Highland Touring トライアンフで巡るスコットランド、マン島。──Part 3マン島で、TTレーサーになる
 ●レポート&写真:泉田陸男 写真:青山祐介
 ●取材協力:・・・・・・



TTコースが呼んでいる


 マン島へは空路でマン島「ロナルズウェイ空港」へ行く方法と、「アイル・オブ・マン・スチーム・パケット会社」のフェリーでリバプール又はヘイシャムからダグラスへ向かう方法がある。バイクで渡るには当然フェリーの利用だが、今回はリバプールから出航した。

フェリー乗り場からはリバプールの歴史的建築物「ロイヤル・リバー ビル」を望むことができる。 マン島へのフェリー船室は広く、食事や土産物販売店もあり快適だ。

 フェリー乗り場は、ビートルズで有名なキャバーンクラブから遠くないセント・ニコラス・プレイスにあり、リバプールで最も象徴的な建物であるロイヤル・リバー ビルを望むことができる。1911年に建てられ、当時ヨーロッパ一の高さを誇り、ビッグ・ベンより大きな時計盤のある2つの時計塔を備えている。

 船窓からビルを眺めながらフェリーはダグラスに向けて夕方の7時過ぎに出航し、夜の10時に到着したその晩は生憎の雨だった。
 翌日は、晴天とはいかなかったが雨は上がり曇り空。はやる心に朝食もそこそこでマシンに火を入れた。勿論、真っ先に行く所といえばTTコースのスタート地点と決めていた。海沿いの遊歩道プロムナードからダグラスの街中の坂道を登ると「TTマーシャル」というグランドスタンドとピットロードが設けられたTTコースのスタート地点だ。公道脇のコンクリート壁で隔てられたピットロードにマシンを停めると、何故か心がワクワクしてくる。


ダグラスの街の象徴プロムナードはレースウィークの賑わいが去り、落着きを取戻していた。

 TTマーシャルをスタートし真っ直ぐ続くクォーターブリッジ・ロードを走ると、全開で走り抜けていくTTレーサーたちの緊張と恐怖感がいかなるものかが体感できる。クォーターブリッジまではほぼ一直線の下り坂、左右には民家が間近に迫り視界は狭い。スタートを切ったレーサー達は、クォーターブリッジまでの1.5マイルを全開で走るのだからその緊張は凄まじいものだろう。

 クォーターブリッジを右へと曲がり、バラクレイン、グレンヘレン、バラフブリッジ、サルビーストレートと進むに連れ気分はTTレーサー。ラムジーの町からグースネックを立ち上がるとマウンテンエリアに入る。スネイフェル山を跨ぐマウンテンコースは微かに霧に霞んでいた。眼下にはアイリッシュ海が見え、バンガローを過ぎる頃から霧が消え、ケイト・コテージからの下りが眼前に飛び込んできた。クレッグ・ニーバまでの長い下りは嫌でも緊張感を高め、TTレーサーの気分を感じることができる。クレッグ・ニーバのタイトなコーナーをクリアしガバナーズブリッジを通過するとスタート地点へと戻る。ピットロードにマシンを停めると、改めてTTコースの過酷さゆえの誘惑が記憶に刻まれた。


クレッグ・ニーバはTTレースの絶好の観戦ポイントだ。90度コーナーのコース脇には、その名の由来のパブレストランが建っている。

TTに勝るマン島の宝

 バラクレインからTTコースを外れ、北西方向に進むとセント・ジョンズという村を経由してピールという港町に至る。
 セント・ジョンズの町には世界最古の議会といわれるティンワルドが開かれたティンワルド・ヒルがあり、1557年に創建されたと言われるセント・ジョンズ教会と共にマン島の歴史的ポイントとして威厳を放っている。


ピール城は、「赤いバラの町」と讃えられるピールの町と共に、赤いサンドストーンで建てられた美しい城だ。アーサー王伝説とモーザ・ドゥーグ(黒犬の怪異)伝説が伝わっている。

 ピールはめぐみ豊かなマン島の港町で、赤色のサンドストーン(砂岩)で造られたピール城とその美しい町並を見ることができる。ピール城は、ローマ皇帝を倒し全ヨーロッパの王になったというアーサー王伝説に記されたアヴァロン島であると言われるロマンに満ちた城だ。

