幻立喰・ソ

第64回「『ポーク、ポーク、チャップ、チャップ、らんらんらん♪』と、思わず歌いたくなる、THE昭和の味、おかーさんのポークチャップ」

 
 のっけからの鉄ネタで申し訳ないのですが(いつものことです)、「大人の休日倶楽部」をご存じでしょうか? 会員数170万人以上、50歳以上が入会できるJR東日本の巨大敬老会です。会員限定、期間限定で年に3回ほど「大人の休日パス」という、18禁ならぬ49禁きっぷが発売されます。JR東日本全線(新幹線を含む)に加え、JR北海道全線、青い森鉄道線、IGRいわて銀河鉄道線、三陸鉄道線、北越急行線、伊豆急行線、富士急行線、トキめき鉄道線(直江津~新井間)の特急・急行・快速・普通列車の自由席とBRT(バス高速輸送システム=代行バスの本格的なやつ)が5日間乗り放題で2万5千円。新幹線で東京-盛岡を往復、または東京-上野間を12.5往復するだけでモトが取れます。まさに、猫にマタタビ、鉄に大休。分別ある大人でも、乗らなきゃ損とばかり分別のない大人に変身してしまうのですから、分別のつかない子供鉄に与えたら、覚えたての中学生状態で、朝から晩までしこしこしこしこ乗り続け、ついに5日目、枕木を枕に討ち死です。
 一番心配な分別のない大きなお友達ですが、若い頃に北海道ワイド周遊券(東京からだと20日間くらい有効だった)などで夜行10〜20連泊当たり前と鍛え方が違うので、5日間くらいじゃなんてことありません。現在残っている夜行列車は、サンライズ出雲、サンライズ瀬戸、カシオペア、はまなすのたったの4本。追加料金なしでこのきっぷで乗れるのは青森-札幌を結ぶ急行はまなすのみなので、オーバー50の大きなお友達の乗車率が高まります。ゆえにおもしろ話はたくさんあるのですが、明日は我が身ならぬ、今日も昨日もずっと前から我が身なので、ばっさりと割愛します。

 ということで、「すいません、北海道でほうじ……」と会社に申請し、ウソはまずいのでほうじ茶を飲みながら北海道に行ってまいりました。アンダー49の頃は北海道&東日本パスを使い、東京から札幌までほぼ1日半かかっていたのがウソのように、たったの9時間半で到着。無駄に齢を重ねてもいいこともあるんですね。早すぎてつまんないですが。
 今回のミッションは平日の11〜14時しか営業していない、地元民以外にはハードルの高い難関店の訪問です。訪問は出来ましたが、かんじんのソは……というてんまつとなりましたが、何をやってもストレートに、スムーズにいかないのは、きっとネタ切れ寸前駄コラムのネタになるように、立喰・ソ神の格段のご配慮でしょう。ありがためいわく、ではなく、ありがたいことです。


これが「大人の休日パス」です。現場では略して「大休」と呼ばれています。各利用日3万枚限定なので、本気で全会員が購入しようとしたら上尾事件の再来にならないか心配です。

分別のない大きなお友達最後の心の友、夜行急行はまなすは来年3月で廃止が決まっています。まだがらがらでしたが、北斗星のように大騒ぎになるんでしょうか。(2015年11月撮影)

 
 本来、当駄コラムは幻立喰・ソへと旅立ってしまった立喰・ソに思いをはせ、嘆き、悲しみ、慈しんでお腹が減ったら立喰・ソをすするという高邁な趣旨があり、基本的に現役店は扱わないのですが(実際は扱いまくりです)、立喰・ソ神の思し召しによって立喰・ソのおかーさんとふれあいがありました(肉体関係ではありません。念のため)。さらにおかーさんが「どうぞ紹介してくださいね」と言ってくださいましたし、いただいたポークチャップが涙ちょちょぎれのなつかしい味だったし、立喰・ソ神の顔も立ててやらんといかんので(←罰当たり)、七重の腰を八重に折り、どうかお見逃しくださいということです。いつもの鉄だのヨタ話だのと何が違うんだって? ちょっと違います。なんと言っても今回はソが出てきませんから!

