイント(P)差でGMT94ヤマハが迫ります。3位には1位から27P差でYARTヤマハ。日本のTSRもトリックスターもトラブルや転倒で実力発揮とはならずにタイトル争いに絡むことはできませんでした。ですが、最終戦鈴鹿への思いは強く「EWCで鍛えた力を」と挑みました。

鈴鹿をランキング2位で迎えたGMT94ヤマハ。トップとのは、僅か1ポイントだった。

 実はSERTスズキの名物監督ドミニク・メイアン氏(70)の姿が、第2戦ル・マンからなかったのです。ル・マンの事前テストが行われたフランスのノガロ・サーキットでエースライダーのアンソニー・デラールが亡くなり、そのショックもあり心臓の手術を受け入院中とのことでした。私が訪れた2013年ル・マンのオープニングではメリアン監督がバニーガールと一緒に闊歩して大声援を浴びていました。EWCの主役は監督なのだなと認識するシーンでもありました。
 「耐久レースで欠かせないのは、レース展開の管理、現状の把握、ライバルを意識したペース設定、そしてリスクを最小限に留めること。これらが揃って初めて勝てる。何よりも全員が一体となり、諦めない精神で取り組むことのできるライダーとチームであるかどうかだ」
 とメリアン監督はEWCの神髄を教えてくれました。何度も世界タイトルを獲得しEWCに君臨しているメリアン監督だからこそ尊敬を集め讃えられるのです。



今年、SERTスズキは悲劇に襲われた。緒戦ル・マンの事前テストが行われたフランスのノガロ・サーキットでエースライダーのアンソニー・デラールが亡くなったのだ。どうしてもチャンピオンを捧げたかっただろう。 1位と27ポイント差でランキング3位のYARTヤマハにも、まだチャンスはあった。2017年ヤマハファクトリーとなった野左根航汰がチームの一員となり、良く知る鈴鹿を走る。

 今年のル・マンのオープニングは、デラール選手の追悼セレモニーが行われ、ライダー、チームスタッフ、オフィシャル、観客の全てが参加して彼への哀悼を現しました。彼の賞が設定され、この時4位に入ったSERTスズキが受賞しました。
 SERTはアンソニーを失っただけでなく、メリアン監督不在の中で、懸命に戦いランキングトップを守り続けて鈴鹿8耐へとやって来たのです。
 メリアン監督の代理を務めるドミニク・エバン氏はこう語りました。
 「メリアン監督の手術はアンソニーが亡くなって2日後だった。体重は9キロも落ちてしまって、そこから回復するのに時間がかかったけど今は元気だよ。でも医師から飛行機に乗るのを止められて、鈴鹿には来られないんだ。アンソニーのためにも監督のためにも世界タイトルを持って帰らなければ」
 その秘策として、今年ヨシムラ入りした濱原颯道(22)を起用したのです。濱原は今季、大抜擢でヨシムラ入りした新人。190cm、85Kgの巨体で曾祖父が大関という規格外のポテンシャルに期待が集まっているのですが、全日本参戦は今年が初めてで経験が少なく、世界タイトルを賭けての戦いに、それは無謀というか、思いきり過ぎるのではないかと思ったのですが、海の向こうでは“秘密兵器”として伝わり、GMT94ヤマハも鈴鹿を知る日本人を投入するかも知れないと噂され、世界タイトルを巡る戦いは、水面下で盛り上がっていたのです。

今にも泣き出しそうな空模様。もう一つの戦い『WEC=世界耐久選手権』が始まった。

 濱原は鈴鹿8耐テストからチームに合流、ヨシムラに駆け込んでセッティングの相談をしたり、スズキスタッフに聞いたりとSERTスズキのために奮闘します。マシンは旧型ですし、タイヤもブリヂストンからダンロップへと変わり難しい乗り換えの中で健闘していました。スズキスタッフは「しっかりやっているよ。もうチームの中心的ライダーだ」と颯道の働きに目を細めていました。
 しかし、決勝で転倒してしまった。
 EWCチームの迅速なピットワークで、すぐにコース復帰し最終的にSERTスズキは18位でチェカ―を受け、EWCランキング2位となりました。16度目の世界タイトル獲得とはなりませんでしたが、昨年のSERTスズキの鈴鹿8耐の順位は23位、転倒があったのに18位は颯道の頑張りによるものだと思うのです。EWCのランキング表彰台でも涙を止められない颯道でしたが、彼はこの挑戦に少しも臆していなかった。その勇気ある挑戦が本物の秘密兵器へと続く道なのだと思います。



