Highland Touring トライアンフで巡るスコットランド、マン島。──Part 1 女王陛下の国をボンネビルで疾走る

 ●レポート&写真:泉田陸男 写真:青山祐介
 ●取材協力:・・・・・・



ヒンクリーから始まる英国ツーリング

 プリンセスの誕生やスコットランドの独立国民投票など、話題のイギリスをツーリングすることができる機会が、トライアンフモーターサイクルズジャパンが企画への協力を快諾してくれたことで実現した。海外でのツーリングにあこがれるライダーは多いだろう、今回のリポートが実現のヒントになれば幸いだ。

トライアンフ本社・工場前にてマシンを受取り、旅への期待が膨らむ。

【Triumphとツーリング装備】




今回Triumph UKが用意してくれたマシンはボンネビル T100とスラクストンの限定モデルだった。同行のカメラマン用とあわせて2台だ。荷物はタナックスのタンクバックGTとフィールドシートバックMFK-101にパッキング。衣類等は預入荷物としてシートバックに、貴重品やカメラなどをタンクバックにまとめて、ヘルメットと一緒に機内持ち込みとした。シートバックは39ℓと2週間分の着替えやウエアー等を入れても十分な大きさだった。このバッグは最大59ℓまで拡大できるので、帰国時に増えた土産物を収納する時も大変重宝した。

 今回のツーリングではコストを抑えることが命題で、渡英には直行便ではなく中東経由の乗継ぎ便を利用することにした。
 それなりに時間はかかるが機体は新型で運賃は安い。下手なヨーロッパ乗継ぎ便を利用するより快適だ。ツーリング中の宿泊はツインやダブルの一部屋で同行のカメラマンと共用して宿泊費を抑えた。
 ヒースロー空港に到着後、トライアンフ本社・工場のあるヒンクリーまではナショナル・エクスプレス・コーチ(バス)を利用してウェリングボローまで移動し、その日はウェリングボローのホテルに泊まった。翌日、ウェリングボローからヒンクリーのトライアンフ本社までは、幸運にも近郊に在住の友人にお願いをして送ってもらうことになった。ゲートの守衛所で車両引取に来た旨を伝え、社屋受付へと向かった。トライアンフの本社・工場は、整然とした広大な敷地に近代的でモダンな建物が建つ印象的なところだった。エントランス前に用意されたマシンのイグニッションを回し、期待のツーリングは始まった。



カフェの前で快くインタビューに応えるウィルスモア氏。 エースカフェの駐車場にいたロッカーズ・ガールズ。


カフェレーサーのルーツ
ACE Café London


 今回借り受けたボンネビルは、言わずと知れたトライアンフの歴史を背負って立つと言っても過言ではないモデル。クラシックテイストを継承させたトライアンフの代表マシンの最新モデルだ。もう一台用意されたスラクストンもトライアンフでは欠かすことのできない歴代からのマシンだが、今回用意されたスラクストンはエースカフェとのコラボモデルで、モダンカフェレーサーといえるマシンだ。
“カフェレーサー”という言葉を知らないというライダーはいないだろう。このカフェレーサーという言葉が生まれた場所が、ロンドン市街の北西部、ノース・サーキュラー・ロードに面したカフェ、エースカフェロンドンなのだ。予てよりエースカフェロンドンを訪ねてみたいと思っていた私には絶好の機会だった。ツーリング開始前にエースカフェに立寄ることにした。エースカフェについては、公式ウェブサイト(URL:)や各種情報誌などにも紹介されているが、1939年にロンドン市街のノース・サーキュラー・ロードに面してオープンしたレストランカフェで、バイカーズ、モーターズ、ロッカーズといった、その時々の若者達に愛されるロードサイド・カフェとして人気を博してきた場所だ。オープンの後、世界大戦中と1969年に閉店したが、ロッカーズとエースカフェを愛する元騎馬警察官だったマーク・ウィルスモア氏によって2001年に復活し、再び若者文化の聖地、発信地として現在も活況を呈している。