 目的地は砂川です。砂川と言っても砂川事件のあった東京の砂川ではなく、北海道の砂川市です。JR砂川駅前、国道12号沿いにあるのが「てい○〜」です。現役店ですから伏せ字ではなく、看板にこう書いてあるのです。前回のに続く、当コラムへの挑戦状のわけもなく、よく見れば○の中に小さく「お」の字が書かれています。つまり○ではなく0(オー)、「ていおー」が店名なのです。ていおーとは変わった名前です。もっと変わった名前の立喰・ソもありますが、変名立喰・ソコンクールがあったら、そこそこの上位入賞クラスの実力でしょう(失礼!)。

国道12号線砂川駅近く。旭川方面に向かう車線沿い。オレンジの看板が目印ですぐわかると思います。(2015年11月撮影)

 実は昨年冬にもトライしたのですが、着いた時はすでに営業時間外。このとき訪問したもう一軒別の場所の別の立喰・ソもなぜかシャッターが降りていてダブルパンチでした(今回はめでたくそちらも訪問できました。東京の方から来たといったら、おばちゃんはたいそうよろこんでくれて飴をくれました)。あれから幾星霜、恥ずかしながら帰ってまいりました(横井さん風)と、さっそくお店の扉を開けると……いきなり6つの瞳が突き刺さりました。先客が3人いらしゃいました。みなさん顔見知りのようで、のっけから一見さんには敷居がアップ。昼でも、ひるむわけにはいきません(シャレのつもりです)。「え〜っと、え〜っと、なんにしようかなぁ〜」とメニューへ目を泳がせふらふらと着席しました。このまま座して閉店を待つのも一興ではありますが、意を決し「すみません、かき揚げそばください」と宣言しました。ドキドキでしたが(小心者ですから)、おかーさんは、常連さんとのお話を中断して「はい、かき揚げそばですね」と即座にガス台に火を付け調理を始めました。すると常連さんは「ここのそばはね、おいしいよ」とナイスなアシストしつつ、「じゃ、また来るね」と席を立つその時、おかーさんはとんでもないことを口にしたのです。

「あら、そばがなくなっちゃった」

私「え?」
常連さん「なに、さっきあったしょ?」
おかーさん「それで最後だったみたい」
私「ええ?」
常連さん「ありゃ、そば屋にそばがないってか。ははははは」
私「あの〜、あの〜」(半べそ)
おかーさん「ごめんなさいね。うどんならありますが」
私「えええ? あ、じゃ、あ、あ、う、うどんで……」(全べそ)

 
 よほどのしょんぼりおじさんになっていたのでしょう、常連さんは「ここはうどんもおいしいからさ。んじゃ」と慰め風味で席を立ちました。
「ごめんなさいね。おそば屋さん(麺を届けてくれる方の)が今日も来てないんですよ。どうしちゃったんでしょう」
 私が来ることを見透かしたようなこの展開。どうしちゃったんでしょうと、叫びたいのは私の方ですよ、おかーさん。

前回訪れたのはまだ雪深い季節でした。次の列車まで1時間以上、やることもなく駅の待合室でしょんぼりしていました。(2014年12月撮影) お品書きです。今さら気がつきましたが、だったんそばもありますね。これも売り切れだったんでしょうか?(以下2015年11月撮影)

 普通の立喰・ソの感覚だと、ちゃっちゃとソを茹でて、スタンバイしている具材を乗せておつゆをかけて、20〜30秒ほどで出来上がりですが、前記のごとく、まずは湯沸かしからスタートです。立喰・ソというよりは食堂系の雰囲気ですし、郷に入れば郷に従え、入店と同時におかーさん時間に時差調整するのが心得です。時間がかかりそうなので、店名について聞いてみました。
 おかーさんはメニューのお隣のパネルを指さして言いました「よく聞かれるんです。あれなんですよ。わたしはよくわからないんですけど」