世界を戦ってきたGMT94ヤマハは確実なピット作業をこなす。 2016-17シーズンは日本の#5 F.C.C.TSR Hondaと#10 EVA RT初号機WEBIKE TRICKSTARが、世界1を目指しフル参戦した。

 世界チャンピオンにはGMT94ヤマハが11位でチェッカーを受け獲得しました。昨年のEWCは1P差でランキング2位。その雪辱を果たし、3度目の世界タイトルに輝きました。クリストフ・グィオ監督はチームワークの勝利だと語りました。
 「昨年はSERTに1P差まで迫れたことが嬉しかった。今年は開幕戦のボルドールでアクシデントから追い上げて9位になったことがタイトル争いにつながったのだと思う。ル・マンから若手ライダーのディメリオを投入したことは冒険だったが、チェカ、カネパと3人が兄弟のような絆で協力しあって戦い抜いてくれた。今回はYARTヤマハとの戦いは忘れ、とにかくSERTの前でチェッカーを受けることだけを考えていた。ライダーは争いたい気持ちをコントロールしてくれた。最終戦ではライダーにプレッシャーがかからないように、スタッフ皆が担う覚悟を示せたと思う」



F.C.C.TSR HondaはEWC参戦組とはメンバーを変えて臨み3位表彰台に登り、今シーズンのランキングを5位とした。 「チームとサポーターが一体となって世界タイトルを目指す」という“イカヅチ作戦”を展開するEVA RT初号機WEBIKE TRICKSTARはランキング10位だった。

 ランキング3位となった YARTヤマハのパークスは「世界チャンピオンは難しいだろうが、GMT94をやっつけたいね。それだけだ」と今季トップ争いを繰り広げたGMT94 との戦いに照準を合わせ、その願いを果たし5位でチェッカー。EWC参戦組ではトップに立ちました。野左根はチェッカーライダーを務め、表彰台後、脱水症状で倒れてしまいましたが、EWCを戦い抜いた野左根が、大きく成長を示したことは、誰もが認めています。今後、日本を代表するライダーとなることは間違いなく、これからが楽しみなライダーとなりました。

 2ラップ目にヨシムラのエース津田拓也が転倒、マシン修復に3ラップを要して、そこから怒涛の追い上げで7位に入った功績でヨシムラの加藤陽平監督は『アンソニー・デラール賞』を受け取りました。F.C.C.TSR HondaはEWC参戦組とは違うラインナップで挑み3位表彰台に登り、ランキングを5位としました。トリックスターも出口修の肩の脱臼欠場を受け、井筒仁康が復帰しますが、最終的には海外ライダーふたりで戦い14位、ランキング10位となりました。



8時間を走り抜きトップでチェッカーを受けたのは#21のYAMAHA FACTORY RACING TEAMだった。 2016_17シーズンのチャンピオンとなったのは#94 GMT94ヤマハだった。そして9月17日には2017‐18シーズンの開幕戦『ボルドール24時間耐久』が待っている。

 チェッカー時には、グランドスタンド席に配られたペンライトが美しく灯り揺れて、名物の花火が打ち上げられ、鈴鹿8耐の興奮は最高潮となりました。EWCの表彰台にも多くの声援が集まりGMT94 の面々は「この光景を忘れない」と感激していたのです。
 YARTヤマハのマービン・カインツ監督は「もうSERTの時代は終わり、GMT94を倒して、俺たちが新しい時代を作って行く」と語っていました。EWCの2017‐18シーズンの開幕戦ボルドール24時間耐久決勝が9月17~18日と迫っています。EWCを戦うチームもライダーもオフシーズンという気分には程遠く、次なる戦いに向けて動き出しています。



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