Honda X-ADV 試乗

■試乗&文:中村浩史 ■撮影:富樫秀明/依田 麗 ■協力:Honda 

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CBR1000RRに乗っていて、NC750Sのことをうらやましく思う。
――あ、ラクそうだなぁ。
そしてNC750Sに乗っているとFORZAをうらやましく思う。
CB1300SFに乗っていて、アフリカツインを
そして、アフリカツインに乗ってCRF250Lを
うらやましく思うこともある。
X-ADVって、そんなバイクだ。

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ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 
 伊豆のあたりに、すごく好きな定食屋がある。あんまり教えたくないからディテールは教えませんけど(笑)、海岸線を走っていて交差点を鋭角に曲がり、するといきなり急な下り坂で、平地に出ると未舗装路。そこを300mほど進むと、ようやっと駐車場がある、そんなところ。
 デッキがあって、すぐそばに停めたバイクを眺められて、魚料理がおいしい。声がでかいおばちゃんが、いつも食後のコーヒーを淹れてくれるんだけれど、これはあんまり美味しくないのが惜しい(笑)。立地は最高、アクセスは最悪――そんな場所に限って、行きたくなるお気に入りって、あるものだ。
--おばちゃん、店の前の駐車場んとこ舗装してよぉ、なんて言うんだけれど、おばちゃんはいつも、はいはい、わかったよ、うるさいねぇ、なんてもう15年も言ってる。
 X-ADVを前に、僕はすぐにあそこに行きたくなった。
 

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 X-ADV、この「ADV」っていうのは、アドベンチャーであり、アドバンス。アドベンチャーっていうのは、アフリカツインをはじめとするアドベンチャーカテゴリーをイメージさせて、アドバンス(=先進性、みたいな意味)は、このオートバイの持つ新しさをあらわしているそうだ。
 ベースとなったのは、NCシリーズのエンジンを持つインテグラ。NC兄弟のうちのスクータールックのDCTバージョンだ。
 けれど、X-ADVは新しい。うん、すごく新しい。スポーツバイクであり、クルーザーであり、コミューター。さらにスクーターであり、オフロードバイクでもある。このすべての要素を、机上の空論ではなく、きちんと形にまとめ上げていると思う。そこが、X-ADVの新しさだ。
 エンジンは、DCTを装備した直列2気筒750cc。もうすでに何世代目になるんだろう。変速ショックも少なく、動きもスムーズなDCTを搭載し、フットチェンジ仕様はなし。ギア比は、全体的にややローギアード(加速型)に振られていて、パッとスロットルを開けた時の反応がパワフルでダイレクト。これは、シルバーウイングなどのスクーターでは味わえない、オートバイっぽいエンジン特性だ。
 ライディングポジションは、いわばスクータータイプ。フットボードに両足を置き、ニーグリップ部がない。さらにサスペンションストロークを伸ばしたことでシート高が上がってしまっていて、シート高の数字よりは足つき性がよくはない。それでもサスペンションとリンクを日本専用として、ヨーロッパ仕様よりもシート高は30mmほど低い。僕の体格(178cm/80kg)では問題ないけれど、160cm台のライダーはおっとっと、だ。
 まずはパワー特性に驚かされる。そろーっとスロットルを開けるとトトトト、と出てくれるけれど、パッと開けた瞬間のダッシュが強い。あ、このスタイルで乗っていてもスクーターじゃないんだ、って実感する瞬間で、タイムラグのない加減速を味わうことができる。全体的にローギアードなのは、ミッションやファイナルで設定しているのではなくリアタイヤが15インチ(インテグラは17インチ)となったことで、相対的に駆動輪とドリブンスプロケットの対比が、スプロケットを大きくしたようになっているから。スロットルのオン/オフで車体が前後にピッチングするのもオートバイっぽい。バーハンドルなこともあって、両足をもう少し後ろに置いてみたら、NC750Xっぽい動きだった。当たり前だけれどね。
 ハンドリングもごく普通。スクーターのような後がかりすぎないウェイト配分で、ややフロントに荷重が乗っているような車体姿勢だ。走り出すと、まず乗り心地がいいね。これはサスペンションストロークを伸ばしたためで、ホイールトラベルを伸ばしたいけどシートは高くしたくないし、というギリギリのバランスなのだろう。
 もちろんこれは、ちょっとしたダートに踏み入って行ける、という性格を持たせたかったのだろうけれど、純正タイヤの特性と合わせて、めったに行かないはずのダート走行というよりは、荒れた路面をゴツゴツと走るのがまったく平気だ、というメリットがある。試乗コースの路肩は結構荒れていて、舗装の割れ、うねり、穴ぼこさえあって、それでもそこを走るのに大きなショックを感じなかった。
 もちろん、先に発表されたヨーロッパは、国や地方によって路面状況は日本より悪いことが多い。大都市に行っても、都市部に入ると路面電車のレールがあったり、ちょっとでも濡れるとまったくグリップしない表面だったり、ベルジャン路って呼ばれる石畳だったり、コンクリートに丸石を埋め込んであるだけの道だってある。郊外に行けば舗装路ばかりじゃないし、何十年前の舗装だかわからないルートや、ダートだって普通にある。そんなパターンを、きちんとストロークして、安全に走るための足なのだ。
 走行フィーリングはビッグスクーター感が強い。特にクルージング時には低回転の一定スピードで走るのがラクで、ポジションも姿勢も快適なまま。たとえば高速道路で6速に入っていると80km/hで2,600rpm、100km/hで約3,200rpm。開発スタッフの方には、最高速度は180km/hあたりなんだと教えてもらった。
 