マーク・ウィルスモア氏は元騎馬警官でロックンロールとバイクを愛するエースカフェの代表。

 私が訪ねた時、アポイントが無いにも関らずウィルスモア氏が出てきて和やかにインタビューに報えてくれた。
 開口一番、私が不躾に「何故エースカフェを再開したのか?」と尋ねると、彼は笑いながら「自分の居場所(HOME)が必要だったからさ……」と答えた。それは、エースカフェ・ロンドンとウィルスモア氏の存在意義を一言で表す金言だと感じた。その後、彼は私をカフェの2階に連れて行き、そこに飾られたカフェの歴史を写した数々の写真について自ら説明をしてくれた。写真の中には、第二次世界大戦前にカフェの前にあったゴミ捨て場が、大戦後にはそのゴミの山が恰好の小山となり、文字通り草レースが行なわれていたと話してくれた。更に続けて店内に展示されたマシンを指し、1959年に現れた700ccパラレルツインの「ロイヤル・エンフィールド」について、そして1961年のデイリーミラー紙のトップを飾ったことを説明してくれた。その記事は「自殺倶楽部」とタイトルされ、大戦後のモーターブームに日夜繰り返された信号グランプリで、当時オイルなどが散在した劣悪な道路状況とマシンの高性能化によって事故が起きていた問題を報じていた。エースカフェで取材されたこのトップ記事が英国のスピード規制を決定づけたと説明してくれた。ウィルスモア氏へのインタビューの中で、日本のライダーに贈る言葉があれば何かと聞いたところ「エンジョイ・スピード、ビ・ケアフル、ビ・ケアフル」だと重ねて言っていた。


エースカフェ店内に展示されていた往時の人気マシン。右からエンフィールド、スラクストンエース(2014年限定モデル)、ボンネビル、ノートン、BSA。

店内の壁にはイベントポスターが貼られ、カウンターと横長のテーブル、そして欠かすことができないジュークボックスが置かれている。


グラスゴーからハイランドに向けて

 エースカフェでウィルスモア氏にインタビューができたことは、今回のツーリングの良い前兆のように思えた。英国特有といわれる曇りや雨の多い天候といった気配はなく、天気は快晴だ。期待一杯にツーリングの目的地であるハイランドを目指し、イングランドから自動車専用道M6を北上してグラスゴーの街を目指した。Mの付く道路は「モーターウエイ」という英国での高速道路だが、無料で制限速度は70マイル(時速112キロメートル)。日本の感覚で走っていると後ろからビュンビュンと抜かれまくる。英国ではAが付く道路が日本と同様の一般道だが、制限速度は最高で60マイル(時速96キロメートル)と日本の高速道路並みで速い。
 グラスゴーはNHKの朝ドラ「マッさん」で有名な「竹鶴政孝」がスコッチウィスキーの醸造を勉強した「グラスゴー大学」のある歴史的な街で、その街並は日本では絶対に見ることの無い、石造りの濃いベージュに染まった中世に戻ったかのような素晴らしい景観の街だ。私達を待っていたのは、素晴らしい景観とは裏腹に早々のトラブル。古い街並故に駐車場が少なく、ホテルの駐車場が満杯だというのだ。英国では路上にも駐車スペースが割合多く、停めておくことはできるのだが路駐ゆえに盗難も多く、特にオートバイは被害に遭いやすい。そこで、ホテルとの交渉を繰り返しホテル駐車場の車の脇に停めさせてもらうことでようやく決着。勿論こういった駐車場の場合でも、オートバイはハンドルロックだけでなく、自前のチェーンロックを準備しておき、それを架けておくことが必要だ。


往時を偲ばせるグラスゴーの街並は、近代的なスポーツカーも似合う。街角にあるパブにはマッさんも通ったのだろうか。

ハイランドを代表する景勝地グレンコー渓谷は、山々に囲まれた神秘的な雰囲気が広がる不思議な場所だ。

 翌日A82を北上しハイランドでも屈指の絶景と言われるグレンコー渓谷を目指した。グラスゴーを出てしばらくするとロモンド湖を右に観ながら湖脇のワインディングを走る。しばらく湖岸を走りクリフトン・タインドラムという村で右折すると、いよいよグレンコー渓谷へと入って行く。グレンコーとはゲール語(スコットランド地方の言語)で「嘆きの峡谷」を意味し、「グレンコーの悲劇」というイングランドとスコットランドが敵対する原因の一つである歴史的虐殺事件のあった村がある場所だ。映画「007スカイフォール」ではジェームズ・ボンドの生家がグレンコーのスカイフォール(仮名)でMを狙う宿敵と戦う場面として登場する。

