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 冒頭に記したとおり、ヤマハファクトリーの危なげない勝ちっぷりも見事だったが、強烈な追い上げで2位に入ったTeam GREEN(柳川明/渡辺一樹/レオン・ハスラム)と3位表彰台を獲得したYOSHIMURA SUZUKI Shell ADVANCE(津田拓也/芳賀紀行/ジョシュ・ブルックス)の争いは、ある意味で8耐の醍醐味を凝縮したような素晴らしい勝負だった。とくに、レース中盤のハスラムと芳賀のバトルは、次々と現れるバックマーカーを処理しつつ互いに一歩も引かないスリル満点の勝負で、間違いなく今大会最大のハイライトのひとつだった。
 芳賀、ハスラムの両選手とも男っぷりのよい圧巻の走りで、レースを終えた際に表彰台獲得の安堵よりも3位に終わった悔しさをユーモラスに表現する芳賀の姿には、いかにも彼らしい含羞も滲み出ていた。一方、25年間も8耐を走ってきた柳川が(途中に参戦しなかった年もあったとはいえ)、45歳という年齢を感じさせない強靱な体力と豊かな経験に裏打ちされた懐の深さでチームをうまくまとめ、表彰台に登壇したことも、観る者の気持ちをなごませるなにかを感じさせた。それはおそらく柳川明というライダーの人徳なのだろうな、とも思う。



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 今回のヤマハファクトリー優勝により、ブリヂストンは11年連続優勝を達成した。1987年に初参戦し、2005年まで一勝も挙げることができなかったものの、2006年以降は毎年負け知らず。表彰台独占も今年で5回目。ちなみに4位のYART YAMAHA OFFICIAL EWC TEAMはピレリを装着。ダンロップ勢の最上位はTeam KAGAYAMAの6位だった。
 Team KAGAYAMAといえば、スタートライダーの清成龍一が鮮やかなスタートを決めて、レース序盤はトップに立ち、ヤマハの中須賀と真っ向勝負を繰り広げた。清成からチームオーナーの加賀山就臣に交代する際、ピット作業に手間取ってタイムロスしてしまい、これで大きく順位を落とした。さらにその加賀山の走行中にフロントタイヤがパンクするトラブルにも見舞われて、2時間経過段階で彼らは28番手まで下げていた。しかし、残る6時間で加賀山・清成・浦本修充は少しずつ順位を回復してゆき、最後はチェッカーライダーの加賀山がエヴァRT初号機TRICK STARをオーバーテイクし、上記の順位でゴール。これもまた、長い長い8耐ならではのドラマである。


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 そのTRICK STAR Racingは、2017年の世界耐久選手権にフル参戦することを今回のレースウィーク中に発表した。シリーズ開幕戦となる9月のボルドール24時間は、今回の8耐と同一の選手ラインナップ(出口修/井筒仁康/エルワン・ニゴン)で参戦する。TRICK STAR Racingの8耐参戦は、2010年以来エヴァンゲリオンレーシングとの共同プロジェクトが続いているが、「新世紀エヴァンゲリオン」は世界的にも多くのファンを持つコンテンツだけに、もしもこの共同企画が世界耐久の場にも広がればきっと多くの注目を集めるだろう。実現すれば面白い試みになると思うのだが、鶴田竜二監督によれば、そのあたりに関しては今のところ未定、ということである。


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 また、今年の8耐には、4月の熊本地震で被災したホンダ熊本工場の従業員たちによる3チームも参戦した。日本郵便Honda熊本レーシング、Honda緑陽会 熊本レーシングwithくまモン、HondaブルーヘルメットMSC熊本&朝霞は、今回のレースを通じて復興に努力する地元の人々へポジティブなメッセージを贈ることを参戦の大きな目的としていた。公式予選の行われた金曜には共同記者会見を行い、日本郵便Honda熊本レーシング監督の井村直典がレースに向けた決意を以下のように述べた。
「我々3チームは、本田技研工業熊本製作所でレース活動をしているチームです。4月の熊本地震からの復興に向けて頑張る熊本在住のメンバーが会社の理解を得て、8耐に参加するチャンスをもらいました。地元の皆様や仲間の従業員たちの復旧復興の後押しとなるためにも、最後まで諦めずにチェッカーフラッグを目指して戦いたい。できればシングルフィニッシュを目標にしたいが、まずは完走を目指し、そのあとに結果がついてくれば、と考えています」
 日曜の決勝レースでは、Honda緑陽会 熊本レーシングwithくまモンが201周を走行して31位、日本郵便Honda熊本レーシングは189周で41位。HondaブルーヘルメットMSC熊本&朝霞は転倒に見舞われながらも最後まで諦めずに全力でマシンの修復を果たし、彼らもまたチェッカーフラッグを受けた。ひたむきに走りきったこれら3チームの姿は、復興への努力を続ける地元の人々を間違いなく勇気づけたことだろう。
 




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 そのホンダ勢のなかで最上位フィニッシュは、SatuHATI. Honda Team Asia(ディマス・エッキー・プラタマ/ザクワン・ザイディ)の8位。ラタポン・ウィライローが初日に両手首を骨折し、以後の全セッションと決勝レースをふたりのライダーでやりくりしなければならなかったことを考えれば、このシングルフィニッシュは大健闘といっていい。
 金曜の予選でも、彼らは総合11番手タイムを記録。惜しくも土曜のトップテントライアル進出を逃したが、10番手までわずか0.021秒差に迫った両ライダーのパフォーマンスは高評価に値する。今回のレースの好結果は、玉田誠監督以下、アジア勢の選手とチーム全員が結束して最後までがんばり抜いた、のびのび野球ならぬ「のびのびレース」がもたらしたリザルト、といえるのかもしれない。


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 公式発表によると、今年の観客数は10,000人(木)、11,500人(金)、33,500人(土)、69,000人(日)で、ウィーク合計は12万4000人。世界の様々なカテゴリーで競うトップライダーたちが一堂に会して優勝を争う姿も華やかで壮観だが、様々なプライベートチームが自分たちの目標達成に向けて8時間を戦い抜く姿もまた、観る者の胸を強く打つ。長いながい8時間を見守り続けた観客たちもまた、それぞれに充ち足りた思いを胸に帰途についたことだろう。では、来年の夏もまた鈴鹿で会いましょう。