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 クルージングしていると、可変スクリーンもいたずらしたくなるもので、100km/hくらいの速度域で最高位置と最低位置を試してみたら、まっすぐライダーに当たる風圧は、最高位置でヘルメット上部、という感じ。それよりも、スクリーン左右から漏れてくる風圧もあるから、過信は禁物。それでも、小雨が降って来た時に60km/hくらいで走り続けていたら雨粒は当たらなかった。下半身もしかりで、これは普通のオートバイでは味わえないプロテクションだろう。グリップヒーターも標準装備なので、真冬のつらさはかなり低減できているようだ。真冬のオートバイ通勤はコレがいいな(笑)。
 ちなみにクルージング時の瞬間燃費は、6速70km/hで約45km/L! ATモードでは60km/hでは6速に入らなくて、60km/hでは5速なんだけれど、瞬間燃費の数値は40km/Lを超えていた。さすがNC系の2気筒は素晴らしく燃費がいい!
 走っている間は、2気筒なりの鼓動があって、これはNC750的。スロットルを開けるとダダダダダッと加速し、スロットルを閉じるとエンジンブレーキがかかって、自動シフトダウンを始めてくれる。
 ワインディングに入ってみると、さすがにこのタイヤでフルバンク、というわけにはいかないけれど、センタースタンドがガリガリッと接地するくらいはビクともしない安定感がある。特にフロントに荷重が乗り気味の車体は、ちょっとアンダー気味にキレイに曲がってくれて、タイヤのグリップいっぱいまで走れる。ヒザを突き出して走りたいなら別のバイクがいいよ。ジャーナリスト発表会で、バンク角不足を訴えていた人もいたけれど、どうかしてる(笑)。速く走りたい、深々とバンクするスポーツがしたいならば、CBR1000RRを選べばいいだけの話だ。
 そして、車名があらわすもうひとつの特徴、ダート走行なんだけれど、フラットダートくらいの林道に踏み入ってみると、まったく普通に進んでいくことができるのに驚いた。サスペンションもよくストロークして、ダート路面へ気軽に入っていくハードルの低さ、つまり「ヤル気」がいい。もちろん、いいペースで走り始めると、CRF250Lやアフリカツインのような走破性はないし、腹打ちすることもあるけれど、感覚で言えばCBRじゃぜったいに入っていきたくない場所にも気軽に入って行ける--それで充分だと思う。
 

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 スクーターで、スポーツバイクで、オフも行ける。これって、クルマで言うSUV(=スポーツ・ユーティリティ・ビークル)だよね。それも、便利さだけじゃなくて走りの楽しさの方のバランスが勝っていて、このバイクを持っていたら、空想も含めて、行動範囲がものすごく広がる。ワインディングじゃCBRにかなわないし、街乗りじゃFORZAがいい、超ロングに出るならアフリカツイン、オフを走るならCRFなんだけれど、それが1ルートに複数項目あったら、これは文句なくX-ADVだ。
 欲を言えば、動力系の電子制御。走行モードがMTとATに分かれていて、ATでは通常走行のDと、よりスポーティな減速比(各ギアとも高回転まで引っ張る)のSが選べるんだけれど、もっと低燃費に振った、穏やかな走行モードも作って欲しい。ツーリングに出かけて低燃費を目指すなんて楽しみ、NCシリーズが作ったようなものだからね。
 僕の愛車は1100カタナで、お世辞にも悪路走破性が高いバイクではない。冒頭の定食屋には年に3~4回は行くんだけれど、伊豆まで快適なツーリングをしたっていうのに、店に到着する最後の300mのダートは雪道を走っているかのようにものすごい緊張するのだ。雨あがりに、遠くに停めて歩いて入店したこともある。晴れた日だってゴツゴツガチャガチャ進まなきゃいけないし、水たまりも多いし、帰ってからの洗車もたいへん。雨上がりの日なんか、並んでいるクルマもバイクも、泥だらけになる。
 急ぎ、X-ADVで行こう。駐車場のとこ舗装しなくていいから、待ってろ、おばちゃん。
 
(試乗・文:中村浩史)
 