 日本では観ることの無い岩肌を剥き出しにした禿げ山が延々と続き、急峻な山の斜面には雨や雪解け水に削られた痕が刻まれている。今にも中世の騎士が襲いかかってきそうな神秘的で不思議な光景が続いていた。
 グレンコーを走行中もハイランドの天候としては、稀といわれる晴天だったけれど、走行中のライディング・ジャケットの下には冬用のインナージャケットを付けてちょうど良いという気温だった。グレンコー渓谷を進んで行くと、その右手にはブリテン島の最高峰(標高1344m)ベンネービスを望ことができる。そして更に荒涼とした谷間をフォート・ウィリアムに向けてマシンを走らせた。


グレンコーの風景を象徴すると言われるブラックロックコテージ。厳しい自然を背景の荒々しい山が物語る。


ハリーポッターの世界

 グレンコーを抜け、この日の宿のある「フォート・ウィリアム」を目指す。途中からスコットランドに来て初めての雨が降り出し慌ててカッパを着込んだ。日本でいうシトシト雨に近く、シールドに付く水滴を常に拭いながら走るといったほどではないので苦になることはなかった。フォート・ウィリアムに到着した時には、まだ日が高く(夏場は午後10時頃までは明るい)、グレフィナンを下見することにした。


グレフィナン陸橋を「ホグワーツエクスプレス」さながらにウエストハイランド鉄道の人気列車「ジャコバイト号」が駆け抜ける。 グレフィナン陸橋は全長380m、高さ30mと巨大な高架橋だ。

 グレフィナン陸橋は映画「ハリー・ポッターと秘密の部屋」でホグワーツ魔法学校に行く途中の場面で使われ有名になった鉄道高架橋だ。現在も現役のウエストハイランド鉄道で使われている鉄道橋だ。スチームエンジン(蒸気機関車)「ジャコバイト号」が運行されていて、その勇姿を見る為に通過時間を確かめに陸橋近くのグレフィナン駅に時刻表を見に行った。駅に行ってみると、映画で有名になったことで観光客が増えたせいか、駅舎ではハリーポッターの土産物が売られ、構内にはダイニングカー・レストランがオープンしていた。高架橋は駅から少し離れており、高架橋近くの駐車場から徒歩でしか近づくことはできない。列車の時間を確かめた後、ホテルに戻り翌日に備えた。


グレフィナン駅の銘板がメルヘンチックだった。

 翌日もまた晴天で快適な走りが期待できそうな朝だった。前日、下見をしておいた駐車場にバイクを停めて徒歩で陸橋へと向かい撮影ポイントを探したのだが、陸橋の下にたどり着いてみるとその高さは半端では無い。さすがにベストセラー映画の人気ロケ地だけあって観光客が列を成して歩いていた。鑑賞ポイントを探して山の斜面を汗だくになりながら登り陸橋を見渡せるポイントに着くと、間もなく山間から「ピーッ」という汽笛が聞こえて、スチームエンジンが陸橋に姿を現した。皆、気分は完璧にハリーポッターだった。正しくホグワーツ・エクスプレスが走り抜けていくシーンが目の前に繰り広げられている。列車が通り過ぎても興奮が覚めやらず、皆その場にしばし立ち止まっていたが、静けさが戻ると次の目的地を目指し散開していった。我々も同様に、次なる目的地を目指してイグニッションを回した。(つづく)

【防水・防滴カメラが最適】



FUJIFILM X-T1

ツーリングの想い出を残す為のカメラは欠かせない。今回使用したカメラは、色再現や立体感の造詣の研究が尽くされた、富士フイルムのX-T1。高性能デジタル一眼レフカメラにもかかわらず、コンパクトで防塵・防滴・耐低温-10℃のタフネス性能なのでバイクツーリングには最適だ。


【ブルートゥースインカムは必携】


SENA 20S

携行したいツーリング・アイテムの筆頭がブルートゥース・インターコムだ。セナ20Sは最新のノイズリダクション機能により高音質な会話ができ、通話距離も見通しが良い場所では2kmにもなるのでストレスを感じることがない。ブルートゥースなので携帯やナビとのペアリングも可能なのでツーリングには大変便利だ。

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