ピール城を見下ろす町中にはヘッジが築かれ、未だに歴史の流れの中に生活があるのだと実感させられる。

スタート地点の公道脇にあるTTマーシャルのピットロードはライダー憧れの場所。


TTコースのスタート地点に向かうダグラスの街中は、カラフルな家並が印象的だ。


マン島の首都ダグラスを見下ろす丘の上に立つと、ブリテン島からのフェリーが入港してきた。




セント・ジョンズの村には、英国国教会と共にバイキングが開いた世界最古の議会といわれるティンワルドが行なわれた丘がある。

 海の恵み豊かなピールには、名産のマンクス・キッパー(ニシンの薫製)があり、1884年創業の「Devereau’s」「Moore’s」という二つの製造元が港のそばの工場で昔からの味を守っている。港のパブで食すことができるマンクス・キッパーをほぐしたペーストを上にのせたパンは絶品の味だ。
 また、バラクレインから南下しフォックスデールという町からコルビーを経由してポートエリンに抜ける山岳道路は、マウンテンコースをもしのぐ絶景の道だ。山裾から山頂までの丘陵には羊が放牧され牧歌的な風景が続き、延々と延びる稜線沿いの道路から見下ろすアイリッシュ海が右に左にと入れ替わる珠玉の風景が印象的だ。


【絶品の味、マンクス・キッパー】




港にあるパブでは、名物のマンクス・キッパーを食することができる。薫製にしたキッパーそのままにレモンを絞って食べたり、身をほぐしてペースト状にしたキッパーをパンに乗せて食べることができる。シンプルだが絶妙な味覚だ。

フォックスデールから島の南部ポートエリンの町に至る丘陵の路は、360度絶景の素晴らしい景色を楽しめる。TTコースに勝るとも劣らない。

見どころ満載、マン島の美しさ

 島の南側にはロナルズウェイ空港と、近くに「カッスルタウン」の街がある。カッスルその名前のとおり町の中心にはラッシェン城が位置し、中世の姿をとどめる町中の道幅は狭く、中心部はバイクですら規制されるほどだ。カッスルタウンにはマン島蒸気鉄道の駅もあり、機関車トーマスのモデルとも言われる可愛らしい蒸気機関車が現役で走っている。




カッスルタウンの駅にはピーッと汽笛を鳴らし、白い煙をあげて蒸気機関車がレトロで可愛らしい客車を引いて来た。 カッスルタウンの象徴ラッシェン城は中世の佇まいを残し、城塔にはマンクス旗が掲げられていた。 カッスルタウンは昔のマン島の首都であり、港町。漁港だった港にはヨットが係留されていた。

 カッスルタウンからポート・セント・メアリーという港町を通り南西に向かうと、マン島の最南端カフ・オブ・マンの見えるサウンドへと至る。サウンドまでの地域はマン島の原風景を色濃く残す場所で、ヘッジ(石垣)に囲まれた家や牧草地と羊が放牧されるカントリーサイドの光景を見ることができる。
 ダグラスの街から海岸沿いを7マイルほど北上するとラクシーという村がある。ここには「レディ・イサベラ」と呼ばれる世界最大の水車がある。自然の水力を使い、鉱山で取れた銀、銅、亜鉛などを掘り出す為に1854年に造られ、現在ではマン島の文化遺産となっている。水車の直径は44mもあり、頂上のプラットホームに登るとその高さに思わず足がすくむ。



マン島の最南端カフ・オブ・マン(小島)を望むサウンドへの道はヘッジに挟まれたマン島の原風景の中を貫く。 世界最大の水車「レディ・イサベラ」はラクシーの村はずれの山中に忽然と姿を現す。その大きさは想像以上だ。

 
 マン島にはその他にもダグラスの街に観光用の鉄道馬車が中心部からダービーキャッスルまでを往復していたり、街の南側からはポートエリンまでマン島蒸気鉄道がスチームエンジンを走らせるなど、観光資源も盛り沢山だ。
 ライダーにとっては外すことができない楽しみと醍醐味を与えてくれるマン島、自然・歴史・文化の宝庫スコットランドという興味深い場所は、何度でも訪れたくなる魅惑のツーリング・スポットだった。
(おわり)


【松下ヨシナリ、バラクレイに没す】




2013年5月衝撃的なニュースがレース界に走った。「日本人レーサー死亡」の見出しは目を疑った。マン島TTレースに三度目の挑戦を試みた「松下ヨシナリ」氏が、予選中にバラクレイのジャンプ時の着地に失敗しコース脇の樹木に激突死したのだ。自ら走り危険な現実を知った現場で、樹に打付けられた銘板に合掌し冥福を祈った。

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