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アルミリム+ステンレススポークを採用。チューブレスタイヤを使用するために、スポークをVFR1200Xと同様にクロス張りとして、タイヤのエア調整がしやすいよう、L字型のタイヤバルブを使用。ブレーキはアフリカツインと同じφ230mmローター+ニッシンラジアルマウントキャリパーで、プリロード+伸び減衰調整可能の倒立フォークを採用。タイヤはブリヂストンと共同開発の専用品で、オフロード志向すぎないオンオフパターンを採用。 通常のエンジン搭載位置にあたるレッグスペース。外国人の体格や足の長さ、ヒザの位置を考えた広さで、空間スペースも広く、フットスペースも前後に広かった。写真では切れてしまっているが、上段写真の右上の位置にパーキングブレーキを装備している。 リアは15インチサイズ。ベースとなったインテグラは17インチだが、サイズダウンすることによりシート高が下がり、シート下の収納スペースも広く取れる。アルミスイングアーム下のキャリパーはパーキング用、チェーンカバーを採用することでオイル汚れを防ぎ、バイクっぽさを消している。二次減速比は17/38で、インテグラよりもドリブンが一丁ロングだが、ホイールをサイズダウンしていることから、結果的にローギアードになっている。
LEDヘッドライトは常時両側点灯で、ハイビーム時に上下4灯が光る。アドベンチャーイメージを感じさせるのはまさにこの顔つきで、アフリカツインのイメージも踏襲している。ナックルガードはアフリカツインと共用品。 スクリーンは手動で5段階に高さ調整可能。乗車時左側のノブで、ロック解除、回転、スクリーン調整で最大136mmの高さを変化させられる。高さ調整はホンダ独自のパンタグラフ式で、このメカっぽさも魅力!(写真の上でクリックするとスクリーンを一番上に上げた状態が見られます) 大型ディスプレイはスピードを中心に、バーグラフ式タコ燃費、燃料、時計、日付、グリップヒーター、DCTモード、外気温、オド&ツイントリップ、ギアポジションを常時表示。表示の見やすさは世界最高峰レベル。
シートは前後長が長く、長時間走行でも疲れないクッション厚と硬さ。日本仕様はサスペンションの変更でヨーロッパ仕様よりシート高が3cm低いが、内もものあたり部分をもう少しスリムにすると足を降ろしやすいかも。 シート下スペースは、フルフェイスはもちろん、つば付きオフロードヘルメットも一部収納可能の大きさまで広げている。このためにリアフレーム部を新作して深さも確保し、低いシートと広い収納スペースを両立した。 車載工具前にあるのが標準装備のETC。グリップヒーターともども、最初から装着しておいた方が追加納車の必要もなく、コスト減にもなる、とのこと。ラゲッジライトと12Vシガーソケットも装備している。
折り畳み収納式のタンデムステップ。写真に見られるX-ADVロゴの真下くらいの位置にライダー用のフットレストもオプションで用意されているという。特にオフライディング時は踏ん張りが効いていいはず。 ショートサイズのマフラーは、インテグラ時代よりも音量は大きめ。EURO4の統一規格の採用で従来の国内音量がやや緩和されたためで、ツインのパルスも感じられるサウンドだ。とはいえコレでもまるで静か。 灯火類はすべてLED。テールランプは上下2層式で、ウィンカーは別体式。テールランプがシート長に収まることによって、車体デザイン(特にボディ上半分)のショートイメージを強調できる効果がある。
シート前部に給油口を設置。リッドはシートオープンスイッチと同じく、メインスイッチ部分にあり、メインスイッチがOFF、つまり停車時にしか使用できない。開閉スイッチとリッドの節度、位置ともにスマート。 リアサスは欧州仕様よりもシート高を下げるためにリンクを専用設定。サスペンションストロークが減少しても、ジャンプでもしない限り、デメリットは皆無だろう。サスペンションはプリロードのみ調節可能。 水冷直列前傾2気筒エンジンはインテグラと共通。吸排気系を専用設定してX-ADV専用としている。エアクリーナーはハンドル下のニーパネル内部を占領し、スクーターにある小物入れスペースなどを設置できないそう。
●X-ADV(2BL-RC95)主要諸元
■全長×全幅×全高:2,230×910×1,345mm、ホイールベース:1,580mm、最低地上高:135mm、シート高:790mm、車両重量:238kg、燃料消費率:40.0km/L(60㎞/h定地走行テスト値、2名乗車時)、27.0km/L(WMTCモード値、クラス3-2、1名乗車時)■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ、総排気量:745cm3、最高出力:40kw(54PS)/6,250rpm、最大トルク:68N・m(6.9kgf・m)/4,750rpm、燃料タンク容量:13L、変速機形式:電子式6段変速(DCT)■フレーム形式:ダイヤモンド、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、タイヤ(前×後):120/70R17M/C 58H × 160/60R15M/C 67H
■2017年4月14日発売 メーカー希望小売価格:1,209,600円~(税込)

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