 これも見逃していましたが、メニューの隣にパネル写真。うすうす感づいている貴方、その通りです。4歳時に皐月賞、ダービーを連覇(「皐月賞、ダービーは3歳限定戦だろ? おめーほんとバカだな。」と思われるかも知れませんが、当時は数え年だったので4歳で〜す)、日本馬で初の国際GⅠ優勝、有馬記念で奇跡の復活を果たしたあの名馬、当改訂オー(私のAT○Kの変換。こんな日本語あるか! このバカソフトが)じゃなくて、トウカイテイオーです。おかーさんが競馬好きというわけではなく、娘さんが大のトウカイテイオーファンだそうです。「本当は娘がこのお店をやるはずで改装して店名も付けんですよ。ところが気が変わって勤め人になってしまって。でも『店名だけは絶対に変えてくれるな』というので、そのままなんですよ」。
 なるほど、トウカイテイオーファンの貴方、行ってみたくなったでしょ。ただし「4歳で65キロって、なんてハンデでしょう」とか「シャコーグレイドが最後に餞してくれて泣けました」とか「田原どうしてるんでしょうね……」等々、おかーさんに難しい話はしないように気をつけましょう。

お品書きの隣には、トウカイテイオーのパネル写真。ダービーでしょうか。気がつきませんでした。 帰りがけに気がついたのですが、のれんにもお馬さん。手書きの看板もいい味出しています。ほんと私の目は節穴だらけ。

 店名にもちゃんといわれがあるんです。こういうお話をきちんと聞いて、記録に残している坂崎師匠の偉大さを、北の大地で改めて実感しました。
 常連さんもいなくなり、余裕が出た私の目に次に入ったのは目の前の豚。「ぼくは砂川ポークチャップのマスコット、ポークチャップリンです」この状況下以外で出会ったらイラッとしそうですが、気になるのは砂川ポークチャップ。チャップって?「砂川市内の飲食店で、砂川産の食材を1つ以上使用したポークチャップ」とありますが、肝心の「じゃあポークチャップってなに?」という答えにはたどり着けないパラドクス。さらに、「洋食だけではなく中華やバーガーなど、さまざまな『砂川ポークチャップ』がお楽しみいただけます!」と、混乱に拍車をかけます。これはかなりしかけ上手な人の高等文章です。気になります。しかしが出てきたら目どころか口が当てられません。ポークですからそんなことはないと思いますが。優しそうなおかーさんと一対一の状況下でなかったことにするような失礼はできません。おかーさんに素直に聞きました。最初からそうすればいいんです。
 おかーさんは親切にいろいろお話をしてくれました。要約すると、砂川ポークチャップとは、現在砂川市の20店舗ほどで食べられるそうで、洋風、中華風、焼肉にスパゲッティやバーガーまでさまざまで、値段もさまざま。ゆえに「これがポークチャップだ」という具体的な例が挙げにくいのです。
「昔はポークチャップなんて言わなかったんですよ。うちでは『豚肉の油いため』と言っていました。今と違って豚肉は高級品でそんなに食べられなかったんですが、親戚のおじさんが来ると食べられるごちそうでした。うちのは母から教わったんですが、町おこしするから、ぜひやってみないかと誘われて、ポークチャップということで出しているんですよ」とのことでした。ちなみにおかーさんは、地元新聞の取材受け、けっこうなスペースで紹介されていました。

知っている人は知っている。知らない人は全く知らない(当たり前)それが砂川ポークチャップ。その正体ははたして? ほっとするやさしい味のかき揚げうどんは380円。かき揚げは温めてキッチンペーパーで余分な油を落とす一手間で、さらにやさしさ度アップ。

 なるほど、ということは、おかーさんの作るポークチャップこそ、元祖ポークチャップなのでは? 

「ポークチャップください!」

 すでにお腹にはソとウが収まっており予断を許さない状況下ですから、もし油ぎとぎとだったら……変な味付けだったら……と、宣言後に不安が高まります。そんな憂患も夕刊前に解決です。じゅ〜じゅ〜といい音といいにおいがストマックを刺激します。「おまちどうさま」、ついにポークチャップとご対面です。さっそくいただきます。おっ、おお、これは! 自他共に認めるバカ舌のわたしでもわかります。ケチャップのとんがった酸味が消えてまろやかです。「隠し味に○○○(あえて伏せ字にしました。なんでしょう?)を入れるのがうちの味なんですよ」と教えてくれました。へえ〜、アレを入れるとこういう感じにになるんですか。もちろん初めて食べたのですが「みなさん、そうおっしゃいます」というとおり、ああ、なんかなつかしい! 無性になつかしい。そして、ほろりとさえしてしまいます。
 つけあわせのたっぷりの生野菜に、優しい味のお味噌汁、箸休めのおしんこまでついて、なんと激安プライス580円! あっというまに食べてしまいました。地元の新聞にでかでかと掲載されたのもうなずけます。うなずけますといえば、うなずきトリオで一世を風靡したビートきよし師匠は、お亡くなりになったご主人のお友達で、わざわざポークチャップを食べに来られたそうです。

これがていおーのポークチャップです。おいしそうでしょ。いや、おいしいんです。これに味噌汁とおしんこも付いて580円。激安です。ちなみに、写真のごはんは「少なめで」とお願いしたものでスタンダードはもっと多いと思います。 ていお〜のおかーさん。癒やされます。いつまでもお元気で、ポークチャップを作ってください。今回食べられなかったソ食べに行きますから、今度こそ入荷手配を願いします! あっ、お名前伺うの忘れていました。す、すみません……

「おいしかったと笑顔になってもらうのが嬉しくて。それが楽しみでなんとかやっているようなもの」というおかーさん。このポークチャップは、しばらくすると無性に食べたくなりそうです。これは困りました。自分で作ってもこの味にはなりません。おかあさんのおかあさんから受け継がれた秘伝の隠し味と、おかあさんの「おいしいものを食べて満足してもらいたい」という優しさという隠し味がたっぷり入っているからこそのこの味なんです。

 いつもの「うまいこと言った」の、いやらしドヤ顔のシメではなく、素直にそう思いました。
 ちなみに、最近ネットで見たというお客さんがバイクや自転車でよくいらっしゃるとのことでしたが、ひとつご注意を。食○ログなどのネット情報に出ている夜の部は、現在やっていないそうです。営業時間は11〜14時のみ日曜定休です。ポークチャップが食べられるのはこの3時間だけ、お間違いなきように。

●立喰・ソNEWS 2015

砂川のお隣にある。最盛期は駅周辺に6店もの立喰・ソが存在したのですが、駅待合室にあった立喰・ソは残念ながら2015年7月1日で幻立喰・ソになってしまい、現在は3店と半減してしまいました。幻立喰・ソになってしまった駅の立喰・ソ(店名不明)ですが、トラブルになったとかで店内での撮影は禁止だったのですが、そんなこととはツユ知らず(そばだけにね)、ソを撮ったら大将に無言で注意された(←へんな日本語)苦い思い出があります。ちゃわんカレーもういちど食べたかったなあ。関係ないけど関係なくはないのですが、駅近くの食堂に元祖チャップ丼ののぼりがありました。サンプルを見ただけですが、砂川のポークチャップとはちょっと違うようでした。さすがにもうお腹いっぱいで、真相は次回の大休で解明できたらいいなあと思っていますが、ていお〜のポークチャップとソを食べたあとにまだ食えるでしょうか。(2015年11月撮影)



待合室側にカウンター、ホーム側にも小さな窓口がありました。(2015年11月撮影) 在りし日の姿は撮影禁止エリア外(……)からの撮影です。(2011年5月撮影)

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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